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日外会誌. 121(5): 529-533, 2020

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特集

改めて認識する小児急性腹症治療に対する外科医の役割

8.小児科医からみて

聖路加国際病院 小児科

草川 功

内容要旨
小児科医にとって,「腹痛」を主訴に来院する子どもたちの診療は,一般的である反面,最も恐れる主訴の一つでもある.それは,隠れて存在する急性腹症を見逃さずに適切に診断することが非常に難しいからである.小児領域に特徴的な急性腹症を中心に,現在公表されている診療ガイドラインなど,小児科医の対応は決められているが,急性腹症と判断した際には,小児外科医の存在が必須であり,小児科医だけでは対応しきれない状況となる事を想定した小児外科医との連携体制の構築が重要である.

キーワード
ガイドライン, 搬送, 病診連携

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I.はじめに
小児科医にとって,最も多い主訴の一つである「腹痛」で来院する子どもたちの診療は,一般的である反面,最も恐れる主訴の一つでもある.それは,数多くの感染性胃腸炎や便秘など,腹痛を来す疾患に隠れて存在する急性腹症を見逃さずに適切に診断することが非常に難しいからである.また,急性腹症と判断した際には,小児外科医の存在が必須であり,小児科医だけでは対応しきれない状況となる事を想定した小児外科医との連携体制の構築が重要である.ここでは,小児領域に特徴的な急性腹症を中心に診療ガイドラインなど小児科医の対応について述べ,小児科医から小児外科医へのメッセージとしたい.

II.小児科医がみる急性腹症
1,診断時期により病状が進行し,外科的介入が必要となる急性腹症

小児腸重積症
小児医療において見逃してはいけない腹痛(間欠的腹痛・不機嫌)を主訴とする代表的疾患の一つである.繰り返す腹痛或いは不機嫌の症状から腸重積が疑われたときに小児科医は診断のために,①超音波検査,②問診あるいは浣腸による便性の確認(いわゆるイチゴジャム状の血便の有無)と進むことになる.しかし,超音波検査を行った時点で腸重積症が強く疑われ,全身状態が悪い,発症から48時間以上経過している,生後3カ月以下など重症が疑われる場合には,集中治療を含む観血的介入が必要となる場合が多いことから,非観血的介入は禁忌となる.そのため,このような状況の時に,小児科医は小児外科医との連携が重要となり,もし,小児外科医がいない施設の場合には対応可能な施設への搬送も考慮しなければならない.
日本小児救急医学会が作成した「小児腸重積症診療ガイドライン」に記載されている小児腸重積症の重症度分類は表1に示すとおりである1).「重症」に分類された場合は,前述したように小児科医としての対応は診断のための超音波検査にとどめ,非観血的治療は禁忌である.また,中等症と分類されたときも,全身状態は良好であっても,腸管虚血が疑われる状態であることから,非観血的整復は禁忌ではないものの,腸管穿孔や整復不成功の可能性を十分に考慮し,造影剤の選択,整腹圧,整復時間,整復回数などに十分な検討が必要であり,外科医との連携,バックアップ体制も望まれる.「軽症」は,全身状態が良好で,「重症」「中等症」の基準を満たさない状態であり,非観血的整復が優先される.このように,小児腸重積症は,小児内科医が初期対応をすることが多いものの小児外科医との連携が重要となる最も多い小児疾患といえる.そして,初療の施設には小児外科対応がない場合には,搬送を考慮しなくてはならず,この重症度分類は,搬送基準と言い換えることができる.腸重積の移送基準を表2に示す.
★小児科医より小児外科医へ
近年,日本においてもロタウイルスワクチン接種が始まり,その接種時期となる3カ月前後の乳児早期において,ワクチンによると思われる腸重積症発症が認められ,結果としてこの月齢の発症頻度が軽度上昇していることがわかっている.前述した重症度分類よりこれらは中等症となることから,定期接種化される2020年10月以降に向け,小児外科医との連携がより重要となることを周知して頂きたい.

