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日外会誌. 121(4): 470-471, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第96回卒後教育セミナー(令和元年度秋季)(第81回日本臨床外科学会総会開催時)

知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
 1-1.知っておくべきサブスペシャルティ領域別トレーニングプログラム
―乳腺外科―

国際医療福祉大学 乳腺外科

堀口 淳

(2019年11月16日受付)



キーワード
外科専門医, 乳腺専門医, 新専門医制度, 連動研修, on the job training(onJT)

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I.はじめに
新専門医制度における基本領域の研修は「プログラム制」となっている.基本領域である「外科」を定められた研修プログラムに則って履修後にサブスペシャルティ領域の「乳腺外科」を履修する.ほとんどの研修プログラムでは「外科」と「乳腺外科」を連動研修として組み込んでいるが,連動研修の承認は現時点で得られていない.したがって,本稿では現状の乳腺専門医制度と乳腺外科トレーニングについて解説する.

II.乳腺専門医
2018年4月から開始された新専門医制度では,外科専門医直結のサブスペシャルティ6領域(消化器外科,心臓血管外科,呼吸器外科,小児外科,乳腺,内分泌外科)が正式に承認され,外科専門医からの専攻医は原則3年の研修で乳腺専門医の取得が可能となる.現行制度では乳腺専門医の取得までに,学会の定める基準を満たす認定施設・関連施設において,認定医取得に2年,専門医取得に3年の研修(通算5年以上)を要する.乳腺専門医申請資格は,日本乳癌学会が認定した研修認定施設において所定の修練カリキュラムにしたがい通算5年以上の修練を行っていること,本学会認定施設における100例以上の乳癌症例の診療経験を有すること,規定の乳腺疾患に関する研究業績があること,本学会が主催する専門医セミナーの受講歴を有することなどが条件となっている.申請資格に問題がなく,その後の専門医試験を受けて適格と判断されれば乳腺専門医として認定される.一方,新専門医制度では外科および乳腺外科の連動研修を想定しており,より短期間で乳腺専門医の認定が可能になると考えられる.しかし,2019年3月22日「平成30年度第5回厚生労働省医道審議会医師分科会医師専門研修部会」では,連動研修においてサブスペシャルティ領域の研修が基本領域の研修を脅かす可能性があると考えられ,またサブスペシャルティ領域研修に関する情報(整備指針,各領域認定の研修施設,期間等)が不十分であり,サブスペシャルティ領域そのものの在り方についても慎重かつ十分な議論が必要であるため,2019年4月からの日本専門医機構認定の連動研修は開始を見送られている.

III.乳腺外科トレーニング
Off the job training(offJT)には,医療シミュレーターを用いた切開,縫合,結紮,吻合などのトレーニング,動物を用いたトレーニングや人間のご遺体(cadaver)を用いたトレーニングなどがある.医療シミュレーターでは基本的な手技のトレーニングには有効であるが,実際の手術とは直結しない.動物では人との解剖学的な違いがある.Cadaverでは人の解剖を理解するためには役立つが,電気メスを用いた剥離などの操作では実際の手術手技との相違がみられる.乳腺外科手術の場合,乳癌症例数が全国で年間約9万例あり,また手術に特殊な手技を必要としないため,on the job training(onJT)が可能である.offJTとして切開,縫合,結紮などの基本手技を習得後に早期にonJTに移行できる.乳腺外科手技は一般外科でも必須である切開,結紮,電気メスでの剥離操作・凝固止血,真皮縫合,皮膚縫合などの基本手技を学ぶ上で非常に重要である.特に電気メスの使い方では乳腺外科手術が最も修練できると考えられる.したがって,乳腺外科と外科連動研修はいずれの外科手技も高める上で有用である.乳腺外科では膿瘍の穿刺吸引,切開排膿,腫瘤または石灰化部分の針生検から始まり,良性腫瘍の摘出術,センチネルリンパ節生検,乳房部分切除,腋窩リンパ節郭清,乳房全切除術,皮膚温存乳房全切除術や乳頭温存乳房全切除術と手技の上達とともに段階的にトレーニングして行く(表1).乳癌手術ではoncologyを念頭に入れた手術技術を学ぶ必要があり,術式選択,センチネルリンパ節の転移状況による腋窩郭清の判断,乳房部分切除の断端陽性例に対する追加切除の判断をしなければならない.また,美容的には形成外科医と共同で乳房再建を行う手術技術も追加して修練する.

表01

IV.おわりに
乳腺外科は比較的onJTを行いやすい領域である.乳腺悪性腫瘍の治療では局所治療として外科治療はもとより放射線治療も重要であり,また全身治療としての化学療法,内分泌療法および分子標的治療などを総合的に行うことで根治を目指している.したがって,基礎的知識として乳房および腋窩領域の解剖,乳腺の生理とホルモン環境,疫学,病理,バイオロジーなどについて理解し,そのうえで乳腺疾患の診療に必要な知識,検査,処置に習熟し,EBMに基づいた外科治療を実施できる能力を習得することが重要である.

 
利益相反:なし

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