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日外会誌. 118(4): 434-441, 2017


特集

大腸癌診療の最近の動向

8.直腸癌に対する機能温存手術

国立がんセンター東病院 大腸外科

伊藤 雅昭

内容要旨
直腸癌の根治性を確実にする術式としてTotal mesorectal excision(TME)が提唱され,現在世界的には術前放射線化学療法(CRT;Chemoradiation therapy)が標準治療と位置付けられている.肛門温存の新たな選択肢としてIntersphincteric resection(ISR)が1990年代より登場し,Abdominoperineal resection(APR)に代わる肛門温存手術として本邦でも臨床試験が進んでいる.肛門近傍の下部直腸癌に対する術前治療のない開腹手術によるISRは,stage Iに対する局所再発は低率であったが,stage Ⅱより進んだ腫瘍に対しては何らかの治療の追加が求められると考察される.この結果も踏まえ,現在術前化学療法+ISRを試験治療とした第Ⅲ相臨床試験が進められている.一方世界標準とされる術前CRTは,肛門機能や性機能に対する負の影響が様々な臨床試験などの結果で示され,その適応を限定する考え方が拡大されている.排尿機能においては,術前CRTの影響はあまりないとの結果が多数を占めるが,側方リンパ節郭清や低侵襲手術による排尿機能温存への影響はまだ議論のあるところである.
近年TMEを肛門側から内視鏡手術で行う,taTME(transanal TME)が欧州を中心に世界的な広がりを見せている.この手術は従来腹腔鏡手術においても難易度が高いとされる直腸癌に対する新しい機能温存手術の可能性を有する.

キーワード
直腸癌, TME, ISR, 側方リンパ節郭清, taTME


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