日外会誌. 121(5): 522-528, 2020
特集
改めて認識する小児急性腹症治療に対する外科医の役割
7.婦人科および泌尿器科疾患
茨城県立こども病院 小児外科 矢内 俊裕 , 東間 未来 , 益子 貴行 |
キーワード
急性腹症, 小児, 婦人科疾患, 泌尿器科疾患
I.はじめに
小児の急性腹症において外科疾患との鑑別を要する婦人科疾患および泌尿器科疾患の頻度は高くはないが,それゆえにこれらの疾患を考慮しつつ診療を行わないと見落としが生じる.緊急手術を要する婦人科疾患には卵巣腫瘍茎捻転や異所性妊娠などが,泌尿器科疾患には精巣捻転などが挙げられ,外科医が初期の検査や対応を行った場合,適切なタイミングで小児外科,産婦人科,泌尿器科にコンサルトすべきである.
本稿では,小児の急性腹症を診察・治療する外科医が遭遇しうる婦人科疾患および泌尿器科疾患(外傷を除く)について解説する.
II.小児急性腹症における婦人科疾患
(1)腫瘤性病変に関連する急性腹症
女児では卵巣の腫瘤性病変が生じうるが,卵胞嚢胞や黄体嚢胞などの機能性のもの,内膜症性嚢胞(チョコレート嚢胞)などの類腫瘍性の病変,良性~悪性の腫瘍がある.小児の卵巣腫瘍においては成熟奇形腫や皮様嚢腫などの胚細胞腫瘍の頻度が高く,超音波検査,CTやMRIでは腫瘍内に嚢胞成分,鏡面形成,石灰化,毛髪や脂肪組織を反映した所見などが特徴的である(図1).
卵巣の腫瘤性病変に関連して生じる急性腹症として付属器の茎捻転があり,腫瘤に一致した下腹部痛を呈する.径5cm以上の大きさの卵巣腫瘤では捻転しやすいとされているが,正常卵巣においても茎捻転は起こりうる.また,卵巣のほかでは傍卵管嚢腫も茎捻転を生じうる.超音波検査では腫大した付属器やDouglas窩の腹水貯留がみられ,color Dopplerでの血流途絶が認められるが,血流がみられても捻転を否定することができない場合もある.小児では悪性腫瘍を除いて卵巣を温存するため,超音波検査で子宮付属器周辺に腫瘤性病変を認めた場合には,速やかに小児外科や産婦人科にコンサルトすべきである.手術では捻転を解除し,卵胞嚢胞や黄体嚢胞では開窓術を,内膜症性嚢胞では核出術を,成熟奇形腫や皮様嚢腫では核出術を施行する.以前は術中の肉眼的所見により付属器が壊死に陥っていると判断された場合に付属器切除が行われていたが,捻転の解除により90%以上の症例で卵胞発育が認められたという報告1)があり,近年では肉眼的所見にかかわらず付属器を温存するようになってきた.なお,ときに卵巣腫瘍では異時性の対側発症がみられるので,術後に長期的な経過観察が必要である.
卵巣腫瘤の破裂や卵巣出血では,卵巣腫瘤の内容物や血液が腹腔内に流出して化学的な腹膜炎を生じる.卵巣腫瘤の破裂では,症状や炎症の程度により緊急性の差があるものの手術を要することが多い.卵巣出血は卵胞または黄体からの出血であり,異所性妊娠との鑑別には妊娠反応検査が必要となる.また,卵巣出血の多くは保存的治療が可能だが,貧血の進行が著しい場合には手術による止血を要する.
