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日外会誌. 121(3): 345-348, 2020

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会員からの寄稿

外科診療所の創傷処理(月別,年齢別,男女別)

小野外科内科 

中野 明夫

内容要旨
2013年1月1日から6年間に828例の外傷の創傷処理を行った.月別手術件数をみると6月と12月に症例が多かった.10歳未満は頭部外傷が多く,10歳以上75歳未満では頭部外傷より手指の外傷が多かったが,いずれの年齢も男性が多かった.75歳以上になると再び頭部外傷が多くなり,男女差もなくなった.頭部外傷の部位に年齢による差異はほとんどなく頭皮,眼瞼,下顎,口唇の順に多かった.

キーワード
外科診療所, 創傷処理, 月別, 年齢別, 男女別

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I.はじめに
日本外科学会会員の中で外科開業医として一次救急に携わっている先生方は多くみえるが,外科診療所における外傷の創傷処理件数をまとめた論文は少ない.一医療機関ではあるが一次救急の現況を報告するため,National Clinical Database(NCD)に登録した2013年1月1日から2018年12月31日までの6年間1,298例の手術症例のうち創傷処理828例について受傷月,年齢,受傷部位および性別を調べた.当院は三重県北勢地方の人口30万人の四日市市の郊外に位置し人口4万人の菰野町と接するため診療圏は四日市市の西部と菰野町に及ぶ.1973年先代が外科診療所として開業してから46年が経ち,地元の方からは外科病院として認知されていると思われる.現在は外科専門医と神経内科専門医の医師2名で診療を行っており,手術は外科医一人で行っている.無床診療所のため創傷処理の他,表皮のう胞の化膿や蜂巣炎の皮膚切開術,肛門周囲膿瘍切開術,爪甲除去術,陥入爪手術(簡単),ひょう疽手術(軟部組織),皮膚皮下良性腫瘍摘出術などの外来小手術を行っている.当院の症例は全てAbbreviated Injury Scale(AIS)では体表の軽傷例に分類され,救急車で搬送されてくる外傷患者はほとんどなく,大抵は患者一人あるいは家族や同僚に連れられて自家用車で受診されている.受傷時の状況および原因は本人あるいは同伴者から聴取している.6歳未満でテープ固定のみの場合を除き原則縫合症例は局所麻酔を行っている.なおAIS分類では体表の軽傷例の手術であり全例合併症なく良好な結果を得ている.

II.月別創傷処理
月別手術症例数(図1)をみると6月と12月に症例が多かった.当院周辺は住宅地と農村地帯が混在しており,6月に外傷が多いのは本格的な夏を前に屋外に出て庭仕事や農作業をすることが多いためと思われる.また12月は師走で気が焦るのか,あるいは年内に作業を済ませようと仕事量が増えるためか外傷が多くなっている.反対に1月は年始で外来診療日が少ないこともあるが,人々も年始早々自宅で穏やかに過ごされることも外傷の少なさに関係しているのかもしれない.私たちの日々の暮らしの変化で外傷の件数も変動していることがうかがえる.

図01

III.年齢別創傷処理
創傷処理の診療報酬が6歳未満とそれ以上に分けられていること,また75歳以上は後期高齢医療制度に加入していることより6歳未満,6歳以上75歳未満,75歳以上の3群に患者層を分け外傷の部位および男女比を調べた.なお頭部,上下肢以外の損傷は4例あり,1例はグラインダー使用中の事故による71歳男性の頸部皮膚損傷,他の3例はすべて転倒による外傷であり,93歳女性の股関節損傷,57歳男性の陰嚢損傷,67歳男性の陰茎損傷の全てが体表損傷であった.最年少は1歳1カ月,最高齢は98歳7カ月で共に頭部外傷であった.年齢別に外傷の部位をみると(図2),6歳未満では頭部外傷が圧倒的に多く,男女比で見ると男児が64.5%を占めていた.一般的に男児の方が女児に比べ活動性が高く,それに伴い頭部外傷が多くなっていることが考えられる.6歳以上75歳未満の場合頭部外傷と上肢の外傷がほぼ同数であり,男性が73.5%を占めていた.75歳以上になると再び頭部外傷の割合が増え男女差がなくなっていた.

図02

IV.6歳以上75歳未満の創傷処理
6歳以上75歳未満の症例を小学校高学年になる前の10歳未満とそれ以上で分けてみると(図3),10歳未満では頭部外傷が圧倒的に多く68.1%が男児であった.10歳以上では頭部より上肢の外傷が増え,上肢の外傷216例中手が63例,指が133例あり手指で90.7%を占めていた.労働や日常生活で手作業の機会も多く手指の外傷も多くなったと思われる.なお10歳以上75歳未満の頭部外傷で76.5%,上肢の外傷で72.2%が男性であった.

図03

V.75歳以上の創傷処理
頭部外傷が97例と再び多くなり,しかも男女差がなくなっているが(図2),これは下肢筋力低下により男女とも転倒しやすくなるためと思われる.なお上肢の外傷は54例ありその内手指が87%を占め,頭部外傷と同様男女差はほとんどなかった.

図02

VI.頭部外傷の部位
頭部外傷の多い10歳未満と10歳以上75歳未満,75歳以上の3群に分けて頭部外傷の部位を調べた(表1).各年齢とも大きな差異はなく頭皮と眼瞼が多く,その次に下顎,口唇と続き,頬部,耳介,鼻部は少なかった.なお口唇外傷の場合,口腔内外で創が貫通していることも多く,その際には口腔内外をそれぞれ縫合している.また耳介外傷で耳介軟骨が損傷されている場合は創縁を合わせるよう皮膚のみ縫合している.

表01

VII.おわりに
日々の暮らしと外傷には密接な関連があり,屋内外で活動性の高まる6月と12月に創傷処理が多かった.10歳未満では頭部外傷が多く,10歳以上75歳未満では手指の外傷が増えるがいずれの年齢でも男性の患者が多かった.しかし75歳以上になると下肢筋力低下による転倒が多くなり再び頭部外傷が増え男女差もなくなった.頭部外傷の部位に年齢による差異はほとんどなく頭皮,眼瞼,下顎,口唇の順に多かった.

 
利益相反:なし

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