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日外会誌. 121(2): 250-251, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(東北地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 1.上部消化管領域(食道・胃)のガイドラインを紐解く

岩手医科大学 外科学講座

秋山 有史

(2019年9月14日受付)



キーワード
食道癌, 胃癌, 治療ガイドライン, 手術, 外科的治療

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I.はじめに
食道癌診療ガイドラインは2017年に改訂第4版が刊行され1),胃癌治療ガイドラインは2018年に改訂第5版となった2).現ガイドラインの外科治療の要点を概説する.

II.食道癌における外科治療の要点
頸部食道癌は隣接臓器への浸潤の頻度が高く,喉頭合併切除が必要な症例が多い.喉頭温存が可能な症例も術後に誤嚥や肺炎が生じやすく,喉頭挙上術の追加などの十分な配慮が必要である.日本食道学会が行った全国調査では,喉頭温存が困難な患者に対する根治的化学放射線療法で,47.3%で喉頭温存が可能であった.喉頭温存を希望する喉頭合併切除適応食道癌に対して,術前あるいは根治的化学放射線療法を行うことが強く推奨されている.
胸部食道癌は頸・胸・腹の広範囲にリンパ節転移がみられることが多く,T1b-SM2,3以上は進行癌として右開胸により胸腹部食道を全摘し,頸部,胸部,腹部の3領域のリンパ節郭清が一般的である.2015年の食道癌取扱い規約第11版の改訂で鎖骨上リンパ節[104]が2群となり,D2郭清には3領域郭清が必要となった.現在,わが国におけるcStage Ⅱ,Ⅲ胸部食道癌に対する標準治療は,Japan Clinical Oncology Group(JCOG)で行われたJCOG9907試験の結果を受けて,シスプラチン+5FU(CF)による術前化学療法+手術療法である.現在CFに対して,CFにドセタキセルを加えたDCF療法および術前化学放射線療法(CF+放射線療法41.4Gy)の優越性を検証するJCOG1109が進行中である.
また,近年わが国においても胸腔鏡下食道切除術が普及しつつある.2011年のNational Clinical Databaseに登録された症例の解析では,全合併症が開胸群に比して有意に高率で(開胸40.8% vs. 胸腔鏡44.3%,p=0.016),30日以内の再手術率も高率であった(開胸5.6% vs. 胸腔鏡8.0%,p=0.001).胸腔鏡下手術は在院日数を短縮させる可能性があるが,現時点で生存に寄与する十分な根拠はない.現在JCOGで行われている開胸手術とのランダム化第Ⅲ相試験(JCOG1409)の結果が待たれる.
食道胃接合部癌に関する20編の論文のシステマティックレビューの結果,下縦隔リンパ節転移は4.3~31.3%で,下縦隔リンパ節の郭清効果指数は2.8~17.6%であった.食道胃接合部癌では下縦隔リンパ節郭清を行うことを弱く推奨すると記載された.一方で腹部のリンパ節に関しては,[4d],[5],[6]リンパ節の郭清効果が少なく,必ずしも胃全摘は必要ないことが判明した.

III.胃癌治療ガイドライン(第5版)の外科治療における改訂の要点
今回外科領域の改訂の要点は大きく三つで,今回の改訂までの間に結果が出た臨床試験の結果が反映された.
① 上部進行胃癌の非大弯病変を対象に,胃全摘+脾摘群と胃全摘,脾温存群を比較したJCOG0110試験が行われた.短期成績では,脾摘群で有意に出血が多く,合併症(特に膵液瘻)は脾摘群で有意に多く認めた.長期成績では,5年生存率,無再発生存率ともに有意差がみられず,脾温存群の非劣性が証明された.ガイドラインでは,U領域の進行胃癌では,腫瘍が大弯に浸潤していない場合,脾摘を行わないことを強く推奨すると記載された.
② 肝転移,腹膜播種,大動脈周囲リンパ節転移のいずれか一つの非治癒因子のみを有する切除不能進行胃癌を対象に,化学療法単独群に対して胃切除を行ってから化学療法を行う群の優越性が検証された(JCOG0705).中間解析の結果,生存率において胃切除+化学療法群が化学療法群を有意に上回る可能性が13.2%と推定され,無効中止となった.最終解析では,2年生存率は化学療法単独群:31.7%,胃切除+化学療法群:25.1%.減量手術による生存率改善効果は期待できないことが明確となった.この結果を踏まえて,非治癒因子を有する進行胃癌に対しては,減量手術を行わないことを強く推奨する,と記載された.
③ 漿膜面に腫瘍が浸潤した症例に対して,微小な播種病変を切除することを目的に網嚢切除の優越性試験が行われた(JCOG1001).こちらの試験も中間解析で無効中止となり,網嚢切除の意義が否定された.現在SS/SEの進行胃癌を対象に,大網温存の意義を検証する非劣性試験が進行中である(JCOG1711).

IV.腹腔鏡下胃切除術について
cStageⅠ症例を対象とした腹腔鏡下幽門側胃切除術の第Ⅱ相試験(JCOG0703)において,縫合不全または膵液瘻の頻度が1.7%と短期成績は良好で,熟練した外科医によるという条件付きではあるが安全性が確認された.続けて行われた第Ⅲ相試験(JCOG0912)の結果が2019年解析され,開腹に対する腹腔鏡下幽門側胃切除術の非劣性が証明された.進行胃癌についてはわが国のJapanese Laparoscopic Surgery Study Group(JLSSG)0901のⅡ相部で安全性は確認されたものの,長期成績については現在追跡中である.腹腔鏡下胃全摘・噴門側胃切除術に関してはJCOG1401で安全性が証明され,長期成績に関してはJCOG0912の結果が外挿可能との解釈にて,今後選択肢の一つとして提示される可能性がある.

V.おわりに
上部消化管領域,特に食道癌と胃癌のガイドラインの改訂点と外科治療に関する要点を概説した.日本胃癌学会では,ガイドラインの改訂の間でもweb速報がホームページにupdateされるので,ご注視いただきたい.

 
利益相反:なし

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文献
1) 日本食道学会編:食道癌診療ガイドライン2017年版.金原出版,東京,2017.
2) 日本胃癌学会編:胃癌治療ガイドライン第5版.金原出版,東京,2018.

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