日外会誌. 121(6): 669-671, 2020
定期学術集会特別企画記録
第120回日本外科学会定期学術集会
特別企画(1)「夢を実現するためのキャリアパス・教育システム」
8.進化する外科マネージメントセンター―それぞれの夢を実現するためのキャリアパス支援システム―
1) 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器外科 菊地 覚次1) , 黒田 新士1) , 吉田 龍一1) , 香川 俊輔1) , 山根 正修2) , 小谷 恭弘3) , 笠原 真悟3) , 豊岡 伸一2) , 藤原 俊義1) (2020年8月13日受付) |
キーワード
外科医不足, 外科MC, Faculty Development, キャリアパス
I.はじめに
2004年に初期臨床研修制度が義務化し,2018年には新専門医制度による専攻医研修が開始され,近年医学生や若手外科医をとりまく環境は大きく変化している.2020年からは初期臨床研修制度のプログラムに外科が必修に復帰することとなったが,依然外科医不足は深刻な問題であり,今後日本の外科医療を維持し,さらに発展していくためには,改善の必要がある.
岡山大学では,2010年より旧第一外科,第二外科,心臓血管外科合同で岡山大学外科マネージメントセンター(外科MC)を設立し,3科合同の外科研修プログラムを開始し,若手外科医のリクルート,養成,そしてキャリアパス支援を行ってきた.ここでは,その取り組みの現状を紹介し,外科MCのかかえる課題と今後の果たすべき役割について考察する.
II.臨床研修制度と新専門医制度の開始
医学生や若手外科医を取り巻く環境では,1946年にインターン制度が開始されたが1),1968年に廃止され,臨床研修制度が創設された.しかし,これは努力規定であったため,多くの医師は各医局に入局して,ストレート研修を行っていた.大きく研修制度が変化したのは,2004年に初期臨床研修制度が義務化されたことであり,これにより卒後2年間の臨床研修が必須となり,全国の病院は研修医を公募で選抜することになり,研修医にとっては研修先が自由に選択できるようになったが,一方で地域や診療科の医師の偏在が起こった.さらに2009年,研修制度が改定されたことに伴い,外科は必修科目から除外され,産婦人科や小児科とともに外科医不足は深刻なものとなった.
各診療科別の医師数変遷をみてみると,医学部定員の増加や医学部の新設に伴って各診療科の医師数や医師の総数は年々増加しているにも関わらず,産婦人科と外科は平成6年と比べても横ばいであり,実質的には外科に進む医学生の割合は年々減少していることがわかる2).
また,2018年からは新専門医制度による専攻医研修が開始し,若手外科医は外科専門医取得にむけて一つのプログラムを選択することとなり,このような変化に対し医学生や若手外科医の外科に対する不安や疑問を払拭し,キャリアパスをサポートするシステムが必要と考えられる.
III.外科MCによる外科医のリクルート
研修医,専門医をめぐるシステムの変化による外科医不足に対応して,若手外科医のリクルート,養成,キャリアパス支援をする目的で,岡山大学では2010年に岡山大学外科マネージメントセンター(外科MC)を設立した.外科MCは旧第一外科,第二外科,心臓血管外科が合同で関連施設を含めた広域での外科研修プログラムを提供し,若手外科医それぞれのニーズに合わせてキャリアサポートを行っている.その特徴としては,学生のうちから外科MCに入会でき,各医局へ入局の必要はなく,入退会は自由にできるということである.また3科合同のため,中四国中心に71の外科専門医修練施設の中から修練医の希望に沿った研修先を選択し,研修を行うことができるようになっている.医学生には外科医の魅力ややりがいについて知ってもらうために,学生の臨床実習を術前後のカンファレンスや病棟での処置,手術において,診療チームの一員として積極的に参加型の実習形態に改良した.さらに医学生を対象に,年2回外科MC主催で外科についての魅力ややりがいについて伝えるセミナーを開催し,その後若手外科医との対話の機会を設けて外科に対する不安や疑問を解消している.その結果,最近では年間20名以上の外科MC入会者(学生)を獲得するまでになった(図1a).
IV.外科MCによるキャリアパス支援
以前行った外科MC入会者を対象にしたアンケート調査では,研修先に求めるものとして,よい指導者がいること,執刀機会が多いことが条件として挙がっていた.そのため,各修練医が外科専門医取得に向けて必要な症例数等を外科MCで管理し,専門医取得にむけて修練医の希望に沿った研修病院への調整を行っている.その結果,最短での専門医取得率はまだ低いが,全体では外科専門医取得率は70%以上となっている(図1b).また,指導医自身も今まで医師になってから指導法などを学んだ経験はなく,手探り状態な独自の指導であったため,Faculty Development(FD)として,外科系指導者養成講習会を定期的に行い,指導医の養成にも取り組んでいる.
また,アンケート調査では約2割の外科MC会員が研究や留学に興味を持っているという結果であったり,大学院生を対象に行った調査でも基礎研究前後で研究や留学に興味を持った人の割合が大幅に増加していたりと,若手外科医もキャリアを重ねていくうちに,将来の目標や希望が多種多様に変化していくため,高度手術認定医資格取得や研究・臨床留学,地域医療から厚労技官に至るまでそれぞれの夢や目標の実現にむけたサポートを外科MCが担っている.
V.おわりに
臨床研修制度や専門医制度の変化に伴い,医学生や若手外科医を取り巻く環境は大きく変化しており,地域医療や外科医療を崩壊させずに,さらにそれぞれの外科医の夢を実現しながら,外科全体が発展していくためには外科MCのようなキャリアサパス支援システムが必要であると考える.実際,外科MC所属の若手外科医を対象としたアンケートでも,多くの人がキャリアパス支援を行う機関が必要と考えており,今後も若手外科医が将来の目標や夢を達成できるための環境づくりをしていきたいと考えている.一方で,指導医の育成や指導医自身のモチベーションの維持,多種多様な外科医のニーズに答えていくことは今後の課題であり,他の組織や機関との連携や協力は不可欠であると考える.
利益相反:なし
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