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日外会誌. 121(6): 586-593, 2020

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特集

ECMO,補助循環装置の進歩

4.呼吸不全に対するECMO

日本医科大学付属病院 外科系集中治療科

市場 晋吾 , 星野 あつみ , 藤田 健亮 , 池田 督司

内容要旨
Extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)機器の技術的進化,静脈-静脈ECMOの管理技術の理解と改善,および総合的な集中治療技術の進歩により,重度の呼吸不全に対するECMO治療は,Ventilator-induced lung injury(VILI)とPatient self-inflicted lung injury(P-SILI)を回避する観点から,肺を休めることを目的として導入されている.ECMO to Rescue Lung Injury in Severe ARDS(EOLIA)trialとその後の解析により,重症ARDSに対する早期ECMOの有効性が証明された.ハイブリッドモードの工夫により,重度の敗血症性ショックなどに対する呼吸循環補助も効果的であることがわかってきた.しかし,ECMOは複雑でリスクの高い高額医療技術であり,かつ訓練を受けた専門チームが必要であるので,十分な経験と症例数を持つ施設に集約して行う必要がある.

キーワード
重症呼吸不全, ARDS, Ventilator induced lung injury, ECLS, 体外式膜型人工肺

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I.はじめに
Extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)は,通常の人工呼吸療法では対応できない重症呼吸不全に対して,簡易型の高性能な人工心肺装置を用いて中長期の呼吸補助を行い,人工呼吸による肺傷害を防ぎ,全身状態を安定させて,呼吸不全の原因の診断と治療を行い,可逆性の肺組織が回復するまでの時間稼ぎをする.革新的なデバイスや管理技術の進歩,さらに経験の蓄積により世界的に普及してきた.しかしながら,ECMOは複雑で高いリスクを伴い,専門チームが必要な高額医療技術であり,十分な経験と症例数のある施設で行われるべきである1).本稿では,重症呼吸不全に対するECMOに特化して現状と課題について概説する.

II.重症呼吸不全に対する機械的人工呼吸および補助療法とその限界
Acute respiratory distress syndrome(ARDS)は,炎症性肺水腫とそれに伴う重篤な低酸素血症を惹起する致死的な呼吸不全である.その重症度は,ベルリンの定義2)により,5cmH2O以上のPEEP(またはCPAP)の状態のP/Fによって診断や分類を行うこととされた.重症度分類では,200<P/F≦300を軽症,100<P/F≦200を中等症,P/F≦100を重症としている.重症ARDSは,過去に機械的人工呼吸療法や様々な補助療法の研究がなされてきたにもかかわらず,一定の高い致死率を示しており,重症度別で重症例は死亡率49%と報告されている3).ARDSの呼吸補助において機械的人工呼吸自体がさらなる肺傷害や多臓器不全を惹起する,ventilator-induced lung injury(VILI)のコンセプトが提唱された4).VILIは傷害肺の肺胞壁にかかる過剰なストレスとストレインによるvolutraumaであり,それに伴い炎症性サイトカイン等の産生放出による遠隔臓器障害,さらに多臓器不全へと繋がる病態である.ここで後述の肺保護換気戦略が提唱された.そして,傷害肺における過剰な自発呼吸が,経肺圧や経肺血管圧を増大させて,さらなる肺障害や肺水腫を引き起こすPatient-Self Inflicted Lung Injury(P-SILI)のコンセプトが提言された5).ARDSの呼吸管理に関する臨床的エビデンスに基づいた推奨事項によると,図1のように要約された(図16).強い推奨事項として,低1回換気量(<6ml/予測体重)かつ低吸気圧(プラトー圧<30cmH2O),および中等から重症のARDSに対して,腹臥位療法を1日12時間以上施行することが提唱された.逆に,強く推奨しない事項は,中等から重症のARDSに対して高頻度振動換気法を日常的に使用すること,とされた.また,一酸化窒素吸入は推奨されない,とされた.弱い推奨として,中等から重症のARDSに対する高いPEEPおよび48時間の筋弛緩薬(Cisatracurium)投与による自発呼吸の抑制効果が提唱された.重症ARDSに対するECMO治療は,保護的機械的換気療法の補助として推奨された.十分なエビデンス不足のため,コルチコステロイドとextracorporeal CO2 removal (ECCO2R)については,追加の研究が必要とされた.ECMOのコンセプトは,VILIとP-SILIを回避し原疾患の治癒と肺機能の回復あるいは肺移植までのブリッジをすることである.原因にもよるが週〜月単位のサポートが必要となる7)

