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日外会誌. 121(1): 145-147, 2020

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卒後教育セミナー記録

日本外科学会第95回卒後教育セミナー(平成31年度春季)

魅力的な外科医師育成プログラムを目指して!
 6.女性外科医育成を本気で考えよう!―ダイバーシティーを踏まえたこれからの教育―

順天堂大学医学部 乳腺腫瘍学講座

齊藤 光江

(2019年4月20日受付)



キーワード
多様性, 男女共同参画, 外科医育成

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I.はじめに
教育をテーマとした卒後教育セミナーにおいて,女性外科医育成を話題に挙げた.どのような意識を持つべきなのかを考えてみた.

II.外科医不足の実態
技術習得に長い年限を要し,労働時間の長い外科を,患者と子供の命を天秤にかけるような選択を迫られる懸念から,産む性である女性医師たちは敬遠する傾向にあった.ところが最近,男性にも同様な傾向がある.厚生労働省の統計に拠ると,1994年来,外科は担い手が1番減少した診療科である.日本外科学会入会者数は,2005年以降はほぼ横ばいになり,会員数や専門医数において女性がむしろ増加している(図1).即ち,その分男性はやや減少している.診療に寄与しない時期が生じることが避けられない医師の割合が増えると,従来のやり方では,物理的に診療のみならず,教育や研究への影響も懸念される.10年先を見据え,若い世代が男女を問わず外科を選好し,各々が目指すゴールに向かって育つことができる環境を整えることは喫緊の課題である.

図01

III.性差別は存在する?
医学界で女性がリーダーシップポジションを得にくい状況は現に存在する.しかしながら,男性はこうあるべき,女性はすべきではない・・等はこれまで多くの日本人が家庭や社会でよく口にしてきた言葉ではなかったか.男女の役割分担は,慣習に基づく社会通念だった.そして,慣習に従わない変化は敬遠された.一方,機会均等は,基本的人権の尊重に基づき,全ての人に守られるべき権利である.また,任務遂行には,優れたリーダーと,動かしやすい均一集団が有用であろうが,普遍性追求のためには,多様な人々の受容が必要である.均一集団は,他集団を排他的に扱うものである.多様性を追求すると,伝統に反する苦しい挑戦が必要となろうが,敢えて取り組もうとする勇気が必要である.今年のLancetでは,海外でも類似した現象があることを特集で取り上げている2)4)

IV.諸外国と日本の現状比較
先進国中,日本は女性の社会進出が最下位と報告された.医師も例外ではない(図2).何か固有の力学が働いているのだろうか?だとすれば,意識としては多様性の受容の遅れであり,制度としては例えば扶養控除の税制などが挙げられるのではないだろうか.前者は単一民族であること,後者は戦後の高度経済成長戦略との関係を否めない.いずれも一朝一夕には変えることが困難であろうが,超高齢化社会が到来し,男性だけでは支えられない社会が目前に迫っている.外科医育成には時間がかかることを考えると,意識改革は待ったなしである.

図02

V.多様性の受容
では,一体何を?男女とも多様性の意義を真に理解することではなかろうか.では多様性は何故必要なのか? Charles Taylor1)によれば,均一な集団は,異なる背景を持つ者の考えを拒絶し,学ぶ機会を失う危険を孕んでいるとのこと.即ち多様性の利点は,異文化から学ぶことである.こういった考えのもとに推進される女性医師育成であれと願う.

VI.指導者は何を?
女性もその生育環境等から,社会で果たしたい役割を思い描き,これを実現させる自由がある.使命感を持って任務を遂行すべく,修練を受ける権利がある.職場で男女に均等に機会を与えるのであれば,家庭でも機会は均等であることが求められよう.子供達も,両親から男女の機会均等や多様性の受容を学ぶ機会となる.指導者に与えられた使命は,性別に関わらず一人一人の目指す目標を把握し,各々のゴールに見合ったキャリアパスを考え,皆が多様性を受け入れるよう組織運営を図ることと考える.そして持続可能性追求のためには,ただ数を獲得するのではなく,性別に関わらず,リーダーシップを執れる人材の育成に尽力すべきであろう.

VII.自施設での取り組み
以下のことを実践している.①個別のMentoring.②個々の目標に対する到達度から適正な評価を行う.③慣習からの脱却を促す.
具体的には,男女を問わず希望者には研究に集中できる時間を与える.女性の中にも多様性があり,不公平感を払拭するために,職場内貢献に見合った評価をする.グループ制にし,互いが助け合い,全員を何らかの活動の責任者とし,それぞれのdutyは軽減する(働き方改善)が,リーダーシップを執る経験とする.薬剤師,看護師,技師,事務へのタスクシフトを推進.医局長,医長らを30代など若手とし発想の転換を促す.組織運営の成否は仲間の数にも依存するため,新人リクルートを全員で取り組む.

VIII.おわりに
時代と共に,環境も意識も変わる.先達はもはや新型モデル(手本)には成り得ない.道なき道を歩み,耕し,後に続くものが歩き易くするのみである.この営みに男も女もない.

 
利益相反:なし

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文献
1) Taylor C. Thinking and Living Deep Diversity. Rowman & Littlefield Publishers, USA, 2002.
2) Coe IR, Wiley R, Bekker LG.: Organizational best practices towards gender equality in science and medicine. Lancet, 393: 587-593, 2019.
3) Kang SK, Kaplan S: Working toward gender diversity and inclusion in medicine:myths and solutions. Lancet, 393: 579-586, 2019.
4) Shannon G, Jansen M, William K, et al.: Gender quality in science, medicine and global health:where are we at and why does it matter? Lancet, 393: 560-569, 2019.

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