小児急性虫垂炎
小児の急性虫垂炎には臨床指標からのスコアリング・システムによる診断が試みられているが,日本小児救急医学会が作成した「子どもの腹部救急診療ガイドライン2017内の小児急性虫垂炎診療ガイドライン」2)によると,症状の評価には有用であるが,正診率が低く診断に用いることは困難であるとされ,診断には,超音波検査並びに腹部CT検査の感度,特異度がいずれも高く有用性が高いとされている.診療の実際では,超音波検査の感度が低い肥満児や年少児,穿孔が疑われる場合をのぞき,放射線被曝を考慮して超音波検査を第一選択とすべきと述べられている.
小児科医が急性虫垂炎を診断するにあたり,臨床所見以外にどこまで検査を行うかは,その施設の状況によって大きく変わってくる.常に小児外科医の診療が可能な施設においては,問診と診察所見のみで虫垂炎が疑われれば,それ以上の検査を行わずに小児外科医に検査段階からすべて依頼する場合も多くなるが,小児外科医がいない施設においては,超音波検査までは行い,診断をより確実なものとした後に搬送依頼することが望ましい.ただし,小児科医としては,診断のためにCT検査までは行わずに搬送すべきと考える.
小児の急性虫垂炎は,以前から進行が早く,穿孔防止のためには虫垂炎の診断がついたら早期手術が必要とされていたことから,小児科医は直ちに小児外科医に依頼するべきといわれており,また,小児外科医も早期に手術を行っていたことから,陰性切除(negative appendectomy)が一定の頻度で生じるのはやむを得ないと考えられていた.しかし,どんな手術にも合併症の可能性があり,できるだけ不要な手術は避けることが望ましいことから,急性虫垂炎の治療においても,近年,陰性切除を回避し炎症が可逆的段階なら保存的治療を選択し,炎症が不可逆的な進行例のみを手術することが望ましいとされている.
そんな状況の中,現在,小児外科領域ではActive observation(AO)という,初回評価で虫垂炎の診断が確定しない場合に,すぐに手術とせずに,身体診察と検査を繰り返して行い,虫垂炎の除外診断を続けるという方法が取られるようになっている.このAOは,陰性切除率を低下させる,穿孔率を減らす,CT検査施行率を減らす,診断の遅れを防止する,ことにおいて有用であるといわれているが,これは,あくまでも緊急時には外科対応が可能な状態で行うべき事であり,決して小児科医が行うことではないことを周知しなくてはならない.
★小児科医から小児外科医へ
「急性虫垂炎は手術」という時代から,手術のタイミングはより慎重にという時代に変わってきているため,小児科医が外科医に依頼するタイミングがより難しくなっている.患者家族より,手術を行わないのになぜ外科医に依頼,特に搬送したのかという疑問が出てきても不思議はない.また,施設によりその基準が一定とはいえないことから,常に,連携施設間での判断基準の共有をお願いしたい.
2,診断時期に関係なく,外科的介入が必須である急性腹症
診断の時期にかかわらず,症状が出現している場合には,基本的には外科的介入をしなければならない疾患を述べる.これらは診断あるいは,強く疑われれば速やかに小児外科医への依頼,あるいは小児外科医のいる病院への搬送を考慮しなければならない.
①嵌頓:鼠径ヘルニア嵌頓,腸間膜ヘルニア嵌頓など

鼠径ヘルニア嵌頓
乳児に多くみられる鼠径ヘルニアは,通常は鼠径部の膨隆によって気づかれる場合が多いが,中には嘔吐,腹部膨満などを主訴に来院し,その原因が鼠径ヘルニアの嵌頓である場合がある.このような主訴で来院した場合に,小児科医は,頻度の多い胃腸炎などから鑑別診断を始めるが,鼠径部の診察を行わない限り,鼠径ヘルニア嵌頓の診断にはたどりつかない3)
★小児科医から小児外科医へ
通常,鼠径ヘルニアは鼠径部の膨隆を家族(主として母親)が気づくことによって,受診,診断と進む場合がほとんどである.嘔吐や腹痛を主訴に受診する児に対して,小児科医は,残念ながら鼠径ヘルニアを常に鑑別診断として挙げていないのが現状と思われる.
②捻転:精巣捻転・卵巣捻転・胃軸捻転・腸回転異常症を伴う腸軸捻転など