図01

III.ECMOの適応と禁忌
重症呼吸不全に対するECMOの導入基準は,Extracorporeal Life Support Organization(ELSO)のガイドラインが基本となっている8)
1)低酸素血症:いかなる原因(プライマリー・セカンダリー)であれ,ECMO導入は,死亡の危険性が実際に高く,病態的に可逆性と考えられる急性期の状態で,予測致死率50%以上で考慮,80%以上で適応とされる.ECMOの最大の効果は,発症後早期(1〜2日)に開始されたときである.致死率50%とは,FIO2 >90%にて,PaO2/FIO2 <150かつ/あるいはMurray Lung Injury Score9) 2~3,Age-adjusted Oxygenation Index(AOI)スコア10) 60.致死率80%とは,6時間以下の最適な治療にもかかわらず,FIO2 >90%にて,PaO2/FIO2<100かつ/あるいはMurray Lung Injury Score 3~4,AOIスコア>80,あるいはAge,P/F,and Plateau Pressure (APSS) score11) 8.
2)高二酸化炭素血症:人工呼吸器設定にて高いPlateau pressure(Pplat)(>30cmH2O)にもかかわらず二酸化炭素が貯留する.
3)重篤なエアーリークがある.
4)肺移植の待機患者の呼吸状態が悪化して気管挿管が必要となった場合.
5)循環あるいは呼吸状態の緊急的な破綻(適切な治療に反応しない肺梗塞,気道閉塞等).
基本的には絶対的禁忌事項はないが,ECMOを導入しても救命の可能性が低い,いわゆる相対的禁忌となる病態はあるので,個々の患者に対してリスクとベネフィットを考慮してチームで決定する.呼吸不全の原因や背景疾患は明らかに予後を左右する.例えば重篤な敗血症性ショック,特発性肺繊維症の急性増悪,HIV感染や血液疾患などで免疫力の低下した患者は,ECMOにより呼吸・循環サポートをしても回復の可能性が極めて低い.個々の患者の状態に応じて個別に対応すべきである.
1.人工呼吸器が高い設定(FIO2>90%,Pplat>30)の状態で7日間以上呼吸管理している.多くのECMOセンターでは人工呼吸期間を禁忌とはしていない.
2.薬剤による重篤な免疫不全状態(好中球数<400/mm3).
3.最近増大した中枢神経系出血.
4.不可逆性の併存病態.例えば重篤な頭蓋内出血や末期の悪性腫瘍.
5.年齢:特に年齢に関する禁忌はないが,高齢者は合併症も多く年齢と救命率は逆相関する.
最新の臨床治験であるECMO to Rescue Lung Injury in Severe ARDS(EOLIA) trial12)では,ELSOの基準になかった導入までの時間経過に言及し,肺保護戦略としての人工呼吸器設定や支持療法について具体的に指定している.
EOLIA trialにおけるECMO導入基準;
① P/F<50mmHgが3時間以上,適切な支持療法を行っても改善しない.
② P/F<80mmHgが6時間以上,適切な支持療法を行っても改善しない.
③ pH<7.25かつPaCO2≧60mmHgの状態が,適切な人工呼吸器管理を行っても6時間以上続く.
*支持療法:NO吸入,リクルートメント手技,腹臥位療法,HFO,アルミトリン投与.
呼吸不全に対するECMO治療が適切に行うことができる施設は限られているので,重症呼吸不全の患者をECMO可能な施設へ搬送する判断は,患者が従来の至適治療に反応せず,さらに重症化して致死的な状態に移行する前にすべきである.循環動態も不安定な患者については,ECMOを導入し状態を安定させてから搬送を考慮する.

