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日外会誌. 121(3): 280, 2020

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オリパラに向けた厚労省による外傷外科医養成研修事業

日本外科学会外傷外科医養成研修実施委員長,北海道大学消化器外科学教室Ⅱ 

平野 聡



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厚生労働省委託による「外傷外科医養成研修事業」は,2020年東京オリンピック・パラリンピック開催期間中のテロ災害による重篤な外傷患者,特に爆発物や銃器などによる創傷に対応可能な外科医・看護師を育成することを目的として2017年度にスタートした.幸い,開始年度から最終にあたる本年度まで,連続して日本外科学会が本事業を受託することができている.
研修はグループディスカッションを中心とする座学研修を丸1日行い,加えてわが国の代表的な外傷外科実技コースである動物(ブタ)を用いた外傷外科手術治療戦略(SSTT)標準コース(2日間),またはご献体を用いたAdvanced Surgical Skills for Exposure in Trauma(ASSET)コース(1日)のいずれかの参加をもって受講修了の条件とした.
応募資格は救命救急センターを有する施設に勤務する日本外科学会専門医と看護師のペアとし,医師は5年間350例以上(120例は術者)の手術経験を,看護師は手術室もしくは救急外来に5年以上勤務し,かつ実際に外傷手術に携わった経験があるものと,厳しい条件を定めているが,例年,30組(60名)の定員に対し約2倍の応募がある.当初はオリパラの会場を有する関東圏からの受講者が多かったが,徐々に全国からの受講者が集まるようになってきた.
座学プログラムは,外傷外科医養成研修実施委員によって検討され,外傷外科総論,爆傷,銃創と弾道学,海外のテロ対策例などに関しケーススタディを含めた講義を行い,グループディスカッションも多く取り入れられている.受講者には事前に所属施設の外傷緊急手術体制のアンケート調査を実施し,各自,施設の問題点を把握して本研修会に望むことで改善策を検討する良い機会となっている.SSTT,ASSETの両実技コースとも,すでにOff-the-job trainingコースとして確固たる実績があり,重症外傷に対する治療戦略・チーム医療の基本を体験する有用な機会となっている.
研修修了後に受講者に対しては修了から3カ月以内に「院内体制の変化」についてのレポート提出を義務づけており,本事業による組織体制整備の効果について把握可能となっている.ただし,これまでの2年分の研修修了者に対する実際の招集実績がないことや,施設におけるシミュレーションが義務づけられていないなど,実際の運用面で不安が残るのも事実である.さらに,本年度の研修はオリパラ開幕の直前となるが,在籍施設の体制変更に時間的余裕がないことが懸念され,より即効性のある研修内容が期待されている.
本事業において作成された座学1日コースは短期プログラムとして極めて充実したものである.本事業修了後の来年度以降も本学会における外傷外科医養成ツールの一つとして,何らかのかたちで継続的に運用するのも一案と考える.

 
利益相反:なし

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