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日外会誌. 121(1): 61, 2020

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「人工臓器治療における終末期医療―心臓外科医の立場から―」によせて

九州大学 重症心肺不全講座

田ノ上 禎久



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心臓外科医が関わる疾患は先天性心疾患,虚血性心疾患,弁膜症疾患,そして,血管系の病変であり,名前の通り,心臓と血管が中心であり,病変を機能的に修復すれば根治に相当する結果が期待される良性のものである.心臓,血管領域の悪性の腫瘍性疾患は症例数が少なく,心臓外科医にとって,終末期医療はどちらかというと,あまり関わることがないことであった.ところが,重症末期心不全の患者に対する外科治療である補助人工心臓(Ventricular assist device:VAD)等の機械的循環補助の治療が行われるようになり,患者の生命予後が改善すると同時に,心臓外科医が終末期医療と向き合うことになった.
2011年春から長期サポート,かつ,在宅医療を可能とする植込型VADが臨床使用されるようになってから,それまで,体外設置型のVADに繋がれた状態で病院から出ることのできなかった患者が退院でき,社会復帰できるようになった.その,一方でVADに関連する脳神経合併症や感染の合併症は期待したほど減少しなかった.高度な脳神経障害を認める場合,重症感染症を認める場合は,心臓移植の適応から外れる.機械的循環補助により全身循環が維持されている限り,生命は維持されるが,回復困難な後遺症が問題となる.VADの治療を開始する前に,心臓外科医は患者,家族にこのような事実を説明する必要がある.事前指示書とリビング・ウィルが必要となるのであるが,生きることを目的とする治療を始める前に,終末期の説明をするという矛盾に対して,日本の多くの心臓外科医は十分な知識も経験もない.
今回,重症心不全の外科治療において,東京大学医学部附属病院の心臓外科で重症心不全に対するVAD治療や心臓移植治療において第一線の現場でご活躍の木下修先生に,心臓外科医の立場から終末期医療に対するご執筆をして頂ける機会を得た.恒久的なVAD治療であるDestination Therapyが始まる前に, 多くの外科医の一助になれば幸いである.

 
利益相反
寄付講座:アボットジャパン株式会社,ニプロ株式会社,日本メドトロニック株式会社

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