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日外会誌. 121(5): 517-521, 2020

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特集

改めて認識する小児急性腹症治療に対する外科医の役割

6.胆道系疾患

東京女子医科大学 小児外科

世川 修

内容要旨
小児領域における急性腹症の原因として,胆道系疾患は疾患の種類・症例数ともに非常に少ない.その中で,比較的報告例が多い疾患は胆嚢捻転症,胆石症,先天性胆道拡張症(胆道穿孔)である.胆嚢捻転症は,捻転に伴う血流障害から胆嚢壊死に至り,致死的となることもある疾患であり,先天性疾患である遊走胆嚢が発症に大きく関係している.小児では遊走胆嚢の形態的特徴から,成人と比べて捻転が高度となりやすい特徴がある.胆石症は,小児では疾患そのものが急性腹症の原因となることは稀だが,小児胆石症には基礎疾患が存在することが多く,その基礎疾患が急性腹症と関連することがあるため,基礎疾患の検索が必要である.先天性胆道拡張症は,膵・胆管合流異常症の存在のために,蛋白栓による胆道閉塞や胆道穿孔を合併し急性腹症の原因となり,根治手術前に胆道ドレナージや緊急手術が必要になることがある.胆嚢捻転症や胆道穿孔に対する治療として,小児領域でも腹腔鏡手術の報告が増えてきており,今後も胆道系急性腹症疾患に対するさらなる低侵襲手術が期待される.

キーワード
小児, 胆嚢捻転症, 胆石症, 先天性胆道拡張症, 腹腔鏡手術

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I.はじめに
成人領域では胆石症が日常的に遭遇する疾患であり,胆道系急性腹症疾患は胆石症が関係した胆石胆嚢炎や急性胆管炎を始め,急性無石性胆嚢炎,胆嚢出血,胆嚢捻転,外傷性胆嚢損傷,胆嚢穿孔など多岐に渡り症例数も多い.しかし,小児領域では胆石症そのものの症例数が圧倒的に少なく,胆石症が原因となった急性腹症疾患も極めて稀であるため,小児急性腹症の中で,胆道系疾患が占める割合は非常に少ない.山崎1)は,胆石症と胆嚢炎を小児領域の胆道系急性腹症疾患として挙げているが,ともに遺伝性球状赤血球症などの溶血性疾患や先天性胆道拡張症などの基礎疾患が存在することが多いと述べている.また,黒田2)は自験例445例の急性腹症の中で,小児腹部救急疾患として急性虫垂炎,腸重積,イレウスの3疾患で全体の90.8%にのぼり,先天性胆道拡張症(5.2%)を加えた4疾患で全体の95%以上を占めると述べている.さらに大渕ら3)は,2016年12月までに本邦で90例の小児胆嚢捻転症の報告があると述べている.このように,小児領域での急性腹症における胆道系疾患は,絶対的な症例数としては非常に少なく,胆嚢捻転症および先天性胆道拡張症などの基礎疾患を有する胆石症・胆嚢炎・胆道閉塞・胆道穿孔が主な疾患と考えられる.
一方,成人での胆嚢疾患に対する手術は,緊急例も含めて腹腔鏡下胆嚢摘出術が広く行われている.2018年の日本内視鏡外科学会における内視鏡外科手術に関するアンケート調査(第14回集計報告)4)では,胆嚢疾患に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術は,2008年から2017年までの10年間で,成人領域での総数が278,055件(517施設)であるのに対して,小児外科領域では319件(120施設)であった.2017年単年でみても,成人領域では32,178件であるのに対し,小児外科領域ではわずか40件であった.成人での腹腔鏡下胆嚢摘出術の主な対象疾患は,多い順に胆石症,急性胆嚢炎,胆嚢癌,胆嚢ポリープ,胆嚢腺筋腫症であり,急性胆嚢炎は2番目であった.また近年では,成人領域における単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の報告も多く,2008年から2017年までの10年間で35,637件,2017年単年では3,995件の報告があり,緊急疾患に対する単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の報告も増えている.
このように,腹腔鏡下胆嚢摘出術の手術件数からも,小児領域で胆嚢胆道疾患が非常に少ないことが分かる.小児では,胆道系急性腹症疾患に対して,開腹手術による胆嚢摘出術を行っている施設も多いと思われるが,近年では徐々に腹腔鏡手術の報告も増えてきている3)5).本稿では,小児領域における胆道系疾患の急性腹症治療に関して,比較的報告例の多い疾患を中心に,小児外科医が行うべき役割,特に手術的治療について解説する.