(2)妊娠に関連する急性腹症
産婦人科を学ぶ際に言われる「女性を診たら妊娠と思え」という状況は,小児といえども,とくに思春期の女児においては同様である.初経の年齢は10~14歳とされており,月経がありうる年齢の女児に対しては,妊娠の可能性を常に想定して検索すべきである.ただし,羞恥心や恐怖心から十分な視診や内診が困難である場合が多く,精神面にも配慮して対処することが望まれる.月経の状況や妊娠の可能性について問診のみでは情報が不十分なことが少なくない.最終月経に関しては月経不順の場合には当てにならず,また,妊娠初期に生じる性器出血や異常妊娠に伴う性器出血を月経と勘違いしていることもある.妊娠の可能性に関しては,保護者に知られたくないために隠したり,避妊していたので妊娠はありえないと思い込んでいたりする場合もある.さらに,性的虐待を受けている場合や,本人が性交や妊娠について理解していない場合もありうる.超音波検査などの際に保護者に席を外してもらい,その間に必要な問診を追加するなど工夫する.たとえ本人が妊娠していることを否定しても,疑わしい場合には妊娠反応検査を行う2).妊娠反応検査は尿中のヒト絨毛性性腺刺激ホルモンを検出するキットを用いる簡便な検査であり,妊娠4週早期から診断可能である.なお,正常妊娠では,妊娠8週相当になれば超音波検査でも子宮内に胎児や胎嚢を描出することができる.
妊娠に気づきにくい妊娠初期に急性腹症を呈しうる疾患として,流産,異所性妊娠,胞状奇胎などの異常妊娠が挙げられ,まずは超音波検査を施行する.妊娠反応検査が陽性であり,超音波検査で子宮内に胎嚢を認めない場合には,異所性妊娠(卵管妊娠,卵巣妊娠,子宮頸管妊娠,腹腔妊娠)を疑う.異所性妊娠では,超音波検査で子宮外に胎嚢や腫瘤が認められ,Douglas窩に液体貯留がみられるが,子宮外の妊娠部位が不明瞭なこともあるので,妊娠反応が陽性である急性腹症に遭遇した場合には,速やかに産婦人科にコンサルトすべきである.異所性妊娠の部位や状態,妊孕性温存の必要性によっては,卵管を温存する卵管切開術,Methotrexateを用いた薬物療法,待機療法などの保存的治療が選択できることもある3)が,妊娠部位からの大量出血をきたして出血性ショックに陥る危険性があるため,診断や治療が遅れると致命的な結果を招く.異所性妊娠の98%は卵管妊娠であり,卵管妊娠が破裂して腹腔内に大量出血している場合には,救命のために腹腔鏡手術や開腹手術によって卵管切除を行わざるをえない.
(3)月経に関連する急性腹症
思春期女児における急性腹症には単なる月経痛にすぎない場合もあり,月経に関連した器質的異常は稀であるが,それゆえに見逃さないよう超音波検査を施行すべきである.処女膜閉鎖や腟閉鎖,腟欠損などの外性器の形成異常では月経血が体外に排出されずに貯留し(腟留血症,子宮留血症),月経モリミナ症状と称される.月経血の排出がないため本人には月経痛という認識はないが,月経周期と同様に毎月同じ時期に下腹部痛が生じるのが特徴的所見である.処女膜閉鎖や腟閉鎖に対する手術では,閉鎖した処女膜や腟口の切開または切除による開窓術を行う.
重複膣が存在し片側の腟が閉鎖している場合には,閉鎖していない腟から月経血の排出がみられるため,閉鎖している腟内に月経血が貯留して月経痛が強く生じても,単なる月経痛と判断されることがあるので注意を要する.重複子宮・重複腟の片側の腟口が閉鎖しており,同側の腎形成異常(無形成腎,低形成腎,多嚢胞性異形成腎)を伴う疾患は,obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly(OHVIRA)症候群と呼ばれる4).また,双角子宮の片側に傍子宮頸部嚢胞(Gartner管嚢胞)がみられたり,重複子宮の片側の子宮頸部が閉鎖して子宮頸部嚢胞が認められたりし,同側の腎形成異常を伴う疾患は,Herlyn-Werner-Wunderlich症候群と呼ばれる.思春期女児の急性腹症において,超音波検査で片側腎の形成異常が認められた場合には,これらの疾患を鑑別すべきである.
