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日外会誌. 121(2): 277-278, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(中国・四国地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 6.肝癌診療ガイドライン

徳島大学 外科

居村 暁 , 島田 光生

(2019年9月20日受付)



キーワード
hepatocellular carcinoma, guideline, treatment algorism, hepatic resection, molecular targeted therapy

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I.はじめに
肝癌診療ガイドライン(GL)は厚生労働省のGL支援事業のサポートを受け,2005年に「科学的根拠に基づく肝癌診療GL作成に関する研究班」の研究成果として初版が刊行された.その後,改訂作業が日本肝臓学会に引き継がれ,第2版が2009年,第3版が2013年,現行版が2017年10月に発刊された.2017年版の最大の変化は治療アルゴリズムが第2章に独立して組み込まれ,アルゴリズムの基礎となるCQが追加されたことである.また,手術(第4章)では腹腔鏡下肝切除(LLR)に関するCQが初めて設定されたこと,薬物療法(第7章)では切除不能肝癌に対する分子標的治療の位置づけや新規分子標的治療薬について,さらには分子標的治療の効果判定に関する推奨などが主な改訂ポイントとなっている.

II.治療アルゴリズム
GLはEBMの手法で策定された点が特徴的であり,治療アルゴリズムは厳密にエビデンスに基づき,簡潔に推奨治療が選択できるよう作成されてきた.一方,日本肝臓学会編集の「肝癌診療マニュアル」には「コンセンサスに基づく治療アルゴリズム」が掲載されており,多様な内科的治療にも対応した治療アルゴリズムとなっている.しかし,同一学会から異なる治療アルゴリズムが発信されるダブルスタンダードの状況が,問題となっていたため,今回の改訂では一本化された新たな治療アルゴリズムが作成された1)
2017年版の治療アルゴリズムでは,肝予備能,肝外転移,脈管侵襲,腫瘍数,腫瘍径の5因子に基づいて推奨治療が選択されており,脈管侵襲陽性肝癌には四つの治療が推奨されている.肝予備能指標としてはChild-Pugh分類が用いられることになったが,肝切除の場合はICG15分停滞率を含む肝障害度を推奨すると付記されている.肝外転移と脈管侵襲を考慮した治療選択肢が追加され,少し複雑化したが,より広い病態に対応可能となった.

III.手術
肝切除に関する最近の変化といえば,やはりLLRの普及が挙げられるが,2017年版GLではLLRの適応に関するCQが初めて設定された.一方,その他のCQについては前版までとそれほど大きな変化はなかった.
「腹腔鏡下肝切除術の手術適応は?」というCQが設定され,推奨内容を決定するにあたり,LLRでは開腹肝切除と比べ出血量や合併症が軽減する,長期成績は開腹と同等であるといったLLRの利点に関する報告2),またLLRの難易度は切除部位,腫瘍径,肝硬変の有無により異なるため3),開腹肝切除より厳しく適応を決定する必要があるといった内容が議論された.
現在,LLRは血行・胆道再建を伴わない全ての肝切除術式が保険収載されているが,広範囲切除においては未だ確立した手術手技ではなく,そのリスクも否定できないという理由から,最終的に2014年に盛岡で開催されたLLRの国際コンセンサス会議4)の結果等を勘案し,「肝部分切除術や肝外側区域切除術が可能な肝前下領域(S2,3,4,5,6)の末梢に存在する5cm以下の単発腫瘍が良い適応である」という推奨内容になった.GLは,専門家の個人的意見ではなく,全医師が対象であり,どの施設でも参考にして診断,治療が行えるというコンセプトなので,安全なLLRの普及という点では推奨内容は慎重な方が良いと考えている.
現在,ほぼ全ての肝切除術式が保険収載されているため,肝癌に対しても推奨術式の拡大が考えられるが,精緻な解剖学的切除には開腹肝切除が必要な場合が多く,普遍的なLLRの適応拡大は徐々に進めていくべきである.

IV.薬物療法
肝癌薬物療法において,注目は切除不能進行肝細胞癌に対する分子標的治療である.「切除不能進行肝細胞癌に分子標的治療を行うか?」というCQに対して,肝機能が良いChild-Pugh分類Aであれば分子標的薬による治療が推奨されている.改定時は未だ保険適応でなかったレンバチニブも保険適応となったため肝臓学会ホームページでは部分的に修正されている.また,二次治療についても,「ソラフェニブ治療後画像進行を認め,ソラフェニブに忍容性を示したChild-Pugh分類Aの症例にレゴラフェニブによる治療を推奨する.」となっているが,最近,ラムシルマブがAFP値400ng/ml以上という条件付きで二次治療としての適応が通ったため,推奨内容が改訂された.
切除不能肝癌に対して分子標的薬を投与し,奏効した症例をどう扱うかということまでは明確にされていないが,分子標的治療によりconversion surgery(CS)が可能となった症例もある.CS後にdrug-free状態が得られる可能性もあるため,当初切除不能でも治療中にCSが行えないか常に考えておく必要がある.

V.おわりに
肝癌は個数,大きさだけでなく腫瘍形態による悪性度の違い,背景肝疾患,肝予備能などが症例ごとに異なり,大規模なRCTや前向き試験は少ないため,エビデンスに基づく治療アルゴリズムを確立するのは他癌種よりも難しい.2017年版治療アルゴリズムでは肝外転移と脈管侵襲の有無を考慮することでより広い病態に対応可能となったが,GL全般において今後もEBMの原則に基づきつつ,実際の治療現場のニーズに応じた改訂が行われることを期待したい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 竹村 信行,長谷川 潔,國土 典宏:肝癌診療ガイドライン2017年版改訂について.肝臓,59(12): 659-667, 2018.
2) Takahara T, Wakabayashi G, Beppu T, et al.: Long-term and perioperative outcomes of laparoscopic versus open liver resection for hepatocellular carcinoma with propensity score matching:a multi-institutional Japanese study. J Hepatobiliary Pancreat Sci, 22(10): 721-727, 2015.
3) Xiang L, Xiao L, Li J, et al.: Safety and feasibility of laparoscopic hepatectomy for hepatocellular carcinoma in the posterosuperior liver segments. World J Surg, 39(5): 1202-1209, 2015.
4) Wakabayashi G, Cherqui D, Geller DA, et al.: Recommendations for laparoscopic liver resection:a report from the second international consensus conference held in Morioka. Ann Surg, 261(4): 619-629, 2015.

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