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日外会誌. 121(6): 600-605, 2020

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特集

ECMO,補助循環装置の進歩

6.長期使用可能なECMOシステムの開発

国立循環器病研究センター研究所 人工臓器部

西中 知博

内容要旨
ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)は膜型人工肺と遠心ポンプを閉鎖回路内で組み合わせた機械的呼吸・循環補助法である.ECMOの使用期間は数日から数週間に及ぶ可能性があり,長期にわたって安全かつ有効な呼吸・循環補助を可能とするECMOシステムの開発が求められ,膜型人工肺,遠心ポンプ,抗血栓性コーティング,ECMOシステムに関する様々な研究開発が行われている.
国立循環器病研究センター研究所人工臓器部では,これまでに開発してきた長期耐久性膜型人工肺BIOCUBE,遠心ポンプBIOFLOAT NCVC,および血液接触面へのT-NCVCコーティングを組み合わせ,様々な臨床的状況で長期使用可能な超小型ポータブルECMOシステムを開発した.2020年より臨床治験を開始している.

キーワード
ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation), 膜型人工肺, 遠心ポンプ, 循環不全, 呼吸不全

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I.はじめに
ECMO(Extracorporeal membrane oxygenation)は膜型人工肺と遠心ポンプを閉鎖回路内で組み合わせた機械的呼吸・循環補助法である.経皮的に静脈系から脱血し静脈系へ送血する呼吸補助法として,および経皮的経大腿静脈右心房脱血,大腿動脈送血のシステム等の開発により,静脈系から脱血し,動脈系へ送血する心肺補助法として発展した.
心肺補助を目的とした経皮的ECMOは本邦ではPCPS(Percutaneous cardiopulmonary support)と呼ばれるが,これは心臓血管外科,循環器内科,救命救急科を中心に広く普及し,ECMOを用いた心肺蘇生法はECPR(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)と呼ばれる.また,呼吸補助を目的としたECMOが本邦においても発展してきている.2020年にはいり,世界的な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が発生し,これによる重篤な呼吸不全への重要な救命手段としてECMOの認知が急速に広まるに至っている.
ECMOの使用期間は数日から数週間に及ぶ可能性があり,長期にわたって安全かつ有効な呼吸・循環補助を可能とするECMOシステムの開発が求められ,膜型人工肺,遠心ポンプ,抗血栓性コーティング,ECMOシステムに関する様々な研究開発が行われている.
ECMOは心臓血管手術の際の人工心肺システムを応用して開始されたという経緯等により,使用する膜型人工肺,遠心ポンプ等はその殆どが6時間以内の使用として承認されており,その場合これ以上の期間の使用はオフラベルユースである.本現状を改善するために厚生労働省 革新的医薬品・医療機器・再生医療技術製品化促進事業において“中長期間呼吸/循環補助(ECMO/PCPS)システムの開発・審査のための評価指標ガイドライン案”が国立循環器病研究センター巽英介委員長のもとに取りまとめられるなど環境改善への整備が進行しつつある1)