II.胆嚢捻転症,遊走胆嚢
胆嚢捻転症は,捻転に伴う血流障害から胆嚢壊死に至り,致死的となることもある疾患であり,1898年にWendel6)によって,20代女性の胆嚢内結石を伴った症例がはじめて報告された.本邦では1932年に横山7)が報告し,これまでに約400例以上が報告されている.好発年齢は0〜10歳と60〜80歳までの二峰性のピークがあり,小児期では男児に多く(4:1),成人では女性(3:1)に多い傾向がある8).小児では稀な疾患ではあるが,遊走胆嚢という先天性疾患が発症に大きく関係するため,小児外科医としてはその病態や診断,治療に関する知識を持ち合わせておくべき疾患である.
発症機序は,まず先天的要因として遊走胆嚢が存在するが,遊走胆嚢自体は発生頻度が4〜11%と,胆道発生異常の中でも比較的よくみられる疾患である9).そこに後天的要因としてるい痩,老人性亀背,腹腔内圧の急変,胆嚢内胆汁鬱滞,外傷,物理的障害などが加わって発症するとされる10)
胆嚢捻転症には,形態的分類と捻転度分類が存在する.Grosss11)は,遊走胆嚢の形態から分類し,胆嚢と胆嚢管が間膜により肝下面に付着しているA型(Ⅰ型)と,胆嚢管のみが間膜により肝下面に付着しているB型(Ⅱ型)に分類している.またCarterら12)は,胆嚢の捻転度から分類し,捻転度が180度以下で自然寛解の可能性もある不完全型と,捻転度が180度以上で胆嚢が壊死に陥る完全型に分類している.大渕ら3)は,胆嚢捻転症の小児例67例と成人例145例の詳細な検討を行っているが,その中で小児ではGross分類のB型が多く,成人ではA型が多かったと報告している.すなわち,小児では遊走胆嚢の程度が強いほど捻転をきたしやすく,成人では遊走胆嚢の程度に加えて,後天的要因が寄与していると考察している.また,捻転度に関しては,小児例では360°,成人例では180°の割合が最も多く,胆嚢の固定が緩い小児例の方が高度な捻転をきたしやすいとしている.
成人例における臨床症状としては,①無力性体質の老婦人,②急激な上腹部痛,③腹部腫瘤触知,④黄疸・発熱の欠如,のHainesの4徴候13)が知られている.須崎ら10)による本邦報告236例の検討でも,38℃以上の発熱は20.5%と少なく,加藤ら14)の小児例における報告においても,38℃以上の高熱を認めた症例は2.2%と少ないため,胆嚢炎との鑑別に有用な所見と考察している.
術前診断の正診率に関しては,1994年の須崎ら10)の報告では8.9%の正診率で,34.5%の症例が通常の胆嚢炎・胆石症と診断されたと報告しているが,2017年の大渕ら3)の報告では,小児で58.5%,成人で61.7%の術前正診率であったと報告しており,画像診断の進歩により正診率が向上してきていると考えられる.画像検査としては超音波検査が有用で,胆嚢腫大,胆嚢壁肥厚,胆嚢と胆嚢床との遊離あるいは肝床との接触面積の狭小,胆嚢の正中側または下方偏位が特徴的な所見とされている.また,腹部CT検査では胆嚢底部の偏位,胆嚢頸部の渦巻き像,胆嚢壁の肥厚,胆嚢腫大,MRCPでは胆嚢腫大,胆嚢底部の偏位,胆嚢管の先細り・途絶,胆嚢頸部の欠損像がそれぞれ特徴とされている.
治療に関しては,急性胆管炎・胆嚢炎診療ガイドライン15)では,胆嚢捻転症は急性胆嚢炎の鑑別疾患として挙げられており,急性胆嚢炎と診断された症例が短時間に増悪する場合には,頻度は非常に少ないが,胆嚢捻転症の合併を考え早期に手術をすることが望ましいと記載されている.成人領域では,画像検査の進歩により術前の正診率が向上し,単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術を行った報告例が増えてきている16)17).小児では,胆嚢捻転症の症例数は多くはないが,成人と比べて捻転が高度となりやすい.そのため,小児で急性胆嚢炎が疑われた際には,積極的に胆嚢捻転症の存在を考え早期に診断することで,小児の胆嚢捻転症も単孔式を含めた腹腔鏡手術の良い適応になり得ると考える3)5)

