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日外会誌. 121(6): 692-693, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(2)「夢を実現し,輝く女性外科医たち―求められるサポート体制と働き方改革―」 
6.地方外科から発信するダイバーシティ・インクルージョンを目指した取り組み

徳島大学 外科学

髙須 千絵 , 島田 光生 , 吉川 幸造 , 宮谷 知彦 , 西 正暁 , 徳永 卓哉 , 柏原 秀也 , 武原 悠花子

(2020年8月14日受付)



キーワード
WLB, キャリア支援, Academic surgeon

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I.はじめに
一般的に女性外科医にとっての障害は,Work・Life・Balance(WLB)のとりにくさ,特にLife eventと仕事の両立の難しさ,モチベーション維持の難しさ,出産後の復職が難しいことなどが挙げられる.それらのサポートとしては,短時間労働や,当直免除,院内保育園の充実などが行われており,業績のサポートとしてpositive actionや,また様々な復職支援の取り組みが行われている.しかし実際の現場において女性医師支援がなかなか進まない理由は,女性医師と一言でいっても,その背景や価値観,家族環境などが様々で,一様なサポートでは対応できないということがある.また,女性医師への支援だけでは,特にチームプレーが必要な外科においては,他の医師への負担や不公平感が生まれやすいとも言われている.つまり女性医師だけではなく,男性医師も含めた多様性・Diversityをどういかしていくかが女性医師支援の肝となってくると言える.外科においても,年齢や性別,家族構成等も含めたそのライフスタイル,価値観やポジションなど多様な背景をもった医師がおり,男女という枠だけではなく,その多様性をどう生かすかが重要と言える.

II.Diversity & Inclusion
ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity&Inclusion)とは,組織の中で多様性・Diversityを高めるだけでなく,そこに属する人が個人として尊重され,その違いを活かし,力が発揮できるように積極的に環境整備や働きかけを行っていこうという考えである.当科では,組織として最大限に個々の能力を生かし,引き出すことを念頭に医局作りを行ってきた.その中で,WLBなど医局員のQOL(quality of life)の確立だけではなく,多様性を生かすことによる業務の効率化と業績向上を目標とし,システム作りを行ってきた.女性医師支援に関しても,支援だけではなく,どう女性医師に貢献してもらうかといったことも考え当科では医局運営を行っている.

III.WLB確立にむけた取り組み
WLBと一言でいっても,そのLife stageによって,問題点やその傾きはことなるため,stageに合わせた取り組みが必要となる.
外科医の基本となる働き方として,プライベートを犠牲とした長時間労働が問題となり,根本的な働き方改革が必要となる.当科では,約10年前より主治医制廃止の取り組みを開始し,現在では複数担当医によるチーム診療を行っている.夜間や時間外はon callが対応するシステムを確立し,夏休みに加えて冬休みをとる年2回の休暇システムを導入している.さらに,徳島大学では初の取り組みとして,時間外の患者説明の廃止を始め,主治医制ではなくチーム制であることもあわせ,患者に周知を行い徹底している.チーム性でも医療の質を保つために,グループ回診を行い,患者の状態を全員で情報共有するよう徹底している.
女性に特化したWLB支援としては妊娠後,急激にライフへと傾くバランスをいかに,仕事側へと戻しキャリアを継続させるかが鍵となる.妊娠に伴う体力的問題,産休育休中のポジションや,保育園問題など数多くの問題があるが,当科が最も重要と考えているのが,キャリアの明確化である.当科では,推奨するキャリアプランを提案することで若手医師の将来設計の明確化を行っている.専攻医時代に社会人大学院に入学し,臨床経験を積みながら研究も行い,専門医と学位の獲得を早期に目指すものである.そして,女性医師に関しては特に,Life event前に手術以外で貢献できる力を持てることを意識した研究内容(他基礎研究室との連携など)を提案することで,Life event後も業績を落とさずにバランスを維持できるよう医局として工夫を行っている.

IV.早期キャリア形成
当科のキャリア形成のコンセプトは,Harvey Williams Cushing氏が提唱したAcademic surgeonである.若手時代に大学院でacademicな視点を身につけることで,多くの女性医師も学位を取得し,国内・国際学会問わず積極的に発表を行い,年間スケジュールとチェック表を作成し,戦略的にキャリア形成を行うことで,自身の業績をもとにポジションを獲得している.また,学位に加え留学もキャリア形成の大きな柱として,金銭的援助も含め医局で支援することで,これまで入局者の約40%(16名,うち女性医師2名)が留学を経験している.男性と同様に女性医師も早期からキャリアを構築することで,Life event後も業績の維持が可能であり,当科では女性医師1名が徳島大学のpositive actionで助教から講師へと昇進し,また1名が日本消化器外科学会の評議員となった.

V. おわりに
女性医師支援には,働き方改革や早期教育などが必要であるが,その根底としては多様性を尊重し,個々の特性を生かした組織貢献を考えるDiversity & Inclusionの考えが重要と考えられる.また今後は,女性医師自身も組織に役立つ人材であり続ける覚悟や努力を示すことも必要と考えらる.

 
利益相反:なし

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