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日外会誌. 121(1): 83-89, 2020

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会員からの寄稿

大分県外科勤務医の『やりがい』の要因の変化
―2010年度アンケート調査結果との比較―

1) 大分大学 医学部総合外科・地域連携学講座
2) 大分大学 医学部消化器・小児外科学講座
3) 大分県外科医会 

上田 貴威1) , 増田 崇1) , 猪股 雅史2) , 白石 憲男1) , 大分県外科医会 3)



キーワード
外科医不足, やりがい, アンケート調査

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I.はじめに
近年,外科医不足の問題や外科医の高齢化問題は深刻化しており,学会等でもその要因と対策に関する議論が行われている.外科医不足の最大の要因は,外科を専攻する若き医師の減少である.われわれは,学生や若い医師が外科を敬遠する理由の一つとして,外科医たちが外科医としての「やりがい」を学生や若い医師に十分伝えることができていないためだと考え,2010年に大分県の外科勤務医を対象とした外科医の「やりがい」に関するアンケート調査を行い報告した1).その後,8年が経過し,専門医制度改革や働き方改革を始めとする医師のキャリア形成や労働環境の変化,さらには外科医の高齢化に伴い,外科医の「やりがい」も変化していることが考えられる.

II.目的
今回の研究目的は,大分県外科勤務医に外科医としての「やりがい」に関するアンケート調査を行い,2010年度調査と比較・検討し,その相違や変化を明らかにすることである.なお,このアンケート調査は,外科医不足や偏在についての現状を明らかにする目的としても行った2)

III.方法
大分大学総合外科・地域連携学講座と大分県外科医会地域医療推進連絡協議委員会の二つの組織が協力してアンケート調査を実施した.

1.調査対象
大分大学ならびに大分県外科医会所属の44施設(48診療科)に勤務する外科医師総数209名を対象とした.

2.調査方法
2018年1月に外科医が勤務している施設への郵送によるアンケート調査を実施した.アンケート項目は,「医師個人と職場環境」に関する29項目,「診療状況」に関する16項目,「外科医の満足度ややりがい」に関する20項目である(表1).

3.回収方法
アンケートは無記名とし,回収に際しては,回答した用紙を各自封筒へ入れ封をした後に,施設ごとに郵送により回収した.

4.解析方法
有効回答数を総数として解析を行った.
単変量解析はカイ二乗解析にて,また多変量解析はLogistic回帰にて行った.P値が0.05以下を有意差ありとした.

表01

IV.結果

1.回収状況
有効回答者数は,大分大学医学部附属病院の外科勤務医3診療科の35名,大分県外科医会所属施設の外科勤務医34施設(38診療科)の137名の合計172名,回答率82%であった.

2.回答者の背景(図1
回答者の年代層は,20歳代5人(3%),30歳代42人(24%),40歳代67人(39%),50歳代43人(25%),60歳代15人(9%)であった.また女性医師は16人(9%)であった.専門科の内訳は,呼吸器外科15人(9%),消化器外科123人(71%),乳腺・内分泌外科14人(8%),心臓・血管外科14人(8%),小児外科4人(2%),その他2人(1%)であった.大学以外の施設での勤務形態は,「大学からの派遣」が105人(77%),「就職」が27人(20%),その他が5人(4%)であった.

3.『外科医のやりがい』の要因について(単変量解析)
2010年の調査と同様に,外科医の「やりがい」に関して,「楽しく仕事が出来ていますか」とのアンケート設問に対し,「大いにできている・できている」と答えた132人(78%)を「やりがいを感じている」群とし,「どちらともいえない・あまりできていない・全くできていない」と答えた37人(22%)を「やりがいを感じていない」群とした.この2群間にて,(1)医師個人と職場環境,(2)診療状況,(3)福利・厚生・周囲環境の観点から比較し,外科医が「やりがいを感じる」要因を検討した.
(1)医師個人と職場環境(表2
性別や年齢には,両群間に有意差を認めなかった.勤務先が総合医局か否かの問いについて,「やりがいを感じている」群に総合医局である割合が有意に高かった(p<0.01).また,勤務している病院の規模や常勤医数,勤務形態や役職,専門医資格の有無には有意差がみられなかった.
(2)診療状況(表3
「やりがいを感じている」群に,週間手術件数5件以上の割合が有意に高かった(p<0.05).一方,執刀数や週間手術時間,担当入院患者数や週間外来患者数においては,2群間に有意差を認めなかった.また,週間勤務時間や休日勤務,月間当直日数,休日・夜間呼出数においても有意差はみられなかったが,「やりがいを感じている」群に週間事務時間2時間未満の割合が有意に多かった(p<0.01).さらに,「やりがいを感じている」群に月間外勤回数 0~2回の割合が多かった(p<0.05).
(3)福利・厚生・周囲環境(表4
年収の額では両群間に差はみられなかったが,「やりがいを感じている」群には収入に対する満足度が高い外科医が多かった(p<0.001).また,「やりがいを感じている」群では,職場内コミュニケーションがとれている割合(p<0.001),留学を希望する割合(p<0.05),新専門医制度に賛成の割合(p<0.05)も高かった.

