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日外会誌. 122(1): 5-6, 2021

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理想の男女共同参画を目指して

日本外科学会女性理事としての役割

高槻赤十字病院 

平松 昌子

内容要旨
今回日本外科学会発足後,初めての女性理事に選任いただいた.加えて男女共同参画委員会の委員長を拝命した.本委員会のこれまでの活動を振り返るとともに,筆者の今後の果たすべき役割を考え,抱負を交えて述べたい.

キーワード
日本外科学会, 女性理事, 男女共同参画委員会

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I.はじめに
2020年4月より,日本外科学会理事を拝命致しました.本学会発足以来,初めての女性理事として,順天堂大学の齊藤光江教授とともに選任頂きましたことは,大変光栄なことであると同時に,その重責を痛感しております.
そしていくつかの委員会メンバーに加えて頂く中で,「男女共同参画委員会」の委員長就任も仰せつかりました.今後の抱負を交えながら,所感を述べさせて頂きます.

II.日本外科学会男女共同参画委員会発足の経緯とこれまでの活動
この委員会は,日本外科学会将来計画委員会内に設置された「アクションプラン・ワーキンググループ」でまとめた「女性外科医の会(仮称)」発足を目指して,2007年に女性外科医支援委員会として新設された.初代の委員長は寺本龍生先生が務められた.2009年11月20日,日本女性外科医会の発足式が行われたのは,奇しくも私の所属する大阪医科大学一般・消化器外科の谷川允彦教授(当時)が会長を務められた,第71回日本臨床外科学会の会期中のことであり,当時のことは私の記憶にも残っている.
その後平田公一先生,前田耕太郎先生,中村清吾先生へと委員長は受け継がれ,2014年からは「男女共同参画委員会」と名称を変更し,新たな活動を開始し現在に至っている.
本委員会の活動としては,まずこれまでに,女性外科医の実態や労働環境の把握のため,いくつかのアンケート調査を行ってきたことがあげられる.このうち「日本医学会分科会における女性医師支援の現況」に関するアンケート調査は,過去3回にわたって経時的に繰り返されており,女性医師を取り巻く環境の変遷をうかがう貴重な資料といえる.
さらに「日本外科学会雑誌」の本企画「理想の男女共同参画を目指して」の執筆者を決定し,定期的に原稿をあげてきた.これは男女共同参画に関する啓蒙,および永らく男性社会であった日本外科学会会員の意識改革に,大いに貢献してきたものと思われる.
その他,定期学術集会における関連セッションの企画や,他組織との連携など,様々な活動が行われてきた.

III.これからの男女共同参画のあり方
このような先輩諸氏のご尽力により,外科領域における女性医師を取り巻く環境も,ここ十数年で少しずつ改善の方向に向かってきた.日本外科学会会員のうち女性が占める割合は8%を超え,子育てをしながら外科医を続けている女性も,少なからず見かけるようになった.しかし彼女達が男性と同様のキャリア・ステップを歩むために,負わなければならない仕事量や努力量は,他科に比べるとまだまだ大きい.
一方最近では,男性医師が子どもの送り迎えや有休を取っての学校行事参加,あるいは育休をとることさえも決して珍しくはなくなってきた.しかしながら外科医である男性にとっては,この辺のハードルはまだ幾分高いようである.女性医師支援の流れが,男性医師の負担増や不公平感をつのらせる結果に終わっては本末転倒である.また,この種の話題に男性が口を挟みにくい,あるいは異を唱えにくい雰囲気が生じることも,双方にとってマイナスである.男女両方が「ワーク」も「ライフ」も大切にできる働き方を協働して作り上げることが,本当の意味での男女共同参画である.
男女共同参画委員会においては,これまでの活動を継承しつつ,今後さらなる外科医の労働環境改善に向けて,具体的で効果的な方略を検討していきたい.会員の先生方から様々なご意見やアイデアをいただければ幸いである.

IV.日本外科学会のなかで果たすべき役割
2003年に政府が掲げた「202030」,すなわち2020年までに指導的地位における女性の割合を30%にするという目標は早々に断念され,なおかつ2020年における日本のGender Gap Index;0.652は世界で121位と,前年よりさらに11位順位を下げて史上最低となった.本邦全体がそのような状況の中で,医学界,特に外科領域では,ひときわ高く分厚いガラスの天井が,永らく続いてきたと言わざるを得ない.
男女共同参画を推進させるためには,発言力を持ったポジションに女性を登用することは,重要な戦略の一つである.しかし全国規模の主たる外科系学会でも,2学会(日本臨床外科学会,日本乳癌学会)以外にこれまで女性役員は皆無であった.今回外科の基盤学会である日本外科学会が,2名の女性理事を採用してくださったことは画期的な前進であり,ご尽力いただいた先生方には心より感謝申し上げたい.
森正樹理事長が「会員へのメッセージ」で述べられたように,日本外科学会は今,1.若手外科医の増加策,2.専門医プログラムの早期確立,3.外科医の働き方改革,4.国際化の推進,5.女性外科医の活躍,6.学術集会の在り方,をはじめとした様々な課題に取り組んでいる.これら全ての分野において,女性の視点や意見を取り入れることは,もはや不可欠である.特定の性別だけでなく,外科医全体の未来を見据えて,日本外科学会は発展していかなければならない.
コロナ渦で各種委員会がリモートや書面会議になり,筆者自身は少々ジレンマを感じつつもあるが,新しいスタイルの中でも積極的な活動を目指していきたい.

V.おわりに
若手医師に外科の魅力を正しく伝え,地域や男女を問わず外科医がやりがいを持って働き続けられる環境を整えるよう,微力ながらも尽力していきたいと考えています.会員の先生方のご指導,ご支援をいただければ幸いです.

 
利益相反:なし

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