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日外会誌. 122(1): 38-42, 2021

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特集

肺・胸腺神経内分泌腫瘍の治療

6.小細胞癌の治療

大分大学 呼吸器・乳腺外科学講座

宮脇 美千代 , 小副川 敦 , 杉尾 賢二

内容要旨
肺の小細胞癌は肺癌全体の10~13%を占め,神経内分泌腫瘍の中でも悪性度が高く,予後不良の悪性腫瘍である.殺細胞性抗癌剤による全身療法が主たる治療であるが,リンパ節転移や遠隔転移を伴わない早期症例は手術が選択されることがある.国内外のガイドラインでも,手術適応は限局型(LD)のうちⅠ-ⅡA期(UICC-TNM第8版)に限られ,完全切除後に化学療法を追加することで長期生存が期待できるようになった.手術症例の成績は,5年生存率が30~50%,MSTで16~48カ月と比較的良好な成績が報告されている.術後の化学療法は,CDDP+etoposide(EP)を4コースが標準治療とされている.最近の臨床試験(JCOG1205/1206)でも術後CDDP+irinotecan(IP)のEP療法に対する優越性は証明されなかった.切除不能Ⅰ期に対しては定位照射(SBRT)の良好な局所制御に関する成績が報告されている.一方,進展型小細胞癌(ED)に対する標準治療は,わが国では臨床試験の結果,IP療法が強く推奨されている.また近年,ED小細胞癌に対する一次治療にCBDCA+etoposide(CE)+Atezolizumabが適応になり,選択肢が増えた.今後,精密な分子診断と新たな薬物療法の開発により癌の制御が可能となる日が来ることを期待したい.

キーワード
小細胞癌, 限局型, 進展型, 手術適応, ガイドライン

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I.はじめに
肺の小細胞癌は喫煙と強く関連する組織型であり,近年の喫煙率の低下に伴い減少傾向にあるものの,肺癌全体の10~13%を占め,増殖速度が速く,早期にリンパ節転移や遠隔転移を呈した状態で発見され悪性度の高い腫瘍である.一方,薬物治療や放射線治療への感受性は高いが,概して予後不良である.早期に発見されることは稀ではあるが,外科治療の適応も考慮されているとともに,周術期化学療法や放射線療法が重要である.

II.分類と一次治療の標準治療(肺癌診療ガイドライン)
小細胞癌は,2015年発行のWHO第4版の組織分類改訂で神経内分泌腫瘍の一亜型に分類された.本特集の病理の項で解説されているので参照されたい.
肺癌のUICC-TNM分類は,小細胞癌にも適用され,特に外科治療の適応には重視されている.一方,従来から治療方法の観点から,限局型(limited disease:LD)と進展型(extensive disease:ED)の分類が臨床的には用いられている.LDは,「病変が同側胸郭内に加え,対側縦隔,対側鎖骨上窩リンパ節までに限られており,悪性胸水,心嚢水を有さないもの」と定義され,それ以上をEDとしている.
EBMに基づき,かつGRADEシステムに対応した肺癌診療ガイドラインによる一次治療のガイドラインを図1に示す1).手術適応のあるのはⅠ,ⅡA期(第8版)のみであり,それ以上では,LDでは化学放射線治療もしくは薬物療法,EDでは薬物療法が標準治療となる.小細胞癌における薬物に結び付くドライバー遺伝子はなく,したがって分子標的治療の適応は今のところない.近年適応が拡大している免疫治療は一部の免疫チェックポイント阻害剤が肺小細胞癌にも適応となったが,最後の項で述べる.

