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日外会誌. 122(1): 2, 2021

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会員へのメッセージ

臨床研究セミナー―日本外科学会総会プログラムとなって15年―

日本外科学会特別会員,日本外科学会臨床研究セミナー顧問,公益財団法人循環器病研究振興財団理事長,国立研究開発法人国立循環器病研究センター名誉総長 

北村 惣一郎



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外科学における臨床研究は永い間,手術治療法の経験的成果の集積として築かれて来た.近年,手術法の多様化,医療機器の著しい発達や薬物療法の発展等も目覚ましく,正確な対照比較群を持ち,統計学的に適正なevidence levelに基づく治療法の選択に関するrecommendation levelが提唱され,ガイドラインに基づく医療が求められるようになった.これらの比較研究の成果は,①患者の治療成績を向上する②外科医の診療行動を変える③社会保険制度や医療政策・法律を変える等の力を持っている.
一方,わが国の臨床研究においてミスコンダクト(研究不正)が告発され,大きな社会問題となり,2017年4月には「新・臨床研究法」が成立した.医師主導研究,企業治療,特定臨床研究などへのハードルが高まる中で,新しい臨床研究の出願数は激減しており,日本医学会も大いなる懸念を示し,法改正を求める提言を出すに到っている.政府,社会の動きに注視しながらも,外科医は「外科学を科学する」臨床研究を続けねばならないし,少なくとも研究心を持ち続ける必要がある.
臨床研究の中で最もevidence levelの高いものはrandomized clinical trial(RCT)であるが,必ずしも従来の臨床成果の集積エビデンスより優るとは限らない.1例として,心臓バイパス手術における内胸動脈グラフト(ITA)の選択がある.ITAの有用性について他グラフトとのRCTは禁止された.理由はITA非使用患者群が受ける損失が大きいと判断されたためであり,RCTは行われていない(class B)が,その使用は全ての症例群に対してクラスIとⅡa推奨されている.
この様な背景で,私は広く会員に「臨床研究」の意義と方法論等を普及させたく思い,2003年第103回日本外科学会定期学術集会会長加藤紘之教授(北海道大学)にお願いし,札幌市において第1回臨床研究セミナーを開催させて頂いた.その後,「臨床研究セミナー」は日本外科学会の正式な会員向け教育プログラムとして位置付けられ,早や15年が経過した.この間,前原喜彦,桑野博行,藤原俊義教授らが臨床研究推進委員長として就任,プログラムを強力に推進され,その成果も顕著になって来ている.また,2013年の第11回セミナーからは日本臨床外科学会でも開催されるようになり,年2回の教育プログラムと発展している.この間,私は永年に渡り「特別発言」の機会を与えられ,多くのことを学ばせて頂いた.今年で私も80歳を迎えましたので,今回(第24回セミナー・第120回日本外科学会定期学術集会)でその役を終わらせて頂くことに致しました.
今後とも日本外科学会,日本臨床外科学会における本セミナーが会員に役立つ教育プログラムとして,また外科臨床研究の活性化の重要なインフラ構造として発展されることを祈念いたします.永年に渡り御支援下さいました日本外科学会および日本臨床外科学会の歴代理事長,会長,セミナー委員長,セミナー委員,会員各位に厚く御礼申し上げます.ありがとう御座いました.

 
利益相反:なし

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