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日外会誌. 121(3): 349-351, 2020

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印象記

2019 Japan Exchange Fellowとして第105回American College of Surgeons Clinical Congress 2019 参加および米国施設見学

九州大学大学院 消化器・総合外科

武石 一樹



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I.はじめに
この度,日本外科学会より2019 Japan Exchange Fellowにご選出いただき,第105回American College of Surgeons (ACS) Clinical Congress 2019への参加とOral presentation,施設見学という大変貴重な機会をいただきました.ここに感謝の意を込め,印象記をご報告いたします.

II.第105回ACS Clinical Congress 2019
第105回ACS Clinical Congressは2019年10月27日から31日までの5日間,米国California州San FranciscoにあるMOSCONE CENTER (図1)で開催されました.私にとってACSへの参加は初めてでありました.今回は,Japan Exchange Fellowとして招待され,期間中は手厚い歓迎をいただき,大変光栄でした.初日のOpen Ceremonyでは,メインステージに上がり,Exchange Fellowとして,ACSのPresidentからひとりひとり紹介を受けました.日本外科学会の森正樹理事長も日本外科学会のPresidentとしてご紹介され,一緒に登壇することができ,大変身に余る光栄でありました.ACSのセッションは一般のセッションと専門医を取るためにレジデントが必ず受けないといけないセッションに分かれておりました.私は,プログラム表を見ながら,数多くのセッションに参加できる様にしましたが,会場が大きく移動が大変でした.また,期間中は,Exchange Fellowということで,多くのイベントに招待されました.初日の夜は各施設がレセプションを開催していました.私は,今回のExchange FellowのMentorになっていただいた University of ColoradoのレセプションとACS Japan Chapterのレセプションに参加しました.2日目にはInternational Relations Committee Meetingに参加しました.この会では私と同じ様に,各国から招待された参加者と交流することができました.外科として,抱えている問題が各国で違い,私が体験したことがない症例などの討論を行い,大変,刺激を受ける良い機会となりました.3日目に私は,『The College’s International Scholars and Travelers 2019』というセッションで発表する機会をいただきました.各国の代表が,専門分野なく発表するというもので,発表も外傷外科から外科学の教育方法,ロボット手術の最新の知見や抗がん剤治療を含めた集学的治療法など多岐にわたっており,活発な討論がなされ,司会者から時間を区切られる場面も数多くありました.私は,再生医療,iPS技術を用いた人工肝臓の作成1)3)について発表しました.多くの質疑応答を通して,有意義な討論を行うことができました.

図01

III.施設見学 Department of Surgery, School of Medicine, University of Colorado
今回の私のExchange FellowのMentorとしてACSの参加から施設見学までをコーディネートしていただいたのは,University of Colorado,Chief ProfessorのDr. Richard Schulick, MD, MBA, FACSでした(図2左).Dr. ShulickはACSでもInternational Relation of CommitteeのChiefであり,これまでも多くの日本からのScholarを受け入れていました.専門は私と同じ,肝胆膵外科で,今回,私のMentorを引き受けていただきました.また,もう一人Mentorとして,University of Colorado,ProfessorのDr. Marco Del Chiaro, MD, PhD, FACSもコーディネートしていただきました(図2中).University of Coloradoの医学部キャンパスはColorado州Denver近郊にAnschutz Medical Campus (図3),Children Hospitalがあります.12年連続でColorado州1位の病院に選ばれ,消化管手術,肝胆膵手術,移植を行う大病院でした.特に,肝胆膵手術については,数多くの手術を手掛けており,今回,手術を見学させていただいた症例は,胆嚢癌に対してのロボット支援下の拡大胆嚢摘出術でした.ロボット手術の得意分野である立体視を使い,リンパ節郭清を腹腔動脈周囲リンパ節から肝門部周囲まで一括に郭清して,私も一緒にダビンチを覗かせていただき,その手技に大変感銘を受けました.University of Coloradoでは,積極的に腹腔鏡やロボット支援下の手術を行っておりました.手術中もレジデントができるところは積極的にレジデントに術者をさせ,教育にも取り組んでいました.外科教室の朝はとても早く,6時30分からカンファレンスがあり,教室の基礎研究の発表から,臨床研究の発表まで毎日熱い討論が行われていました.私もその会で自分の研究成果を発表する機会を頂きました.
施設見学はちょうど週末を挟みましたので,週末はロッキーマウンテンの麓にあるDr. Shulickの別荘に招待されました.私と同じ時期にACSのInternational Scholarとして,シンガポール,インド,スウェーデンから肝胆膵外科医が施設見学に来ていましたので,皆で標高3,000m以上の山に上り(図2右),夜は別荘にてワインを飲みながら,それぞれの国での肝胆膵外科の手術について,熱く討論しました.
施設見学2日目は,膵癌の手術と生体肝移植症例が行われていました.アメリカと言えば,脳死肝移植かと思いきや,最近は生体肝移植の症例が増えていることを教えていただきました.九州大学出身であることを説明すると,私の施設をご存知で『君らの施設はSmall for Size Syndromeで有名ではないか』と声をかけてもらい,大変光栄でした.われわれの施設の先輩方がSmall for Size Syndrome克服するための大変な努力と,研究成果を世界に発信していくことの大切さを再認識しました.

図02図03

IV.おわりに
このような大変有意義でかつ名誉ある機会を与えていただきました,大木隆生教授をはじめとする日本外科学会国際委員の諸先生方にこの場をお借りいたしまして,深く感謝いたします.また,ACS Japan Chapterの國土典宏先生,矢永勝彦先生,今回のJapan Chapterでご一緒させていただきましたDr. Takabe (Roswell Park Cancer Institute),牧野知紀先生(大阪大学消化器外科),University of Coloradoに留学中の藤原佑樹先生(東京慈恵会医科大学)や大庭篤志先生(がん研有明病院)には現地で大変お世話になりました.その他,ACSのIRCメンバーの方々,学会参加から施設見学など細かなコーディネートをしていただいたACSの担当秘書のMs. Kate Early,また施設見学,手術見学に際しまして,Mentorとして大変お世話になったDr. ShulickとDr. Del Chiaroにあらためて感謝いたします.そして,今回,Japan Exchange Fellow応募の際に推薦していただいた九州大学消化器・総合外科の森正樹教授,吉住朋晴准教授をはじめ,ご支援いただきました当科の教室員の先生方には厚く御礼申し上げます.
日本外科学会のご支援,ご尽力により今回のような海外との国際交流の場が今後も継続し,日本の外科全体がますます発展することを願いまして,第105回ACS Clinical Congress 2019および施設見学の印象記とさせていただきます.本当にありがとうございました.

 
利益相反:なし

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文献
1) Takeishi K , Collin de I’Hortet A , Soto-Gutierrez A , et al.: Generation of Human Fatty Livers Using Custom-Engineered Induced Pluripotent Stem Cells with Modifiable SIRT1 Metabolism. Cell Metab, 30(6): 385-401, 2019.
2) Collin de I’Hortet A , Takeishi K , Soto-Gutierrez A , et al.: Liver-Regenerative Transplantation:Regrow and Reset. Am J Transplant, 16: 1688-1696, 2016.
3) Takeishi K , Collin de I’Hortet A , Wang Y , et al.: Assembly and Function of a Bioengineered Human Liver Generated Solely from Induced Pluripotent Stem Cells for Transplantation. Cell Reports under review

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