(4)感染に関連する急性腹症
骨盤内炎症性疾患(pelvic inflammatory disease:PID)の大部分は,性感染症(sexually transmitted disease:STD)などの腟からの上行性感染によって生じ,子宮付属器炎から骨盤腹膜炎へと進展する.ほどんどのPIDでは発熱を伴い,帯下の増加や悪臭がみられることが多い.右の付属器に限局したPIDでは急性虫垂炎との鑑別が困難な場合があり,超音波検査や造影CTなどの画像診断を駆使して鑑別する.感染が腹部全体に波及すると汎発性腹膜炎の症状を呈する.上腹部までクラミジアや淋菌による感染症が拡がり肝周囲炎を生じた状態は,Fitz-Hugh-Curtis症候群と呼ばれている.PIDでは卵管留膿症やDouglas窩膿瘍をきたすと卵管性不妊の要因となりうるため,急性期の適切な治療が望まれる.
起因菌はクラミジアや淋菌のほかに嫌気性菌も多い.治療にはセフェム系やペニシリン系などの抗菌薬を用いるが,クラミジアに対してはマクロライド系,テトラサイクリン系,ニューキノロン系などの感受性のある抗菌薬投与が必要である.また,再発予防のためには同時にパートナーの治療が必須である5).PIDの多くは抗菌薬による保存的治療で治癒するが,卵管留膿症や骨盤内膿瘍を呈している場合にはドレナージや膿瘍除去などの外科的治療を要する5).
III.小児急性腹症における泌尿器科疾患
(1)陰嚢領域に関連する急性腹症
陰嚢内の急性有痛性腫脹を呈する急性陰嚢症では下腹部痛を訴えることも多いため,男児の急性腹症においてはパンツを脱がせて陰嚢部も診察すべきである.とくに緊急手術を要する精巣捻転では思春期男児の発症が多いため,患児の羞恥心に配慮して外陰部の診察を躊躇するとゴールデンタイムを逸して精巣機能の消失を招く.急性陰嚢症が疑われた場合には,速やかに小児外科や泌尿器科にコンサルトすべきである.
精巣捻転では超音波検査によるcolor Dopplerでの精巣内血流の消失がみられるが(図2),慣れていない検者では判定困難なこともあるので,精巣捻転の疑いが否定できない場合には緊急手術による患側陰嚢の試験切開を行う6).精巣の温存が可能な条件として,①発症から捻転解除までに要した時間,②捻転の回転度が挙げられ,360度以上の回転があれば発症から4時間以内に整復固定しても精巣の萎縮が起こりうる6).発症から12時間を超えると精巣温存率が60%以下となり,精巣を温存しえた場合にも精巣萎縮が40%以上に生じると報告されている.ただし,捻じれた部位が長く精索が太いタイプでは絞扼が緩やかであるため,ゴールデンタイムと称される6~8時間を超えていても温存可能な場合もある.いずれにせよ,精巣を温存するためには早急な手術介入が必要である.精索の捻転を解除後に血流が回復すれば精巣固定術を,血流が回復しなければ精巣摘除術を施行するが,精巣を温存しえた場合でも精巣萎縮が生じる要因としてtesticular compartment syndromeが考えられ,減張切開としての精巣白膜切開が有用な場合がある.思春期男児の精巣捻転は精巣固有鞘膜の付着異常が原因である鞘膜内捻転であり,対側精巣も捻転を生じやすい解剖学的形状の可能性があるため対側の精巣固定術も行うのが一般的である.
精巣捻転と鑑別を要する急性陰嚢症のなかで頻度の高い疾患は,付属小体捻転と精巣上体炎である.付属小体捻転では消炎鎮痛剤投与による保存的治療を行うが,手術時に判明した場合には付属小体を切除後に患側のみの精巣固定術を施行する.精巣上体炎の起因菌としては,大腸菌,グラム陽性球菌,クラミジア,淋菌などが多く,超音波検査では精巣上体の腫大とcolor Dopplerでの血流亢進がみられ,精巣内には血流が認められる.精巣上体炎では抗菌薬および消炎鎮痛剤の投与を行うが,手術時に判明した場合には患側のみの精巣固定術を施行する.
