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日外会誌. 121(2): 238-240, 2020

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生涯教育セミナー記録

2019年度 第27回日本外科学会生涯教育セミナー(中部地区)

各分野のガイドラインを紐解く
 4.胃癌―ここがポイント胃癌治療ガイドライン:新たに確立された新戦略up date―

岐阜大学 大学院医学系研究科腫瘍制御学講座腫瘍外科学分野

吉田 和弘

(2019年4月7日受付)



キーワード
gastric cancer, guideline for gastric cancer, Japanese Classification of Gastric Carcinoma, TNM classification

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I.はじめに
胃癌治療のガイドラインは2001年に初版が刊行された1)4).当初治療の根拠となるエビデンスには乏しかった.2018年に第5版が刊行されたが5),この間の胃癌治療の進歩には目を見張るものがある.2010年の第3版からは,治療に関する記載を全面的に取り入れられた.一方,同年刊行された胃癌取扱い規約第14版では6),TNMと連動した世界と同じ土俵の上で,わが国の胃癌治療の成績を議論できる状況を整えた.本セッションでは,新たに加わった胃癌治療のガイドラインについて概説する.

II.ここが変わった胃癌治療ガイドライン第5版
変更点とアルゴリズム,Clinical Question(CQ)
1)本版と同時期に改訂となった『胃癌取扱い規約第15版』7)および『TNM分類第8版』と,Stage分類などを連動させた.
2)日常臨床における治療アルゴリズムを改訂し,CQと連結した.
3)胃全摘術のD2郭清の定義から脾門部リンパ節No.10を削除し,その他の外科臨床試験の結果を本文に反映させた.
4)内視鏡的切除の適応病変を変更した.また根治性の評価において「非治癒切除」などの表現がふさわしくないとの意見が強く出たため,新たに「内視鏡的根治度eCura」を定義した.
5)進行胃癌に対する化学療法のレジメンを,「推奨されるレジメン」と「条件付きで推奨されるレジメン」に大別して列挙し,推奨されるレジメンにエビデンスレベルを併記した.
6)臨床現場で遭遇する重要なCQと,それに対するガイドライン委員会の推奨文と解説を,外科,内視鏡的切除,化学療法の分野ごとになるべく多く設定した.

III.内視鏡治療
第5版でのEMR/ESD適応病変として,≤2cm,cT1a,分化型,UL0,またESD適応病変として① >2cm,cT1a,分化型,UL0,② ≤3cm,cT1a,分化型,UL1となった.適応拡大病変として,≤2cm,cT1a,未分化型,UL0,相対適応病変は上記以外の病変で,年齢や併存症など何らかの理由で外科的切除を選択し難い早期胃癌とされた.根治性の評価として,内視鏡的根治度A(eCura A)は腫瘍が一括切除され,① UL0の場合,腫瘍径を問わず(ただし未分化成分≤2cm),pT1a,HM0,VM0,Ly0,V0,② UL1の場合,3cm以下,分化型優位,pT1a,HM0,VM0,Ly0,V0.内視鏡的根治度B(eCura B)は腫瘍が一括切除され,① ≤2cm,UL0,未分化型優位,pT1a,② ≤3cm,分化型優位(ただしSM浸潤部に未分化型成分がない),pT1b1,HM0,VM0,Ly0,V0.内視鏡的根治度C(eCura C)は上記A,Bに当てはまらない場合,すなわち,① eCura C-1:HM1のみ,分割切除のみ,② eCura C-2:上記以外.これは,原則として追加外科切除であるが,年齢や合併症など何らかの理由で外科的切除を選択しない場合には,データを示して十分に説明する必要がある.

IV.外科手術
第5版では第4版出版以降の外科エビデンスが掲載された.
①非治癒因子を有する進行胃癌に対してREGATTA試験の結果が得られた.すなわち,出血・狭窄のない非治癒症例における減量手術の意義はないことが記載された.
②U領域の進行胃癌に対し,No.10,No.11リンパ節郭清のための予防的脾摘に関して,JCOG0110試験の結果が得られた.すなわち,大弯に浸潤しない上部胃癌では脾は温存するべきとされた.
③T3/T4胃癌に対する網嚢切除の意義に関しては,JCOG1001試験の結果が得られた.網嚢切除の意義は否定された.
④食道胃接合部癌(食道胃接合部の上下2cm以内に中心をもつ腺癌・扁平上皮癌)に限っては,切除術式選択とリンパ節郭清範囲に関するコンセンサスがない.日本胃癌学会と日本食道学会では,長径4cm以下の食道胃接合部癌におけるリンパ節転移について2012年,2013年に共同で全国調査を行い,273施設から3,177例のデータを集積した.本調査は2001~2010年の手術症例に対して後ろ向きに行われ,腫瘍深達度は切除標本の組織学的所見に基づいている.これをもとにアルゴリズムを作成し,リンパ節郭清の暫定的基準として提示された.
⑤StageⅡ,Ⅲの術後補助化学療法として,S-1を1年内服することが標準治療であるが,あらたにstageⅢに対して,S-1+Docetaxel療法の有用性が報告され8),2019年9月にガイドライン速報として収載された.

V.化学療法
本ガイドラインにおける個々の化学療法レジメンに対する「推奨度」は,臨床試験のエビデンスだけでなく,本邦における日常診療に鑑みて,「推奨されるレジメン」と「条件付きで推奨されるレジメン」に分けられた.
また,癌化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)への適応拡大として,胃癌でもPD-1抗体(ペムブロリズマブ)が承認された.

VI.おわりに
本稿では,新たに創出されたエビデンスに基づき策定された胃癌治療のガイドライン第5版について概説した.

 
利益相反
講演料など:大鵬薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,日本イーライリリー株式会社,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,コヴィディエンジャパン株式会社,小野薬品工業株式会社,第一三共株式会社,MSD株式会社
奨学(奨励)寄附金:アステラス製薬株式会社,エーザイ株式会社,協和発酵キリン株式会社,第一三共株式会社,大鵬薬品工業株式会社,武田薬品工業株式会社,中外製薬株式会社,日本化薬株式会社,株式会社ヤクルト本社,ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社,コヴィディエンジャパン株式会社,小野薬品工業株式会社
寄付講座:株式会社ヤクルト本社,中外製薬株式会社,小野薬品工業株式会社

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文献
1) 日本胃癌学会/編:胃癌治療ガイドライン医師用2001年3月版.金原出版,東京,2001.
2) 日本胃癌学会/編:胃癌治療ガイドライン医師用2004年4月改訂.第2版,金原出版,東京,2004.
3) 日本胃癌学会/編:胃癌治療ガイドライン医師用2010年10月改訂.第3版,金原出版,東京,2010.
4) 日本胃癌学会/編:胃癌治療ガイドライン医師用2014年5月改訂.第4版,金原出版,東京,2014.
5) 日本胃癌学会/編:胃癌治療ガイドライン医師用2018年1月改訂.第5版,金原出版,東京,2018.
6) 日本胃癌学会/編:胃癌取扱い規約.第14版,金原出版,東京,2010.
7) 日本胃癌学会/編:胃癌取扱い規約.第15版,金原出版,東京,2017.
8) Yoshida K, Kodera Y, Kochi M, et al.: Addition of docetaxel to oral fluoropyrimidine improves efficacy in pateints with stage III gastric cancer: Interim analysis of JSCCRO GC-07, a randomized controlled trial. J Clin Oncol, 37: 1296-1304, 2019

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