4.外科医の『やりがい』の要因について (多変量解析,表5
単変量解析にて有意差のみられた項目は,総合医局の有無,週間手術数5件以上,週間事務時間2時間以内,月間外勤回数0~2回,収入満足度,職場内コミュニケーション良好,留学希望あり,新専門医制度賛成,であった.これらの因子について多変量解析を行った.その結果,外科医の「やりがい」に関する独立関連因子は,相対危険率が高い順に職場内コミュニケーション,収入への満足度,総合医局の有無の三つであった.

5.2010年度との比較
2010年度に行った調査では,40歳代以上が57%であったのに対し,今回の調査では73%と外科医の高齢化が進んでいた(図1-1).また,前回では,「楽しく仕事が出来ていますか」との設問に対し「大いにできている・できている」と答えた割合は69%であり,今回は78%と上昇していた.また,前回の調査では,「仕事が楽しいと感じない」関連因子は,相対危険率が高い順に週間執刀数が3件未満,週間勤務時間が60時間以内,週間事務時間が6時間以内,非都市部病院,月間救急従事時間が5時間以内の5項目であった.これにより,外科医は手術や救急といった外科医ならではの診療に「やりがい」を感じていると報告した.しかしながら,今回の調査では,職場内コミュニケーション,収入への満足度,総合医局の有無の3項目が外科医の「やりがい」の因子として抽出された.

図01表02表03表04表05

V.考察
今回の外科勤務医の「やりがい」に関するアンケート調査では,職場内コミュニケーション,収入への満足度,総合医局の有無が外科医のやりがいの要因として挙げられた.これは,手術件数や救急といった外科医ならではの診療がやりがいとして抽出された7年前の調査とは大きく変化しており,外科医の年齢が上昇する中,そのやりがいが診療から職場環境や収入にシフトしていることが明らかとなった.1998年以降から続く外科医の減少は,未だに改善がみられていない.わが国において,1994~2016年の間に外科医総数は8%減少している.特に年齢層別にみると,30歳代の若い男性外科医が30%も減少しており,女性外科医が3倍近く増加しているものの,男性の減少分を補えていない3).2016年の外科医の年齢構成では,外科医の3分の2以上が40歳代以上であり4),今後の10年間も女性外科医の増加,若手男性外科医の減少,高齢男性外科医の増加傾向が更に進むと予想されている.今回の検討でも,前回の調査では57%であった40歳代以上の外科医が73%まで増加しており,大分県においても外科医の高齢化が進んでいた.若手医師の外科離れを食い止め,外科医志望者を増やすためには,外科医の「やりがい」を示すことや年代に応じたキャリアモデルを示すことが必要不可欠である.
外科医の減少の要因やその対策が講じられている中で,地域医療の現場で勤務する外科医の「やりがい」は,外科医特有の診療面から,職場環境や収入面に変化していた.この原因として,外科医の高齢化や外科医減少に伴う職場環境の変化による可能性が示された.職場環境については,特に「職場内でのコミュニケーション」と「総合医局の存在」の2点が外科医の「やりがい」に大きく関与していた.外科医は,ストレスの大きい職業であり,ストレスの顕著な外科医は医療事故を起こす可能性が高いことも報告されている5).特に中・壮年の外科医は,日常診療においてストレスを感じることが多いと思われる.また,井奈波ら6)は,研修医へのアンケート調査から,研修医のストレスの緩和因子として,「上司からのサポート」や「同僚からのサポート」を挙げている.多忙な勤務外科医が,総合医局内で診療科の異なる医師たちとも良好なコミュニケーションがとれることにより,ストレスが軽減され,勤務先への満足度の向上や勤務のやりがいに繋がっている可能性が考えられた.これまでに専門科の垣根のない総合医局の存在が,外科医のやりがいや満足度につながるといった調査報告はなく,地域病院施設における,外科医のみならず医師確保のための方策の一つになる可能性が示唆された.
また,今回の調査にて,外科医の「やりがい」の因子となった収入に関しては,その満足度について,前回の56%から49%とむしろ低下していた.実際に,現在の勤務先への改善点で「収入面」をあげる割合は13%から18%と微増していた.すなわち,外科医の高齢化が進む中,収入面の改善がみられない状態が継続しているため,今回の調査において「やりがい」の因子として収入が挙がった可能性があると考えられる.
一方,8年前の調査において「やりがい」を感じる因子であった外科医特有の診療面に関しても,前回と比べてその状況に大きな変化はなかった.週間手術件数・週間手術執刀数,共に3件以上の割合は各々58%から59%,25%から25%と前回からほぼ変わらず,週間入院患者数・外来患者数も共に変化はなかった.このように診療状況に変化が少ないものの,外科医の高齢化に伴い,手術経験総数も増加したため,今回の調査では外科医の「やりがい」の因子に外科医特有の診療面が挙がらなかった可能性があると考えられる.反対に,週間勤務時間61時間以上の割合は,56%から61%と微増しており,週間事務時間5時間以上の割合も53%から59%と増加していた.すなわち,外科医が手術などの外科特有の診療以外に従事する時間は,むしろ以前より増加していることがわかった.外科医の勤務時間の長さは,以前より問題視されている.平成24年度日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査では,20歳代・30歳代の外科医の約4割が,年3,000時間を超える時間外労働を行っており,同様に20歳代・30歳代の消化器外科医の約6割が週70時間以上勤務していることが明らかとなった7).このような過酷な勤務形態が,外科を敬遠する若手医師増加の要因の一つともされている.「外科医の働き方改革」の一環として,外科医のタスクシフティング4)や業務内容の見直しが地域医療の現場においても浸透し,外科医の勤務時間,特に現在増加している事務業務に従事する時間が減少することが望まれる.
この8年間で,「自分の力が発揮できている」と感じる外科医は66%から76%に増加し,「楽しく仕事が出来ている」外科医も69%から78%と増加しており,外科医の勤務への満足度は上昇傾向にあった.これを裏付けるように,勤務先への改善を希望する割合は76%から67%に減少し,反対に同施設への勤務延長希望の割合は62%から72%へと増加していた(データ提示なし).外科医の高齢化が進むなか,依然として多忙な勤務にもかかわらず,外科医の満足度は上昇していることから,勤務環境の整備や収入面の改善が進めば,学生や若手医師に「外科医のやりがい」をアピールでき,自信を持ったキャリアモデルとしての外科医がさらに増加することが期待される.