卵巣捻転
捻転をおこす原因は卵巣そのものに病変がある場合が多く,小児においても51~84%に原因となる病変があるといわれている.発症は左側にS状結腸が存在するため,右側の発症が約1.5倍多く,発症年齢の分布は,新生児・乳児に多く,幼児期でいったん減少し,学童期に再び増加する.しかし,新生児期の捻転の場合は無症状の場合がほとんどで,腹痛を伴う急性腹症として発症するのは,幼児期以降が多くを占める.すなわち,小児科医にとって幼児期以降の女児の突然発症した右下腹部痛の際には,卵巣捻転を必ず鑑別診断に挙げなければならないのである4)
★小児科医から小児外科医へ
急性胃腸炎に紛れての捻転は鑑別が難しい.しかし,好発年齢,自然経過を丁寧に診ていれば少なくとも再診時には判断できるはずだが,残念ながら,頻度が少なくまだまだ診断が遅れる場合もある状況となっている.

精巣捻転・精巣付属小体捻転
精巣捻転は新生児に発症する鞘膜外捻転と,主として思春期に発症する鞘膜内捻転がある.捻転により精巣への血行障害を来し,放置すると梗塞・壊死へ進展する.付属小体捻転には,精巣上体垂,あるいは,精巣垂頸部に捻転を生じ,血行障害から壊死を起こす.後者の場合は,精巣機能には影響はない.発症年齢は,精巣捻転の場合は,新生児期と思春期の二峰性を示し,付属小体捻転は小学校就学年齢が多いとされ,その発症は,精巣捻転が睡眠中に多いのに比し,付属小体捻転は運動中に多いなどその疫学は明確である4)
★小児科医から小児外科医へ
急性陰嚢症に関しては,腹痛という主訴に対して陰嚢部の診察を忘れなければ見逃すことは少ない.しかし,実際の診療で,陰嚢部の診察をせずに判断してしまう場合がある.それは,患児が母親と一緒に受診するため,患児が恥ずかしがって陰嚢部の痛みを明確に訴えないことによる事が多い.母子関係が診断を誘導してしまうことがあることを理解してほしい.

表01表02

III.おわりに
小児科医は,①腹痛が3~4時間以上持続して,腹痛が次第に増強する.②胆汁性嘔吐を認める.③腹部膨満が急速に進行する.④腹部所見で,筋性防御や腹膜刺激症状を認める,場合は緊急手術が必要なことが多いので,小児外科医に相談すべきとされるが,便秘でも,腹痛が3~4時間以上持続して,腹痛が強まる事があり,胃腸炎で嘔吐する前は腹部膨満を認めることも多い.小児科医と小児外科医が同時に診察を行うことで,お互いの診断アプローチを理解することができ,小児科医から外科医への依頼のタイミングも自ずと理解できるようになる.急性腹症の子どもたちを,適切に診断し,適切なタイミングに手術を行うためには小児科医と小児外科医の連携が何よりも重要であり,この連携によって初めて子どもたちを救うことができるのである.

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本小児救急医学会監修,日本小児救急医学会ガイドライン作成委員会編集:エビデンスに基づいた小児腸重積症診療ガイドライン.へるす出版,東京,2012.
2) 日本小児救急医学会監修,日本小児救急医学会診療ガイドライン作成委員会編:エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017.
3) 正富 和典,黒田 征加,長谷川 利路:過ちやすい外科的な重要疾患―小児の急性腹症を中心に.小児診療,9(9): 1231-1237, 2016.
4) 田口 智章:卵巣捻転,精巣捻転.小児診療,71(4): 689-696, 2008.

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