図01

III.手術適応と手術成績
LDに対する標準治療は化学放射線療法とされているが,臨床病期Ⅰ-ⅡA期(第8版)については,完全切除後に術後化学療法を追加することで長期生存が期待できることが報告されている.1990年以降に報告されたデータで,LD(Ⅰ-Ⅲ期)に対する外科治療を含む治療成績は,5年生存率が30~50%,MSTで16~48カ月と2)4)比較的良好な成績が報告されている.また,LDにおける非切除例との比較において,Weksler5)らは,Ⅰ期でMST 38カ月vs 16カ月,Ⅱ期でMST 25カ月vs 14カ月と手術例で良好で,Badzio6)らもMST(Ⅰ-Ⅲ期)22カ月vs 11カ月と手術例での良好な成績を報告している.また,本邦で行われた,外科治療後にCDDP+etoposide(EP)による薬物療法の有用性を検証する第2相試験(JCOG9101)の報告7)では,臨床病期Ⅰ期(44例),Ⅱ期(9例),ⅢA期(18例)の3年生存率はそれぞれ68%,56%,13%であり,局所再発はⅠ期35例中2例のみであり局所コントロールも良好な成績であったため,外科治療+術後薬物療法〔CDDP+etoposide(EP)療法4コース〕が標準治療とされている.Ⅰ期の術後治療に関するコホート研究で外科治療単独より術後化学療法を施行した群で有意に予後良好であり,多変量解析で術後化学療法または術後化学療法+予防的全脳照射(PCI)で有意に予後良好であることが報告されている8).術式では,肺葉切除以上の術式が,部分切除術と比較して予後良好であると報告されている5)
外科治療と化学放射線療法との直接比較試験は行われていないため,エビデンス上は明確な適応とは言えないが,上記のデータから,現在の第8版臨床病期Ⅰ-ⅡA期の小細胞癌に対しては手術療法を行うことが推奨されている.
2013年に始まった「高悪性度神経内分泌肺癌完全切除例に対するCDDP+irinotecan(IP)とCDDP+etoposide(EP)のランダム化比較第3相試験(JCOG1205/1206)」の結果が,2020年のASCOで報告された.この試験は,小細胞癌と大細胞神経内分泌癌およびその混合型のⅠ-ⅢA期(第7版)が対象であったが,primary endpointのrelapse-free survival(RFS)でIP療法の優越性は証明されず,組織型別にみても同等であった.したがって,術後化学療法としては,従来通りCDDP+etoposide(EP)療法が標準治療とされた.
実臨床においては,全国がんセンター協議会加盟施設の2009年~2010年診断分の統計データ(がんの統計2019)9)によると,肺の小細胞癌の病期別頻度は,臨床病期Ⅰ期12%,Ⅱ期7%,Ⅲ期34%,Ⅳ期47%であり,多くの場合,局所進行あるいは遠隔転移をきたして発見されることを示している.また,5年相対生存率はⅠ期61.8%,Ⅱ期35.7%,Ⅲ期17.2%,Ⅳ期2.3%であり,症例数は少ないものの,手術症例に限るとⅠ期(217例)65.7%,Ⅱ期(49例)49.4%,Ⅲ期(27例)42.9%と報告されている.概して悪性度が高く予後不良であるが,比較的早期の手術例では予後良好で長期生存する症例もある.また実際には2cm以下の術前組織未診断のcT1N0M0の多くは術後の病理診断で初めて小細胞癌であることが明らかになる場合がほとんどであり,術後化学療法が追加されている.

IV.LDに対する放射線治療
LD症例,特にcT1N0M0の切除不能例に対する標準治療は定まっていないが,小細胞癌は放射線感受性が高いことから,近年,定位照射(Stereotactic Body Radiotherapy:SBRT)の良好な局所制御に関する成績が報告されている.日本のJRS-SBRT study groupのⅠ期小細胞癌に対するデータ10)では,43例(ⅠA:31例,ⅠB:12例)を対象に48-60 Gy/4-8 fractionが行われ,2年の全生存率,無増悪生存率,遠隔転移制御率は,72.3%,44.6%,47.2%と報告され,2年局所制御率は80.2%であった.米国の多施設コホート研究では,Ⅰ期74例に48-60 Gy / 3-5 fractionが行われ,3年の全生存率34.0%,無増悪生存率64.4%で,3年局所制御率は96.1%であった8).いずれの試験でも化学療法併用の成績が良好であった.SBRTの症例数は未だ十分とはいえないが,安全性と良好な局所制御が示されており,切除不能症例における標準治療である化学放射線療法にSBRTを採用することは有用といえる.