II.長期使用可能なECMOシステムの開発
1)膜型人工肺
現状,膜型人工肺に最も使用されているのはポリプロピレン製多孔質膜である.これは高いガス交換能を有しており,心臓血管手術時に使用する人工心肺のように高いガス交換能は必要だが,短期間の使用に限定される場合には有効な人工肺である.しかし,ECMO使用においては血漿漏出,血栓形成等に伴い数日程度の使用に限定される.血液-ガス界面を介して微小気泡の混入や生体の炎症反応・血液凝固反応の亢進も起こり得る.これに対して,シリコーン単一素材または表面コーティングを施した均質膜や複合膜を使用した膜型人工肺が長期耐久性を獲得すべく開発されてきている.
ポリメチルペンテン(Polymethylpentene,PMP)製の非対称中空糸膜は膜型人工肺の長期耐久性獲得に大きな変革を与えた.膜技術の進歩を背景に開発されたPMP製非対称中空糸膜は,元来,超純水作成等のために大日本インキ化学工業株式会社(現DIC株式会社)が開発した物質交換膜である.このPMP製の非対称中空糸膜を世界で初めて人工肺のガス交換膜に応用したのは国立循環器病研究センター研究所人工臓器部,大日本インキ化学工業社と株式会社クラレのグループで,この膜を応用して開発した膜型人工肺を用いた慢性動物実験で当時前例のなかった1カ月以上の連続ECMO運転に成功し,その後1990年に膜型人工肺MENOXとしてクラレ社から製品化を達成した.PMP膜は,多孔質膜の血液接触面に極薄の緻密層を形成させ血液相とガス相の間の開口部を数十オングストロームに制御することによって血漿漏出防止と血液適合性の向上を実現している.その後,国立循環器病研究センター研究所人工臓器部と大日本インキ化学工業社は,膜面積増加,性能向上を目的に中空糸径を細径化したPMP膜を開発し,これを用いた人工肺を大日本インキ化学工業社から1998年膜型人工肺MENOX-αとして製品化した.さらに2001年には,微小孔径を最適化してガス透過性を向上させた改良PMP膜を用いた膜型人工肺α-Cubeとこれに,後述のT-NCVCコーティング処理を施したPlatinum Cube NCVCを大日本インキ化学工業社から(エドワーズライフサイエンス株式会社販売)製品化した2)5).その後,Platinum Cube NCVCは,製造販売企業の変更によりBIOCUBE(ニプロ株式会社)と改称されている.海外では,Membrana GmbH株式会社のPMP膜が開発され,このPMP膜使用の膜型人工肺Jostra株式会社(現Getinge株式会社)製Quadrox Dが1998年に開発されている.
2)遠心ポンプ
遠心ポンプは当初人工心肺用のローラーポンプに代わる送血用ポンプとして,いくつかのディスポーザブル製品が開発され,その一部はECMO用の送血ポンプとして利用されるに至っている.遠心ポンプでは基本的に,磁気カップリングで外部モータユニットと結合したインペラが毎分数千回転で回転して血液を駆出する.長期耐久性の面で重要なのは,軸部における構造である.インペラを支える軸にシール機構を有する形式の遠心ポンプと軸をピボット軸受によって1点あるいは2点で支えて回転する接解軸受構造の遠心ポンプが開発されてきた.これらはいずれも高速回転の持続に伴って,一定時間の使用後には軸シールの破綻による血液リークや軸受部の摩耗,発熱,血栓形成などを生じる.その結果生じるインペラの軸ぶれ回転は溶血の発生をきたし,血栓が形成されると血流中への飛散をきたす.これらの結果,膜型人工肺の耐久性の問題と合わせてECMOシステムの交換が不可避となる.溶血や血栓の形成,ECMOシステムとしての機能低下,および交換時のECMO運転の一時停止と再運転に伴う侵襲は様々な悪影響を生体におよぼすこととなる.
これらの軸シール機構や接触軸受構造の課題を解決すべく非接触回転構造の遠心ポンプの開発・臨床応用が進められてきた.非接触回転構造には主に磁気浮上方式と動圧軸受方式がある.ABBOTT株式会社のCentriMagは,磁気浮上方式によってインペラの位置を制御し,非接触回転を実現している.本システムは一時的体外設置型補助循環システムとして米国で普及している.日本に対しても補助循環用ポンプとして導入することが検討されたことがあるが,現状国内導入には至っていない.一方,国立循環器病研究センター研究所人工臓器部では,三菱重工業株式会社,産業技術総合研究所,およびニプロ社との共同研究によって世界で唯一の動圧軸受方式の非接触回転構造ディスポーザブル遠心ポンプBIOFLOAT NCVCを開発し6),ニプロ社より体外循環用血液ポンプとして製品化した.また,この遠心ポンプによる体外設置型補助人工心臓システムを開発し,臨床治験を終え,現在薬機承認申請中にある.長期耐久性,低溶血性,高血液駆出性能に加えて,充填液量は16ml,ポンプ重量33g,モータユニット重量635gまで小型軽量化を達成しており,ポンプ性能上ECMOの条件における使用も可能である.
3)抗血栓性コーティング
ECMOシステムにおいては,血液適合性,長期耐久性の確保の点から抗血栓性コーティングを必要とする.特に膜型人工肺は流路の構造からその必要性が高い.抗血栓療法としてヘパリンが使用されるが,その使用に伴う出血性合併症抑止のためには,ヘパリンの投与の抑制が有効な可能性があるが,そのためにも抗血栓性コーティングが重要である.へパリンコーティングではテルモ株式会社のHepafaceやCarmeda株式会社のCARMEDA BioActive Surfaceなどが製品化されている.一方,ヘパリンが生体材料を使用していることやヘパリン起因性血小板減少症候群の発生の対策などの観点から,血液適合性高分子ポリマーを用いるなどした各種コーティングの開発も行われている.(米国)Medtronic株式会社のBalance Biosurface,テルモ社のXcoating surface coating,Getinge社のSOFTLINE Coatingなどがあげられる.