IV.ECMOの方法・管理

ECMOに必要なデバイス
ECMOを施行する際に準備するデバイスとして,送脱血カニューレ,ECMO回路,遠心ポンプ,膜型人工肺の四つが必要となる.成人の呼吸不全に対するECMOでは,総合的に生体適合性と長期耐久性に優れたデバイスが必需である.近年,これらの基本構成部品が一体化されて設計されたECMOデバイスが普及している.ポンプ流量が少なくとも5L/minで長期間軸のブレや摩耗なく安定稼動可能な遠心ポンプが求められる3).膜型人工肺は,二酸化炭素の除去が容易な十分な膜面積が必要である.ポリメチルペンテンの非対称膜か多孔質ポリプロピレン膜にシリコンコーティングした複合膜がガス交換効率を維持しながら血漿漏出もなく長期耐久性が期待できる.

カニュレーションとECMOのモード
カニューレには,内径,肉厚(外径内径差),長さ,サイドホールデザインなどが異なる様々なカニューレが多く存在する.再灌流を最小限にし,かつ最大Flowをとることが,ECMO管理において重要である.国内で使用されている多くの脱血カニューレは,ほとんどがMulti-staged カニューレであり,近位側のサイドホール優位に脱血量が多い特性がある.
酸素化を最大限に高めるためには,ポンプ流量を十分に確保することが重要である.そのために欠かせないのが,カニューレ選択であり,特に送血側の圧が低いVV ECMOに関しては,脱血管の選択が成功のカギとなる.成人VV-ECMO管理には,通常23Fr以上の太さのカニューレが必要である.VA-ECMOでは通常大腿静脈からアクセスし右房に脱血カニューレ先端を留置し,大腿動脈から送血カニューレを留置する.しかし自己肺の酸素化が悪い場合には,脳や冠動脈を含む上半身に低酸素の血液が灌流されてしまう(Differential hypoxia).
送血管は通常15~19Frの太さがあれば十分な循環サポートが可能な流量は得られるが,VA-ECMOでは,動脈血の酸素飽和度に脱血カニューレの位置が関与するという報告もある13).すなわち,呼吸不全を合併した重症心不全症例では,緊急性がない限りは最初から上大静脈脱血を選択することが望ましい.また,右鎖骨下動脈送血も上半身の酸素化を担保するモードの選択肢となり,人工血管を用いて外科的に行う.

ハイブリッドモードECMO
重度の肺障害を合併したVA-ECMO症例や,心機能低下を伴ったVV-ECMO症例などが適応となり,送血カニューレを静脈または動脈に追加し,VA→V-AVあるいはVV→V-AVへと変換する.これにより,呼吸と循環の両方をサポートが可能となる.V/A両方に送血する場合には,低圧系であるVへの送血回路をocclusion clumpにて流量調整する必要がある14).敗血症性ショックでは,高流量VA-ECMOによる循環補助に加えてハイブリッドモードが有効な症例もある15)

V.VV-ECMOの管理

酸素化・換気のサポートの指標:
VV-ECMOで調節できる設定はポンプ流量,人工肺への吹送ガス流量と酸素濃度の3項目がある.VV-ECMO中は,酸素化はSaO2 75〜90%,換気はPaCO2 40~45mmHg,pH>7.35程度を目標に調整する.酸素化については酸素運搬量(DO2[mL/min]={SaO2(%)/100}×Hb[g/L]×1.34mL/g×心拍出量[L/min])が安静時酸素消費量(VO2:成人で3~5mL/kg/min)の2~3倍以上になるように維持することとされる.正常安静時にはDO2はVO2の4~5倍であるが,2倍以下となると嫌気性代謝を来す16).VV-ECMO中の酸素化を規定する因子としては,自己肺の酸素化能と人工肺での酸素付加量,ECMOポンプ流量と自己心拍出量の比率,酸素消費量,リサーキュレーション率などがある.VV-ECMOでは送血された酸素化血の一部はそのまま脱血カニューレから脱血されVV-ECMO回路内を再循環する(リサーキュレーション)ため,酸素化効率低下の一因となる.人工肺での酸素付加量は,{(SPOSTO2−SPREO2)/100}×1.34mL/g×Hb[g/L]×ECMO流量[L/min](ここで,SPOSTO2:人工肺後血液酸素飽和度,SPREO2:人工肺前血液酸素飽和度)で計算される.SPOSTO2は吹送ガス酸素濃度と人工肺の性能により左右される.VV-ECMO初期流量は50~80ml/kg/min程度を目安とする.人工肺での二酸化炭素除去は,吹送ガス流量と膜面積そしてポンプ流量に正の相関がある.