VI.結語
今回の調査結果より,外科医の「やりがい」に関与する因子は,外科医の高齢化に伴い,手術件数や救急といった外科医ならではの診療面から,収入やストレスの少ない職場など勤務環境面に大きく変化していることが明らかとなった.外科医の減少を抑えるためには,学生や若手医師たちへ理想的なキャリアモデルの提示が必要である.そのためにも,若き外科医の満足度向上のためには診療形態の改善が,また中・壮年の外科医の満足度向上のためには収入や勤務環境面の整備が重要であることが示された.
謝  辞
アンケートの企画に際して,大分県外科医会地域医療推進協議会の先生方にご指導を賜りました.回答に際しては,大分県外科医会会員の皆様に多大なご協力を頂きました.アンケートの整理・解析関連では,安東徳子さん,中島里奈さんにお世話になりました.深謝申し上げます.

 
利益相反:なし

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文献
1) 上田 貴威,矢田 一宏,野口 剛,他:外科勤務医の「仕事が楽しいと感じない」因子 大分県外科勤務医に関するアンケート解析結果から.外科,74(4): 407-412, 2012.
2) 増田 崇,上田 貴威,平下 禎二郎,他:外科勤務医が「医師不足を自覚する」際の関連因子の検討~大分県外科勤務医へのアンケート調査~.(他誌投稿中).
3) 未来投資会議 第3回産官協議会資料.(Accessed July 1, 2019, at http :// www. kantei. go.jp/jp/singi/keizaisaisei /miraitoshikaigi/sankankyougikai/healthcare/dai3/siryou5.pdf).
4) 森 正樹,馬場 秀夫:外科医の働き方改革に関する課題と必要な取組.(Accessed July 1, 2019, at http :// www.mhlw.go.jp/content/10800000/000349216.pdf)
5) 小柳 泰久,逢坂 由昭,青木 達哉,他:外科医の勤務状況と蓄積的疲労徴候.日臨外会誌,63(6): 1329-1334, 2002.
6) 井奈波 良一,黒川 淳一,井上 眞人,他:1年目研修医の勤務状況,日常生活習慣および職業性ストレスに関する研究.日本職業・災害医学会会誌,51(3): 209-214, 2003.
7) 平成24年度日本外科学会会員の労働環境に関するアンケート調査.(Accessed July 1, 2019, at http :// www.jssoc.or.jp/other/info/info20130702_02.pdf).

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