長期耐久性と高度な抗血栓性の実現のため国立循環器病研究センター研究所人工臓器部は,東洋紡株式会社との共同研究により,T-NCVC(Toyobo-National Cardiovascular Center)コーティングの開発を行った7).T-NCVCコーティングはイオン結合法によるヘパリンコーティングであるが,分子設計の最適化により,長期間に渡って強力な抗血栓性の維持が可能である.T-NCVCコーティングを施したPMP膜使用の膜型人工肺は2001年にPlatinum Cube NCVCとして製品化され,その後BIOCUBEと改称されている.
4)ECMOシステム
ECMO臨床応用開始当初は人工心肺回路各要素デバイスをECMO使用時に組み合わせてシステムを作成していたが,その後,膜型人工肺,遠心ポンプ,血液回路がプレコネクティングされたECMOシステムが開発,製品化され広く臨床使用されている.国立循環器病研究センターでは,T-NCVCコーティング処理を行ったPlatinum Cube NCVC(現BIOCUBE)膜型人工肺,ROTAFLOW遠心ポンプ(Jostra社,現Getinge Group社),血液回路をプレコネクティングしたECMOシステムを開発した8)9)(後にROTAFLOW遠心ポンプへのコーティングは現在用いられているSOFTLINE Coatingに変更されている).これを臨床実用化したシステムは小児を含む臨床症例に適応されている10)14)
現在までに数種類の統合化されたECMOシステムが開発されているが,これまでの主なシステムは大型で機動性,利便性に課題を有し,また,遠心ポンプ回転数と血液流量以外のECMO安全管理に必要な各種モニタリング装置は別途追加装着する必要があるなどの課題があった.これらの課題を解決し,長期にわたって安全かつ有効な呼吸循環補助を可能とするECMOシステムの研究開発が行われてきている.
ECMOシステム改良開発の一つとして,主要構成要素である膜型人工肺と遠心ポンプを一体化する研究開発が行われてきている.国立循環器病研究センター研究所人工臓器部では世界に先駆けて遠心ポンプ一体型膜型人工肺の開発を行った15)17).Maquet株式会社(現Getinge社)は,膜型人工肺と遠心ポンプを一体化したCALDIOHELPシステムを開発,製品化を行っている.CALDIOHELPシステムは,専用の血液回路セットをコンソールに搭載し,血液回路に内蔵された各種モニタ内容をディスプレイ表示可能である.2018年度から日本で,呼吸ECMOに関する治験が実施されている18).一方,米国ピッツバーグ大学のグループは,成人用ポンプ一体型人工肺Paracorporeal Ambulatory Assist Lung(PAAL)や,小児用ポンプ一体型人工肺Pittsburgh Pediatric Ambulatory Lung(P-PAL)の研究開発を行っており,注目される19)
国立循環器病研究センター研究所人工臓器部では,これまでに開発を達成してきた長期耐久性膜型人工肺BIOCUBE,遠心ポンプBIOFLOAT NCVC,および血液接触面全体にT-NCVC処理を行ったECMOシステムを様々な状況で使用可能な様にプレコネクティングした上で小型駆動装置とともにユニット化した超小型ポータブルECMOシステムを開発した(図1).開発したECMOシステムは,専用ECMO回路,およびポンプ駆動装置,計測機器などをすべて統合した小型駆動ユニット(W298×D205×H260mm,6.8kg)と着脱可能な酸素ボンベユニットより構成されている.駆動ユニットにはポンプ回転数モニター,超音波血流量計(気泡検知機能付き),血液酸素飽和度モニター(血液非接触型),圧力・温度センサー,これらの測定値・波形の表示およびアラーム機能を有している.また,遠心ポンプ駆動の廃熱を利用して人工肺結露発生を抑制する機能を備えている.本システムについては,動物実験による非臨床試験20)等を経て,2020年より臨床治験を開始している.

図01

III.おわりに
ECMOは今日,心肺蘇生,急性循環不全,呼吸不全など様々な病態に使用されるが,使用期間は数日から数週間に及ぶ可能性がある.長期にわたって安全かつ有効な呼吸・循環補助を可能とするECMOシステムの開発が求められ,膜型人工肺,遠心ポンプ,抗血栓性コーティング,ECMOシステムに関する様々な研究開発が行われてきている.ECMO治療の臨床成績の向上と更なる普及,適応の拡大には,ECMOシステムとしての開発研究の推進と同時に,ECMO治療を支える医療者の教育システム構築と,長期使用に関する承認取得を目指した,研究開発,非臨床試験,臨床試験の実施,および,これに相応する保険償還制度の構築が必要であると考えられる.

 
利益相反
研究費:テルモ株式会社
寄付講座:大阪大学大学院医学系研究科重症心不全外科治療学寄附講座(エドワーズライフサイエンス株式会社,テルモ株式会社,ニプロ株式会社,日本メドトロニック株式会社)

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文献
1) https://www.pmda.go.jp/rs-std-jp/facilitate-developments/0016.html accessed on 1st,June,2020.
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