(2)尿路通過障害に関連する急性腹症
尿路通過障害の原因としては,先天性尿路異常である腎盂尿管移行部通過障害や尿管膀胱移行部通過障害,尿路結石や尿路腫瘍,尿路の外的圧迫(血管,腹部腫瘤,便塊)などが挙げられる.腎盂内圧の上昇により腎盂が破裂すると腎周囲の後腹膜腔に尿が貯留し(urimoma),尿管ステント挿入などによる尿ドレナージが必要となる.超音波検査で水腎症や水尿管症を認めた場合には,小児外科医や泌尿器科医にコンサルトすべきである.
注意すべき疾患として,間欠性水腎症が挙げられる7).間欠性水腎症とは,尿量増加や体位変換などにより腎盂尿管移行部に潜在する内因性・外因性の閉塞機転が急激に増悪し水腎症をきたす病態であり,疼痛が急激に出現し,尿路通過障害が自然解除されると疼痛が消失するが,腹痛発作を反復することが多い.腹痛発作の際にのみ水腎症を呈する場合があるので,診断には疼痛時および疼痛消失時の超音波検査所見の比較が重要である.
小児では尿路結石は少なく,基礎疾患として代謝異常がみられることが多い.尿路結石では疝痛発作と血尿を伴うが,X線や超音波検査で結石が同定困難な場合にはCTが有用である.自然排石率が高いが,外科的治療が必要な場合には開放手術や腹腔鏡手術のほかに,低侵襲治療として体外衝撃波結石破砕術(extracorporeal shock wave lithotripsy:ESWL),経尿道的結石破砕術(transurethral lithotripsy:TUL),経皮的結石破砕術(percutaneous nephronlithotripsy:PNL)が施行される.
(3)尿路感染症に関連する急性腹症
膀胱尿管逆流や水腎症に合併した腎盂腎炎では腹痛に高熱を伴い,進展すると腎膿瘍や腎周囲膿瘍を生じる.超音波検査では肥厚した腎盂壁が高輝度エコーを示し,尿混濁所見として腎盂内の尿に点状の高輝度エコーが混在する.抗菌薬投与による保存的治療を行うが,膿瘍に対してドレナージを要する場合もある.
なお,尿路感染症ではないが,尿膜管遺残(嚢胞)に感染を生じた場合には下腹部正中の疼痛がみられ,発熱を伴う.抗菌薬投与やドレナージによって炎症が消退したのちに尿膜管(嚢胞)切除術を施行する.
(4)腫瘤性病変に関連する急性腹症
通常,尿路の腫瘤が腹痛の原因になることは少ないが,腫瘍内出血や破裂によって急性腹症を呈することがある.中枢神経(脳)病変,皮膚病変,心・肺・腎の内臓病変など,全身にわたる病変が発現する結節性硬化症では,腎の血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)を合併する頻度が高く,10歳頃からAMLが発症する.AMLが増大して腫瘍破裂による出血性ショックをきたすと致命的になる場合があるため,AMLに対して動脈塞栓術や腎部分切除術が行われてきたが,最近では腫瘍増殖抑制作用のあるEverolimus内服による治療が第一選択となっている8).
IV.おわりに
小児の急性腹症においては,見逃すと適切な治療のタイミングを逸して重大な結果になりかねない婦人科疾患および泌尿器科疾患がいくつかあるが,注意を要する疾患は限られている.それらを常に鑑別疾患として念頭におきながら超音波検査を積極的に活用し,泌尿生殖器系の臓器の形態を観察して,腫瘤性病変やDouglas窩の液体貯留の有無,精巣の血流などを確認すべきである.また,低年齢の小児では恐怖心のため,思春期の小児では羞恥心のため,患児が診察に抵抗したり医師が外性器の診察を躊躇したりして十分な情報がえられない場合が多いが,男児の急性腹症では必ず陰嚢部も診察する必要がある.
利益相反:なし
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