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日外会誌. 121(3): 383-384, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 2.肺癌診療ガイドライン―外科領域を中心に―

札幌医科大学 呼吸器外科

渡辺 敦

(2020年1月11日受付)



キーワード
非小細胞肺癌, 胸膜中皮腫, 胸腺腫, GRADE

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I.はじめに
肺癌診療ガイドライン2018年版1)では,評価法がMinds2007からGRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation)システムに変更された.このシステムでは,CQ(clinical question)を明確化し,アウトカムに対する全体的な質の評価のためにシステマティック・レビューを行い,ガイドラインパネル会議で推奨文を決定する.今回,非小細胞肺癌,胸膜中皮腫,胸腺腫に関してガイドラインの要点を述べる.

II.非小細胞肺癌
1)診断
肺癌の進行度に関しては,UICC肺癌取扱い規約第8版でT因子において腫瘍径は,充実部の径となったことを理解する必要がある.肺癌の検出のためにPET/CT,血清腫瘍マーカー測定を行わない(CQ2,3).T因子診断のために胸部造影CTを行い,縦隔浸潤,胸壁浸潤,腫瘍周囲の無気肺の鑑別にはFDG-PET/CT,胸部MRIを施行する(CQ19).N因子診断のために胸部造影CT,FDG-PETを行う.さらに,転移の有無で治療法が異なる症例では,画像検査で縦隔リンパ節転移を疑う場合超音波内視鏡検査による病理学的診断を行う(CQ20).M因子診断のためにFDG-PET/CT,頭部造影MRIを行う(CQ21).治療方針を決めるための分子診断のために非扁平上皮癌ではEGFR遺伝子変異検査,ALK融合遺伝子検査,ROS1融合遺伝子検査,BRAF遺伝子変異検査,PDL1-IHCを施行し,扁平上皮癌ではPDL1-IHCを施行する(CQ22).この際,検査項目に優先順位をつけず,同時に行う(CQ23).
2)外科治療
Ⅰ,Ⅱ期に対する標準手術は,肺葉切除以上の術式を行う(CQ3).ⅠA期,最大腫瘍径2cm以下の症例,肺葉切除に耐術不能な症例には縮小手術を行う(CQ4,5).臨床病期ⅢA期の治療方針は,呼吸器外科医,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療グループで検討する(CQ6).臨床病期ⅢA期T4N0–1非小細胞肺癌に対して,外科切除を行う(CQ8).可能であれば肺全摘を避け気管支・肺動脈形成を行う(CQ12).到達経路に関しては,胸腔鏡手術は行うよう提案され(CQ17),ロボット支援肺葉切除術は推奨度決定不能とされた(CQ18).肺尖部胸壁浸潤癌術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療を行う(CQ44).
3)周術期治療
臨床病期Ⅰ~ⅢA期(第8版)に対して,術前プラチナ製剤併用療法に関しては,Ⅰ~Ⅱ期では行わない.Ⅲ期に対しては行うよう提案された(CQ25).術後補助化学療法術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA期(第8版)完全切除,腺癌症例に対して,UFTを使用する(CQ27).術後病理病期Ⅱ~ⅢA期(第8版)完全切除例に対して,シスプラチン併用化学療法を施行する(CQ29).EGFR遺伝子変異陽性の術後病理病期ⅠB~ⅢA期完全切除例に対してEGFR-TKIによる治療は行わない(CQ30).脳転移に対しては,4個以下で腫瘍径3cm程度までであれば定位手術的照射を行う(CQ87).

III.胸膜中皮腫
全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査では5年生存率はⅠ期14.6%(n=48),Ⅱ期4.5%(n=22),Ⅲ期8.0%(n=50),Ⅳ期0.0%(n=70)といずれも予後不良である.MIG(Mesothelioma Interest Group)病期分類とWHO分類による組織分類を総合的に評価することが重要である.中皮腫の確定診断には,血清の可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)値,胸水ヒアルロン酸によっては行わない(CQ3,4).確定診断には,可能なかぎり全身麻酔胸腔鏡下胸膜生検を行い,PS不良例で腫瘤形成のある中皮腫症例においては,CTガイド下針生検も行う(CQ5).胸腔鏡胸膜生検は,One port,予定されている治療術の皮膚切開線上にポートを置き,十分な大きさで全層の胸膜の採取を行う(CQ7).
胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除/肺剝皮術(P/D)後者の急性期成績はリオ烏口であったとの報告もあるが,遠隔成績に差はなくいずれの術式を施行するかは,明確な根拠がない.組織型に対する適応に関しては,肉腫型に外科療法を行わないよう提案(CQ2),2相型に外科療法を行うよう提案された(CQ3).

IV.胸腺腫
胸腺上皮性腫瘍が疑われる場合,重症筋無力症,赤芽球癆,低γグロブリン血症を併存することがあり血清抗アセチルコリン受容体抗体の測定,血球算定,血清γグロブリンの測定を行う(CQ1,2,3).胸腺上皮性腫瘍で切除不能と判断される,術前治療を計画する,および他疾患との鑑別が必要な場合,経皮針生検を行い,切除可能と判断される場合は,経皮針生検は行わない(CQ7).臨床病期Ⅰ~Ⅲ期胸腺上皮性腫瘍切除手術において,腫瘍の完全切除および胸腺摘出術を行う(CQ2,5).完全切除された胸腺腫に対して,術後放射線治療は行わない(CQ10).顕微鏡的または肉眼的不完全切除となった症例には術後放射線治療または術後化学放射線療法を行う(CQ12).肉眼的完全切除が可能な臨床病期Ⅳ期胸腺上皮性腫瘍に対しても,外科切除を施行するよう提案された(CQ8).胸腺上皮性腫瘍に対し根治的治療が行われた場合,胸腺腫の場合10年以上,胸腺癌の場合5年以上の定期的な経過観察を行う.

V.おわりに
肺癌診療ガイドライン2018年版に沿って,その概略を述べた.診療においては十分にガイドラインを理解し,適切な診療を行うことが重要である.
この講演内容は,2020年1月11日に開催した第27回日本外科学会生涯教育セミナー(北海道地区)の記録で,北海道外科雑誌にも掲載している.

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本肺癌学会:肺癌診療ガイドライン 2018年版.悪性胸膜中皮腫・胸腺腫瘍含む.金原出版,東京,2018.

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