抗凝固療法と出血性合併症
ECMO回路は血栓形成予防のためヘパリンや高分子ポリマーで表面処理されているが,通常は未分画ヘパリンで持続的な抗凝固療法を行う.未分画ヘパリンでは10~20単位/kg/hr程度から開始し,活性化部分トロンボプラスチン時間(Activated partial thromboplastin time;APTT)を1.5~2倍(40~60秒),活性化凝固時間activated clotting time(ACT)を160~220秒程度に調整する.なおAPTTとACTの値はしばしば乖離するが,出血性合併症や回路内血栓を予防するための指標としてどちらが優れているかは未だ結論が出ていない.抗凝固療法と体外循環に伴う出血は,ECMO管理の中で最も懸念される合併症である.外科的介入が適応とならない難治性出血は,抗凝固薬の投与を一時的に止め,血液製剤の補充で対応する.ECMO中の外科的気管切開術では,電気メスによる止血操作を行う.気胸や大量胸水に対し胸腔ドレーン挿入の適応が生じる場合には,大量血胸の原因となるため可能ならば避ける.凝固因子や血小板が人工肺で消費されて低下傾向となるため,適宜輸血を行い血小板>8万/μL,フィブリノゲン>250mg/dL程度を保つ16)

自己肺の管理
重症ARDSの機械的人工呼吸器管理ではPEEP・FIO2・ΔP(駆動圧)ともかなり高い設定が必要となるが,VV-ECMOを導入して酸素化・換気を肩代わりすることで呼吸器設定を緩めることが可能となる.最適な呼吸器設定は未だ議論が残るところではあるが,VILIを防ぐための「肺保護換気」として,PEEP 10cmH2O,ΔP 10~15cmH2O,呼吸回数10回/min程度から開始し,1回換気量<4~6ml/kg,プラトー圧≦30cmH2O程度での管理が推奨されている17).FIO2は酸素毒性と吸収性無気肺を防ぐために60%以下に保つ.重症ARDSの急性期には患者は過剰な努力呼吸によるP-SILIが問題となる18).P-SILIを防ぐため,努力呼吸が強い場合はオピオイドを含む鎮痛薬・鎮静薬を十分に使用するが,コントロール不良の場合は筋弛緩薬を併用する19).長期使用はその後の筋力低下の原因となるため20),導入後48時間投与し漸減終了とする.VV-ECMO導入となるような重症ARDSでは人工呼吸器の管理も長期となることが予想される.Electric impedance tomographyによる評価で,著明な背側無気肺を呈する症例に対して,ECMO中に1日16時間の腹臥位によりリクルーメントされ,静的コンプライアンスを増加させ,至適PEEPレベルを下げ得ることが報告された21).合併症として,特にカニューレ刺入部からの出血が指摘されている22).また,ARDSが進行すると肺高血圧から右心不全を来しうる23)

ECMO回路のモニタリング
ECMO回路の異常を早期に感知し,安定した管理を行うためには,回路内圧や人工肺前後の酸素飽和度(SPREO2・SPOSTO2)のモニタリングが重要である.回路内圧のモニタリングポイントとして脱血圧(P1),人工肺前圧(P2),人工肺後圧(送血圧)(P3)の3点がある.脱血圧(P1)の目安は0~-60mmHg程度で,-100mmHg以下となると静脈内容量低下や脱血カニューレの先端位置不良を示唆し,溶血リスクが増加する16).P3の上昇は送血カニューレの屈曲や,血流量過多を示唆し,400mmHg以上となると溶血リスクが増加する.人工肺圧格差(P2~P3)は,経過中に急激に上昇してくると人工肺内血栓付着が疑われ,劣化が進んだ場合は交換が必要となる.SPREO2は,酸素供給量と酸素消費量のバランス,およびリサーキュレーション率に規定され,VV-ECMO中は70〜80%程度を目標に管理する.人工肺後酸素分圧(PPOSTO2)は人工肺の機能を示し,吹送ガス酸素濃度が100%で人工肺劣化がなければ400~500mmHgである.PPOSTO2<200mmHgあるいはD dimer>30mg/dl24)では人工肺の交換を考慮する.

