日外会誌. 121(6): 694-696, 2020
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」
7.ダイバーシティ時代の女性医師の育成と支援―九州大学病院のキャリア支援策と当科における女性外科医師支援の現状と取り組み―
1) 九州大学大学院医学研究院 臨床・腫瘍外科 永吉 絹子1) , 樗木 晶子2) , 藤田 逸人1) , 永井 俊太郎1) , 武冨 貴久子3) , 藤野 ユリ子4) , 中村 雅史1) , 赤司 浩一5) , 石橋 達朗6) (2020年8月14日受付) |
キーワード
ダイバーシティ, キャリア支援, 大学病院, 女性外科医
I.はじめに
ダイバーシティを認める昨今において,医療界全体で女性医師に対するキャリア支援が進められている.一口に女性医師のキャリア支援といっても,施設の規模や利用者の背景で求められる内容は大きく異なってくる.多くの診療科を有する大学病院規模の大病院と一つの医局ではニーズが異なるため,それぞれの特性に合わせた支援策が必要となる.今回,著者が所属する九州大学病院と九州大学臨床・腫瘍外科の異なる支援策について提示したい.
II.九州大学病院のキャリア支援策
九州大学病院では,全国的にも息の長い大規模なキャリア継続支援体制を構築しており,その実績は高く評価されている.2007~2009年度の文部科学省大学改革推進事業の採択により女性医療人教育研究実践センターを設置し,再就職・就業継続支援活動を開始した.2010年度からは自主財源による「九州大学病院きらめきプロジェクトキャリア支援センター」に発展し,男女に拘わらず医師・歯科医師を対象としたキャリア継続支援を展開した.2020年現在は臨床教育センター内に再編成され,ライフイベントによる研修として同事業を継続している(図1).本プロジェクトは1)短時間非常勤勤務制度による就業継続・復職支援,2)スタッフ交流によるネットワーク構築,3)講演会等による啓発活動,4)eラーニング教材配信・支援活動の情報発信,5)学生に対する性差医学やプロフェッション教育,6)外部支援組織との連携や就労状況・現状調査,を主な取り組みとしている.主力となるのは学術研究員としての雇用枠を利用した非常勤勤務制度である.利用者はプロジェクト所属の学術研究員として病院に雇用されるため,院内の希望部署・診療形態・時間帯で勤務することが可能となる.この非常勤人事枠は医局の定員外となり,利用者が医局に経済的・人事的負担をかけることなく,希望する分野・勤務形態で復職・勤務継続することができる.この制度の利用者は医局定員枠に上乗せした労働力となるため,利用者のみならず医局にとっても有益となると考えられる.労働力が増える結果として多忙な診療現場にゆとりをもたらし,職場環境全体の改善に繋がることが期待される.今年で設立13年が経過し,これまでに130名の医師・歯科医師が本プロジェクトを利用した.本プロジェクトが多くの診療科に周知され,活用されている(図2).平均年齢は34.3歳で,利用動機は育児が8割を占めていた.利用期間には3年の上限を設けているが,平均利用期間は1年8カ月であった.利用終了後も88.6%がキャリア継続への意欲を維持しており,利用者のキャリア継続に大きく貢献している1).一方で,当院の上級職位についている女性の割合は依然として低く,労働力の確保・人材育成・多様な個性の人材確保につながるポジティブ・アクションを更に推進する必要があると考えられた.
III.九州大学臨床・腫瘍外科の女性医師の現状と支援への取り組み
当科に所属する女性医師は増加傾向にあり,近年では新入局者の25%を占めている.女性医局員の67%は既婚者であり,ライフイベント後も外科医としてキャリア継続を希望する若手女性医師は多い.しかしながら,若手女性医師にとってライフイベントと外科医としての修練時期が重なることはキャリア継続の上で問題となっている2).当科では,多様な背景をもつ外科医の教育に注力される中村教授の理念の下,女性を含む若手外科医の教育と支援体制構築に力を入れている.
産休・育休後の女性医師には個々の家庭状況を踏まえ,仕事に対する意欲や希望する業務形態・勤務時間を考慮し,適した勤務先や勤務形態を提案している.外来勤務を主とした非常勤勤務から執刀や入院管理も行う常勤勤務まで,幅広い勤務形態の選択肢を提示している.すでに医局内には常勤・非常勤含めロールモデルとして働く女性医師も多く存在しており,若手女性医師のキャリア継続やモチベーション維持に貢献している.また,専門医取得へ向け修練状況を加味した勤務配置や産休・育休後の大学院生の研究支援・サポート体制の整備も積極的に行っている.増えゆく女性医師の支援体制の構築に加え,女性医師のみならず,支援する周囲医師の就労環境改善への配慮が今後の課題と考えられた.
IV.おわりに
九州大学病院と九州大学臨床・腫瘍外科の女性医師キャリア支援策を提示した.施設の特性・個々の多様な背景・多様なニーズに沿った支援策がダイバーシティ時代におけるキャリア支援に求められている.規模の異なる機関における支援体制を活用することで,女性医師のキャリア支援は継続しやすくなり,それぞれの機関の支援体制のさらなる発展が見込めると考えられた.
利益相反:なし
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