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日外会誌. 121(4): 475-476, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第96回卒後教育セミナー(令和元年度秋季)(第81回日本臨床外科学会総会開催時)

知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
 2-1.知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
―消化器外科―

北海道大学大学院 消化器外科学教室Ⅱ

平野 聡

(2019年11月16日受付)



キーワード
消化器外科, 新専門医制度, 外科教育, Off-the-jobトレーニング, シミュレーター

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I.はじめに
新専門医制度の開始に伴い,外科のサブスペシャルティの一つである日本消化器外科学会による消化器外科専門医制度の取得要件は大幅に緩和される予定である.しかし,現行制度も含め,技術に関する評価が含まれていない点が問題であり,必要手術要件が大幅に緩和される新制度では,技術力の担保はさらに重要性を増すと考えられる.真に実力のある専門医として手術に臨むためには,修練期間はもちろん専門医取得後もレベルに応じた各種の手術トレーニングを効率良く行い,技術力を高める努力を継続すべきである.

II.新しい消化器外科専門医制度
新制度における手術経験の要件は,中・高難度手術から術者として50例を含む300例の経験とされ,現行の450例から大幅に軽減される予定である.さらに,必須術式としての規定も数的あるいは質的緩和がなされることが決定している.しかし,その中には現在,腹腔鏡下手術が主流となっている結腸癌手術などが含まれており,術者要件を満たすためにも腹腔鏡下手術手技を含め,修練の早い段階からトレーニングを積むことを考えるべきである.

III.消化器外科における手術トレーニング
1)シミュレーショントレーニングと評価
内視鏡外科に象徴されるminimal invasive surgeryは消化器外科領域で急速に普及し,Open surgeryの中でOn the jobとして行われてきた技術指導をOff the job training(Off JT)へとシフトせざるを得ない状況を生んだ.全ての外科医が一定の能力を身につけるためには,もはや術中の経験では完全に不足であり,いかに効果が高く効率の良いOff JTを行うかが,技術向上の鍵である.Off JTは外科教育研究を通じて科学的に検証しつつ,適切なプログラムを確立していく必要がある.現在,ドライラボから始まり,ウエットラボとしての動物冷凍臓器,動物やカダバー(献体による死体),あるいはvirtual reality器機などが利用可能であるが,時間的,空間的な制約や設備の問題から,ドライボックスシミュレーターが主体とならざるを得ない.現在,結腸切除術や鼠径ヘルニアなど一般的な腹腔鏡下手術のシミュレーターとその評価スケールが開発されており,それらが実際の手術手技の優劣や術後成績を反映することがすでに証明されている1)2)
2)Dialogic teachingの応用
いずれのトレーニングにおいても,修練医が単独で行うことは効率的とはいえない.そこで,学校教育の現場において実践されてきたDialogic teaching(対話的教授)を応用し,音声による解剖の確認や指導医のアドバイスを映像とともに記録することは,臨場感のある専門用語の習得,あるいは手術時のチームワークの形成にも寄与するため,有用な方法である.これは実際の手術のビデオを使用した反復トレーニングにおいても有用であり,術者があえて解剖名称,decision makingの論拠,pit-fallなどを録音した手術ビデオは格好のトレーニング教材となる.
3)学年(経験)別のトレーニングの実際
研修医から外科専攻医初期の基礎的技術習得は領域に限らず重要であり,積極的にドライラボや動物腸管を利用したウエットラボでのトレーニングを行う.インターネット通信を利用した双方向型遠隔トレーニングシステムを用いた内視鏡外科の基本トレーニングは,時間と場所の制約が多い若手外科医の基本スキルを遠隔地から指導することができる.
修練医後半からシニアにかけては,実際の手術手技をいかにrealityをもって習得させるかが重要であり,アニマルラボにおける吻合などの手技の獲得や,高難度手術を実際に体験できるカダバーラボが有用である.
4)Packageトレーニングの有用性
一つの術式やその中のいくつかの難度の高い手技について,1~2日をかけて集中してトレーニングするプログラムであり,座学→シミュレーター→カダバーラボまたはアニマルラボの組み合わせで高い手技の習得が図られる.基本事項の復習から詳細(微細)なknow-howを他者のテクニックから学ぶ有用なトレーニングモデルであると考えている.しかし,一方で一定の人数制限があり,参加者は一定のレベルを有していることが求められる.
5)On the jobトレーニングへの応用
Open surgeryのトレーニングにおいても内視鏡外科領域で培われた理論が応用可能である.特に高難度手術においても早い時期に第一助手の経験を蓄積させ,続いて部分的な術者としてStep-by-stepに経験を積ませることは,手術全体を一気に経験させる場合より習得にかかる時間が短縮できることが証明されている3).膵空腸吻合などの高度な手技はシミュレーターを用いたトレーニングを取り入れ,その達成度と助手の経験値を踏まえ,手術執刀レベルの判定基準とすることができる.実際の執刀を前述のように音声付きビデオとして保存することは反復練習の教材として有用性が高い.

IV.おわりに
今回,教室での外科教育研究のエビデンスを含め,消化器外科におけるトレーニングの実際について紹介した.これらが消化器外科に限らず,異なる専門領域においても何らかの形で応用される可能性を期待しつつ講演を行った.

 
利益相反:なし

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文献
1) Kurashima Y, Feldman LS, Al-Sabah S, et al.: A tool for training and evaluation of laparoscopic inguinal hernia repair:the Global Operative Assessment of Laparoscopic Skills-Groin Hernia (GOALS-GH). Am J Surg, 201: 54-61, 2011.
2) Hogg ME, Zenati M, Novak S, et al.: Grading of Surgeon Technical Performance Predicts Postoperative Pancreatic Fistula for Pancreaticoduodenectomy Independent of Patient-related Variables. Ann Surg, 264: 482-491, 2016.
3) Mizota T, Kurashima Y, Poudel S, et al.: Step-by-step training in basic laparoscopic skills using two-way web conferencing software for remote coaching:A multicenter randomized controlled study. Am J Surg, 216: 88-92, 2018.

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