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日外会誌. 121(4): 407-408, 2020

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若手外科医の声

女性が外科医として働き続けるために

浜松医科大学 外科学第二講座

阪田 麻裕

[平成18(2006)年卒]

内容要旨
外科医として13年目,母親として5年目,「外科医として働き続けるため」,これまでの日々を振り返り,今後について考える.

キーワード
女性外科医, 女性消化器外科医, 思いやり, 共感

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I.はじめに
このような貴重な機会を与えていただき,ご推薦ご指導を賜りました浜松医科大学外科学第二講座竹内裕也教授に深謝申し上げます.
私は2006年に浜松医科大学を卒業,初期臨床研修の後,浜松医科大学外科学第二講座に入局した.静岡県内の関連病院で勤務後,2012年に大学に帰局し,現在は下部消化管外科医として勤務している.2度の産休・育休を経て,2019年秋に仕事復帰したところである.

II.20代~寝ても覚めてもほぼ仕事~
初期臨床研修2年目の冬,いろいろ悩んだ結果,消化器外科の道を選んだ.「外科に女性はいらない」「消化器外科なんて大変だから絶対やめた方がいい」と言われたこともあったが,実際は女性だから困ったという記憶は少なく,逆に「女の先生でよかった」と言われることも多く嬉しかった.夏休み以外の360日弱/年,朝起きてから寝るまでのほとんどの時間は仕事をし,手術や周術期管理などを通して様々なことを学ばせてもらった.プライベートな時間は少なかったが,全くないわけではなかった.仕事にやりがいを感じ充実した日々で,外科医をやめようと思ったことはなかった.卒後6年目に外科専門医を取得,帰局後,下部消化管外科医としての道を歩み始めた.

III.30代~妊娠・出産・育児と外科医~
初期臨床研修医終了時と20代後半に結婚する女性医師は多い傾向にあるが,外科医として研鑽を積み,特に生活に不自由なく,一生結婚しなくてもいいかなと思っていた.だが,数十年先や人生を考えた時,このままでいいのかなと思うようになり,結婚,第一子を妊娠・出産した.妊娠に伴い身体は変化していき,体調に応じて仕事内容を軽減していただいたが,切迫早産で緊急入院となった.妊娠初期に重要な器官形成期があるため,妊娠をいつどのように職場に報告するべきか悩んだ.流産の可能性,健康に産まれてきてくれるかどうか等,無事に出産するまで常に不安であった.産休・育休を取ることで,職場に迷惑をかけることは重々承知していたが,放射線を伴う業務や長時間の手術から外してもらうため,上司に早めに報告した.出産は命がけの大仕事で,身体へのダメージはかなりのものだが,出産直後より24時間365日オンコール状態で休む暇はない.子供が「泣く→オムツ交換→授乳→寝かせる」を昼夜問わず繰り返す.授乳は意外と体力を消耗する.子供が寝ている間に無数の家事をこなし,空いた時間に仮眠する.育児「休業」ではなく,育児「労働」である.内科医の夫は,「妊娠・出産・授乳以外はできる」ため,積極的に家事・育児を行ってくれている.待機児童が多く認可保育園に入れず,院内保育所の空きを待ち,産後1年1カ月で仕事復帰した.両親は遠方のため,夫婦で協力するしかなかった.仕事復帰に際し,時間外労働・日当直・夜間休日の緊急呼び出しの免除,子供の急病時の休暇を受け入れていただいた.3歳頃までは,頻回な時は毎月発熱し,仕事を早退,快復するまで休ませていただいた.年間4日の看護休暇では足りず,年次休暇をフル消化する勢いで,夫と交代で休んだ.男性が自分の子供のために仕事を休むことに関して職場の理解がなかなか得られず,夫は苦しんでいたと思う.2017年に院内病児保育施設ができ,仕事を休む回数は大幅に減った(子供の負担は増えてしまったと思う.).子供が成長してくると,泊りで学会参加や専門医試験受験が可能となり,消化器外科専門医,大腸肛門病専門医を取得できた.卒後13年目に第二子を出産した.第二子妊娠中に学位を取得し,産後9カ月で仕事復帰した.復帰後約3カ月で,病児保育を10日以上利用しているが,外来・手術などの業務を行っている.

IV.これから期待すること
2018年の出生率は過去最低を更新し,合計特殊出生率は1.42と低下傾向であり,外科医不足も進んでいる.出生率改善が国の目指す方針だが,現実は厳しく,女性が産む子どもの数が2では足りない.妊娠出産可能な年齢は限られるため,増加傾向にある女性外科医希望者が,安心して出産後もキャリアアップを行い,働き続けられる環境整備が望まれる.手術のスキルや周術期管理のノウハウ等はすぐに身につくものではなく,時間をかけて体得していくものであるが,妊娠出産育児を契機に,志半ばで仕事をやめざるを得ないのは残念に思う.子供を通して,様々なこと学び,人生は豊かになるが,精神的体力的に大変なことも多い.祖父母の協力が得られる家庭ばかりではなく,父親の参加も大事である.晩婚化や高齢出産に伴い,育児と介護が重なることもある.子育て世代が育休や看護休暇を取得し,育児のための時間を確保しやすい職場の理解は有難い.看護休暇を年齢毎に設定する制度や,充実した院内保育園,病児保育施設,学童保育施設があれば安心して預けることができるが,まずは,烏滸がましいとは思うが,お互いに「思いやり」の気持ちを持って共感し,それぞれの置かれた状況に応じた多様性のある働き方を認めていくことが必要だと考えている.私はこれまで,上司や後輩から数多くの心温まるサポートをしていただき,心が折れそうな大変な時も乗り越え,外科医を続けることができ,感謝の気持ちでいっぱいである.

V.おわりに
外科医であった私の父は,家庭や4人の育児はほぼ全て母に任せ,ほとんど仕事だけをしていた.仕事至上主義の時代からワークライフバランスを大切にしようとする時代に変わってきた現在,ライフステージ毎に自分のできることを考え,目標を持ち,可能な範囲で働き続けていきたいと思う.そして将来,還元できるようにしたい.

 
利益相反:なし

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