ECMO離脱
自己肺の改善はまず1回換気量の増加に現れ,ついで自己肺での酸素化・換気が改善してくる.各施設により離脱プロトコルが異なるが25),基本的にはポンプ流量と吹送ガス流量を少しずつ下げ,最終的には人工肺への吹送酸素をオフにし,肺保護換気戦略に基づく人工呼吸器設定で,呼吸循環の状態が安定していれば離脱する.

VI.ECMOの治療成績,エビデンス
2009年にCESAR trial26)でVV-ECMOの有用性が示された後,世界中でVV-ECMOの施行数が急上昇した.ELSO Registry report international summaryによるとVV-ECMO年間施行数は2008年に200件であったが,2019年には3,663件と約18倍近い施行数となっている.2013年以降は60%以上の生存率をおおむね達成しており,重症呼吸不全に対するVV-ECMOは確立した治療選択肢となったと考えられた.新たにフランスを中心に行われたEOLIA trial12)は,重症ARDSにおいて,クロスオーバーを許容する標準治療戦略と比べ,早期ECMO戦略が60日死亡率を改善するかどうかを検証した多国籍ランダム化試験である.重症ARDS患者249症例が登録された.コントロール群のクロスオーバー率が28%と高かったことと,無益性により早期試験中止となり,60日死亡率は早期ECMO群で11%低下した(35%対46%)ものの,統計学的有意差には達しなかった(p=0.09).ただ,90日目の治療失敗率は,コントロール群で有意に高かった.クロスオーバーの患者は極めて重篤であり,その死亡率は57%と高く,6例が心肺停止状態となりECPRが導入されていた.このスタディで,ECMOによって超保護的な機械的換気の設定が可能でありVILIを防ぐことが示された.さらにECMO搬送システムで重篤な患者を24時間365日安全に搬送するための病院ネットワークの有効性も実証された.その後のベイズ解析によると,事前分布についての情報が最小限の場合,早期ECMOが有益な可能性(相対リスクが1未満である確率)は96%であり,絶対リスク減少が2%以上である確率は92%であった.この解析によれば早期ECMO戦略は,大きな効果は不明だが,何らかの死亡率低下効果を持つと考えられると結論された28).すなわち,人工呼吸器が限界と考えられる成人重症ARDSに対して,ECMOは有効な呼吸補助手段であることがエビデンスとして証明された.

VII.課題と将来への展望
デバイスの改良は,ECMOの需要が増えてくれば加速され,より高性能な製品が市場に出てくるであろう.呼吸ECMOの集約化が望ましく,そのため,空路を含めた重症患者の遠距離搬送システムを確立することが重要である.また,COVID-19のような新興感染症に伴う重症呼吸不全に対してECMO治療を提供することは,多くの課題がある.医療従事者はPersonal protective equipment(PPE)およびN95マスク装着による十分な感染防御をしながらの管理が必要である.また,パンデミックにおいては,希少な医療資源をどの患者に割当て,厳密な感染対策を遵守しながら複雑な治療をどの施設で行い,搬送はどうするのか,人材トレーニングをどうするか,について,国や地域全体で議論しておく必要がある28)

VIII.おわりに
重症呼吸不全に対するECMO治療は,デバイスの進化,管理技術の理解と向上,そして集中治療技術全体の進歩により,限界を超えた人工呼吸療法に反応しない患者のガス交換の補助というより,肺保護すなわちVILIやP-SILIの回避の観点から「肺の安静化」のために導入する,という概念に変化してきた.重症敗血症性ショックのような循環補助も同時に必要な病態に対しても効果的であることがわかってきた.しかし,ECMOは複雑で高いリスクを伴い,トレーニングされた専門チームが必要な高額医療技術であり,十分な経験と症例数のある施設に集約して行われるべきである.

 
利益相反:なし

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