V.国外のガイドラインの推奨
The American College of Chest Physicians(ACCP)による小細胞肺癌の診療ガイドライン201311)においても,慎重に選択されたstageⅠの小細胞癌に手術は適応とされている.ACCPガイドラインでは,小細胞癌における手術の役割は大規模な人口データベースを使用して分析されている.米国のSurveillance Epidemiology and End Results(SEER) Databaseにおける1988年から2002年までの研究では12),手術を受けた863人(6.1%)を含む14,179人の小細胞肺癌患者が登録された.手術群の生存率は,LD,EDともに非手術群より良好で,生存期間の中央値はLDで42カ月vs. 15カ月(p<0.001)およびEDで22カ月vs. 12カ月(p<0.001)であった.同様にSEERデータベースの2004~2014年の小細胞癌ⅠA-ⅡB期2,246例の解析で,MSTは,手術例(n=618)で35カ月,非手術例(n=1,628)で19カ月と報告され,propensity score matchingを行っても手術例が予後良好であると述べている13)
NCCNガイドライン2021 ver.1では,臨床病期Ⅰ-ⅡAに対しては肺葉切除とリンパ節郭清を推奨し,術後病理学的にN0は化学療法,N1は化学療法±縦隔照射,N2は化学療法+縦隔照射を推奨している.

VI.進展型小細胞癌の治療
ED小細胞癌に対しては,EP療法との種々の薬剤とのランダム化比較試験が行われ,EP療法の奏効率と生存率が良好で,かつ有害事象が低かったことから,世界的にEP療法が標準治療とされてきた.わが国においては,70歳以下のPS0-2を対象としたEPとIPとのランダム化比較第3相試験(JCOG9511)14)が行われ,IP群で有意な全生存期間の延長(12.8カ月 vs. 9.4カ月,p=0.002)が示された.欧米で行われた追試ではJCOG9511を再現できなかったが,複数のメタアナリシスでIP療法が有意に良好であり,本邦ではIP療法が標準治療となり強く推奨されている.71歳以上のED小細胞癌に対しては,IP療法のエビデンスはなく,EP療法が推奨されている.PS3症例に対してはCBDCA+etoposide(CE)療法あるいはsplit EP療法15)が弱く推奨されている.

VII.今後の展望,新たな治療戦略
進行肺癌に関しては,分子標的治療の開発により非小細胞肺癌,特に腺癌の治療は飛躍的に向上した.しかしながら,小細胞癌の治療は殺細胞性抗癌剤のみであり,その使用方法や組み合わせにより新たな治療が模索されてきた.
1992年に本庶らにより発見されたPD-1分子に始まった免疫チェックポイント阻害剤(ICI)の開発により,2015年に非小細胞肺癌に適用となり癌治療が一変した.小細胞癌に対しては2019年に抗PD-L1抗体であるAtezolizumabが承認された.これは,ED症例のPS0-1を対象にCBDCA+etoposide(CE療法)+Atezolizumab併用療法後にAtezolizumab維持療法を行う群とCE療法+プラセボ群を比較する第3相試験(IMpower133)である.奏効率は,Atezolizumab併用群で60.2%,プラセボ群で64.4%と同等であったが,併用群はプラセボ群に比較し,全生存率(12.3カ月vs 10.3カ月,HR 0.70, p=0.007)とPFS(5.2カ月vs 4.3カ月,HR 0.77, p=0.02)の有意な延長を認めた16).この結果から,ED小細胞癌に対する一次治療にCE+Atezolizumabが推奨されるようになった.今後,他のICIや,ICI同士の併用療法(Nivolumab+Ipilimumab)などの治療法も期待されている.

VIII.おわりに
肺の小細胞癌は急速に進展し全身疾患となる悪性度の高い腫瘍である.しかしながら,早期の症例においては手術により根治できる例や長期生存が期待できるものがある.現在の画像診断に加え,より精密な分子診断(Precision diagnosis)によって局所に留まる小細胞癌症例が診断できると,手術の適応がより明確にされると考える.一方,新たな薬物療法の開発により癌の制御が可能となる日が来ることも期待したい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 特定非営利活動法人日本肺癌学会. 肺癌診療ガイドライン2019年版. https://www.haigan.gr.jp/guideline/2019/1/3/190103000000.html
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