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日外会誌. 121(6): 675-677, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
10.ソーシャルメディアとウェブ会議システムを併用した新しい手術教育システムの開発

1) 九州大学大学院 消化器・総合外科
2) 群馬大学大学院 消化管外科
3) 札幌医科大学 消化器・総合,乳腺・内分泌外科
4) 国立病院機構大阪医療センター 外科
5) 国立がんセンター東病院 消化器内科
6) 静岡がんセンター 
7) 横浜市立大学 臨床統計学
8) 熊本大学大学院 消化器外科

沖 英次1) , 佐伯 浩司2) , 竹政 伊知朗3) , 加藤 健志4) , 谷口 浩也5) , 山崎 健太郎6) , 山中 竹春7) , 吉野 孝之5) , 馬場 秀夫8) , 森 正樹1)

(2020年8月13日受付)



キーワード
ウェブ会議, SNS(ソーシャルネットワーキングシステム), ビジネスチャット

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I.はじめに
いまや小学生でもウェブ上で見ず知らずの相手とゲームをする時代である.若手医師は,ウェブ上で,初めて会った医師同士で議論することにあまり抵抗を感じなくなっている.また,最近ではウェブ会議システムの普及が進み,手術動画を使ったウェブ形式のカンファレンスも行われるようになってきた.私たちは,もっと自由な形態でウェブ上で手術手技の議論ができる教育システムが確立できないかと考え,ビジネスチャットとウェブ会議を組み合わせた独自のシステムを2019年4月から運用している.

II.一般化したウェブ会議システム
最近ようやく一般化してきたウェブ会議システムには様々な種類がある.よく使われるZOOMやMicrosoft TEAMSはクラウド型ウェブ会議システムで,一度ソフトをダウンロードすれば共通のURLからブラウザを介して会議に入ることができる.両者とも無料で使用できることから広く使用されるようになった.ただ後者のTEAMSは本来チャットツールであり,チャットツールにウェブ会議システムが付随した形になっている.後述するビジネスチャットとの組み合わせという点では,最初からチャット機能があることが大きな特徴である.その他,これらとは異なりブラウザから直接会議に入ることができるGoogle Meetというシステムも使用されるようになってきた.Google Meetはブラウザ上で会議を行うシステムであり,新たなソフトのダウンロードが必要ない.このほか,以前から使用されているWebEX, BlueJeans, Skypeなどのシステムもある.ちなみにテレビ会議とは,会議専用のビデオカメラを会議室同士で繋いで行うものなので,ネット回線のみで行うウェブ会議とは根本的に異なる.
これまでも,医学的分野でも臨床試験の会議や,一部の学会の委員会でウェブ会議のシステムが使われていた.しかしコロナ禍となってからは,緊急事態宣言や出張の自粛により集まって会議が行われなくなり,ウェブ会議システムは急速に広がった.ウェブ会議は,移動がないためスケジュール調整が容易であり,会議内容の録画も可能である.最近のウェブ会議システムでは動画も共有できる.

III.ソーシャルメディアとビジネスチャットシステム
ソーシャルネットワーキングシステム(SNS)とは,会員が仲間を増やしながらチャットやファイルの共有を行うシステムである.LINE, Twitter, Instagram, Facebook, TikTokなどがこれにあたる.LINEのアカウント数は日本国内だけでも8,400万になると言われており1),その普及は著しい.しかしSNSは基本的に自由なネット空間でチャットが行われることから,参加者間のトラブルも多い.したがってこのようなネット空間で医学的な議論を行うことは適切ではないと考えられる.最近ではSNSとは異なり,一つの会社内,もしくは複数の企業グループの社員だけが共有できる「ビジネスチャット」が一般化しつつある.構造はSNSと似ている.しかしビジネスチャットは存在する限定的なグループ参加者から,小グループが作成されていくチャットシステムで,SNSのようにネット上で参加者を増やすシステムとは根本的な違いがある.Workplace by Facebook, LINE WORKS, Talknote, Wantedly Chat, WowTalk, slack, chatworkなど,すでに様々なシステムが使えるようになっている.

IV.新しい形でのウェブでの手術動画カンファ
私達は一般社団法人22世紀先端医療情報機構(CEMIT)と協力し,会員制のソーシャルメディア(ビジネスチャット)とウェブ会議システムを組み合わせた簡便な医学専用会議システムを構築しようと考えた.SNSへの登録は,医籍登録番号と生年月日の確認を必須とし,医師のみが参加できるようにした.組み合わせるウェブ会議システムには当時動画再生がスムーズといわれていたZOOMクラウドミーティングアプリを用いた.本システムではSNSから自発的にウェブ会議メンバーを募集することができ,参加,不参加も自由である.ウェブ会議の動画はクラウドを用いて容量無制限にSNSに残すことができるため,会議に参加してなくても後日内容を確認することができる.ウェブ会議の様子はチャット上に動画としてアップデートし,その後にコメントや質問など討議を継続することができる.
ウェブ上で手術カンファレンスをすることに関して個人情報上の問題がないか疑問を呈されることがある.しかし手術の動画そのものは個人が特定できる個人情報ではない.またビジネスチャットでの手術討論は,今のところ,知り合いの医師同士で,手術手技について映像を見ながら議論する会議と見なすことができる.
このビジネスチャットとウェブ会議システムを組み合わせたシステムには二つの使い方がある.
1)リアルタイム型ウェブ会議
ビジネスチャットにウェブで手術ミーティングを行うことを告知する.URLと開始時間をビジネスチャット内に記載し,その時間から希望者に手術ミーティングに参加してもらう.ミーティングの様子を録画し,そのミーティング映像をビジネスチャットにアップロードして,さらに後日コメントを記載する.この方法はあくまでリアルタイムの会議を基本としており,手術動画について議論する場合には指定の時間に会議に参加することが基本となる.
2)事前アップロード型チャット会議
ビジネスチャット内に自分の手術動画と自らの疑問などをアップロードし,それについてチャット内で意見を求める.ビジネスチャット参加者は自由な時間にビデオを見ながらそれにコメントを記入しつつ,参加者同士で議論する.この形であれば,参加者は時間にとらわれず手術動画の議論が可能である.またウェブ会議システムを使わないために手術動画のクオリティも高く,より詳細なコメントをすることも可能である.

V.おわりに
現在,われわれが作成したシステムには既に複数の医局が参加し,グループが形成されている.実際にこのシステムを使用し,グループ内やその枠を超えた手術映像のウェブ討論がスムーズに行えることが確認できている.試験的に行った海外からの参加でも手術手技について討議が可能であった.またウェブ上で,企業協賛の研究会の開催も行い,100人以上が同時に参加して双方向性の議論が行うことが可能であった.しかし,参加者全員が活発に使用できている状態ではない.企業活動ではないため,使用法についての詳しいレクチャーを行っていないことも原因と考えている.最近,同じ形式でビジネスチャットを企業広報のチャットシステムとして使用する企業もでてきたので,使用法については少しずつ周知されていくと思われる.
本システムは単に外科医の教育に貢献するだけでなく,増えすぎた会議や学会の負担を減らして外科医が働きやすい社会を作ることに貢献できると考えている.

 
利益相反
講演料など:大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,武田薬品工業株式会社,日本イーライリリー株式会社,バイエル薬品株式会社,小野薬品工業株式会社

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文献
1) LINE for Business 2020年7-12月期 媒体資料 https://www.linebiz.com/jp/download/

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