[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (1379KB) [会員限定]

日外会誌. 126(4): 372-377, 2025


会員のための企画

外科医とAI

兵庫医科大学 上部消化管外科

篠原 尚

内容要旨
人工知能(artificial intelligence, AI)の目覚ましい発展は,外科手術の安全性と質の向上に新たな可能性をもたらしている.ディープラーニングによる画像解析技術により,手術映像からリアルタイムに解剖学的構造を認識し,外科医の視野に重畳表示することが可能になった.腹腔鏡下胆嚢摘出術におけるCalot三角の認識,胃癌,大腸癌手術における至適剥離層の認識,食道癌手術における反回神経の認識など多くの活用事例が報告され,臨床現場でも使われ始めている.手術の行程を認識し,進行状況をリアルタイムで把握したり,現在の段階を自動判別したりする技術も開発されている.これにより,手術チームの連携強化や教育への活用,手術室運営の効率化などが期待される.また,手術器具の動きや組織の扱い方などを認識し,さまざまな観点から外科医のスキルを客観的に評価する取り組みも進められている.さらに,術前計画や手術シミュレーション,手術ロボットの制御支援,手術室管理,合併症予測など,AIの活用範囲は着実に広がっている.ただし,完全自動手術の実現については技術的課題に加え,予期せぬ事態への対応や判断を要する複雑な場面での意思決定など,人間の介在が不可欠な領域も存在する.今後,AIは外科医にとって代わるのではなく,その能力を補完・強化する「協調型」の発展を目指すべきである.人間とAIの適切な役割分担によって,より安全で質の高い手術を実現することが期待される.

キーワード
人工知能, 手術支援, 解剖認識, 行程認識, スキル認識


<< 前の論文へ次の論文へ >>

PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。