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日外会誌. 121(6): 672-674, 2020

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定期学術集会特別企画記録

第120回日本外科学会定期学術集会

特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」 
9.当院における胃外科医育成システム

埼玉医科大学国際医療センター 消化器外科

櫻本 信一 , 椙田 浩文 , 大矢 周一郎 , 宮脇 豊 , 佐藤 弘 , 岡本 光順 , 山口 茂樹 , 小山 勇

(2020年8月13日受付)



キーワード
胃癌手術, 腹腔鏡下手術, 教育システム

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I.はじめに
2004年よりスタートした臨床研修医制度の導入以降,全国的に外科志望者が減少傾向にある.この状況下で外科を志した若手医師の思い描いた将来像を実現させ,彼らを一人前の外科医に育て上げることは指導者にとって重要な責務である.かつての胃外科医にとっては,開腹D2手術を膵液瘻がなく短時間で執刀できることがスキルの到達点であり,一人前に成長した証でもあった.しかし,現在は日本内視鏡外科学会技術認定を取得することが若手外科医の大きな目標であり,夢である.この「夢を実現するため」に当院で行っている育成システムを紹介し,その成果について報告する.

II.当院の胃外科医教育システム
胃癌罹患率はピロリ除菌により減少し,早期胃癌に対するESDの普及に伴って胃癌手術は減少傾向にある.この状況下での外科医育成には,手術手技をより効率的に習得させることが重要である.われわれが構築してきた教育システムの特徴は,開腹術と腹腔鏡下手術を交互に執刀させ,外科解剖の理解を深めそれぞれのメリットを両術式に反映させることである.両術式には手順や視野展開法に相違はあるが,根治性からみたリンパ節郭清は同一手技である.まず開腹D2郭清を執刀させ,胃癌手術で重要な網嚢の膜構造を理解させる.腹腔鏡下手術ではあらかじめ指導医の未編集ビデオを閲覧させ,数例のスコピストの後,D1+を執刀させる.大網切離,次いで膵上縁郭清,最後にNo.6郭清と難易度の低いパートから部分執刀させる(図1).鏡視下手術においても剥離可能層を重視した手技が重要であることを認識させる.

図01

III.教育・指導の実際
トレーニーの技量にもよるが腹腔鏡下手術は5例目前後から完全執刀させている.両術式ともリンパ節郭清では,郭清部位別に,何をランドマークにして,どこから開始し,郭清のエンドポイントは何かを理解させる.また,腹腔鏡下手術では拡大視効果による恩恵,アウターモーストレイヤーを意識したリンパ節郭清などを重点的に教育する.腹腔鏡で得た微細な外科解剖を開腹術にフィードバックさせる.
当院では指導者が2名で4~5名のトレーニーを受け入れている.トレーニーは6~10年目の胃外科専攻医で修練期間は原則2年間,開腹では標準的なD2郭清の執刀,鏡視下手術では日本内視鏡外科学会技術認定取得をゴールとしている.2013年1月から2019年12月までに胃癌切除1,446例(開腹585,腹腔鏡861)のうち,トレーニーの執刀数は開腹448例,鏡視下578例であった(図2).トレーニー一人あたり1年間に,30~40例(開腹10~15例,腹腔鏡20~25例)執刀させてきた.2018年および2020年に内視鏡外科学会技術認定に合格した3名の術者・助手経験数(図3),および3名の腹腔鏡下幽門側胃切除術(LDG)のラーニングカーブ(図4)を示す.執刀数が20例超で手術時間が4時間以内となり,25例超で技術認定提出ビデオを作成している.

図02図03図04

IV.おわりに
本教育システムは,若手外科医に開腹術と腹腔鏡下手術を交互に修練させ,外科解剖の理解を深め,効率的な手技習得を目指したものである.若手外科医の「手術が上手くなりたい」「技術認定を取得したい」という「夢を実現するため」には,多くの手術を執刀させ,さまざまな症例を経験させながらベテラン外科医が培ってきた技術を惜しみなく指導・伝承することが大切である.本システムに則った教育の結果,2014年より計8名の技術認定合格者を輩出した.今後も若手外科医の育成に尽力していきたい.

 
利益相反:なし

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