III.胆石症
既述したごとく,小児における胆石症の頻度は少なく,たとえ胆石が存在していても,有石胆嚢炎や総胆管結石,胆管炎の原因になることは稀であるため,無症状であれば経過観察することが一般的である.一方,小児の胆石症には基礎疾患が存在していることが多く,その基礎疾患自体が急性腹症の原因となることもある1)2).そのため,胆石症に対する小児外科医の役割は,急性腹症の原因としての胆石症に対する治療というよりは,胆石症の原因を検索し,基礎疾患が存在していた場合には,その基礎疾患で起き得る合併症を未然に防ぐことにあると考える.
小児の胆石症の原因としては,抗菌薬(セフトリアキソン)や利尿剤投与による胆泥形成,長期中心静脈栄養の他,基礎疾患としては先天性心疾患,溶血性貧血や遺伝性球状赤血球症などの血液疾患,膵・胆管合流異常症が知られている.特に,膵・胆管合流異常症例は通常と比較して胆道結石を合併しやすく,その頻度は先天性胆道拡張症では17.9%,胆管非拡張型膵・胆管合流異常では27.3%で有意に胆管非拡張型が高頻度で,先天性胆道拡張症では胆管結石,胆管非拡張型では胆嚢結石が高頻度であるとされている18).胆管非拡張型では,膵・胆管合流異常を証明するためにMRCP,ERCP,腹腔鏡下胆嚢造影,胆嚢内胆汁の膵酵素測定などが必要になる(図1).

図01

IV.先天性胆道拡張症,胆道穿孔
小児の胆道穿孔は特発性穿孔の報告19)もあるが,ほとんどは膵・胆管合流異常症を伴う穿孔20)であり,頻度は多くないが,先天性胆道拡張症の合併症として広く知られている.先天性胆道拡張症に合併した胆道穿孔の頻度は1.8%から16%であり,5歳以下の乳幼児に多く,紡錘状の肝外胆管拡張に多いとされている.穿孔部位は肝門部肝管や拡張した総胆管前壁に多いが,総胆管後壁や3管合流部の穿孔例,多発穿孔例もある.穿孔の原因に関しては,膵液の胆管内への逆流による胆管壁の炎症と脆弱化,乳幼児期における胆管壁の未熟性,共通管内の蛋白栓の存在による胆道内圧の上昇などが考えられている21)
膵・胆管合流異常診療ガイドライン18)では,胆道の狭小部や共通管で蛋白栓の嵌頓が持続する場合は,症状の悪化や遷延がみられ(最重症が胆道穿孔),胆道ドレナージないし緊急手術が必要であると記載されている.穿孔や切迫穿孔の状態での胆道ドレナージに関しては,腹腔鏡下胆嚢外瘻造設術の有用性が報告21)されている.根治手術である腹腔鏡下総胆管拡張症手術も2016年度に保険収載されているため,術前の合併症である胆道穿孔や蛋白栓の嵌頓に対する緊急手術を腹腔鏡で行うことは,多くの点で利点があると考える.

V.急性胆管炎
小児では,胆石症の頻度が少ないため,急性腹症の原因として,成人では一般的に発症する総胆管結石に伴う急性胆管炎を経験することはほとんどない.小児領域において重要な急性胆管炎は,胆道閉鎖症や先天性胆道拡張症術後の逆行性(上行性)胆管炎や肝臓移植後の胆管炎であり,内科的治療が主となるが,小児外科医が治療を行うことが多い.また,膵・胆管合流異常症が急性胆管炎の原因となっていることがあるため,無石胆管炎を繰り返す場合には,基礎疾患の検索が必要である.

VI.おわりに
小児領域では,急性腹症における胆道系疾患の症例数は非常に少ないが,比較的報告例の多い胆嚢捻転症(遊走胆嚢),胆石症,先天性胆道拡張症(胆道穿孔),急性胆管炎に関して解説を加えた.成人領域では普遍的に腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われており,急性胆嚢炎や胆嚢捻転症などの緊急疾患に対する単孔式腹腔鏡下胆嚢摘出術の報告も増えている.一方,小児領域では腹腔鏡下胆嚢摘出術の絶対的症例数が極めて少ないために,胆道系の急性腹症疾患に対する治療として,いまだに開腹手術が選択されることも多いと考えられる.
しかし,先天性胆道拡張症や胆道閉鎖症に対する高難度腹腔鏡手術もすでに保険収載されているため,今後は小児領域の胆道系緊急疾患に対しても腹腔鏡手術や単孔式腹腔鏡手術の報告が増えることが期待される.

 
利益相反:なし

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文献
1) 山崎 洋次:小児腹部救急手術の診断と諸問題.腹部救急診療の進歩,11:181-185,1991.
2) 黒田 達夫:小児急性腹症診察のコツ.日腹部救急医会誌,29:35-38,2009.
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4) 日本内視鏡外科学会:内視鏡外科手術に関するアンケート調査―第14回集計結果報告―.日内視鏡外会誌,23:727-890,2018.
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