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日外会誌. 117(3): 174-181, 2016


特集

高齢者における外科治療の低侵襲化と至適管理

3.高齢者に対する肝胆膵外科・肝移植手術の現況

九州大学大学院 消化器・総合外科

吉住 朋晴 , 播本 憲史 , 伊藤 心二 , 池上 徹 , 内山 秀昭 , 池田 哲夫 , 前原 喜彦

内容要旨
急速な高齢化社会の到来とともに,高齢者に対する肝胆膵外科領域の手術は増加している.高齢者では多臓器にわたる併存疾患や主要臓器の機能低下,栄養不良,免疫能低下などがあるため,手術侵襲に伴うリスクとQOLの低下,癌の根治性を含めた予後とのバランスなどから個別に適切な治療法を選択する必要がある.低侵襲治療である腹腔鏡下手術は高齢者でも安全に施行しうることが報告されている.腹腔鏡下手術により体壁の破壊を最小限にとどめる事で種々の疾患で予後不良因子であるサルコペニアの発生・進展を予防する事は術後のQOL/ADLの維持につながると考えられる.高齢者における術後の特徴としては,術後せん妄が高頻度であり,また誤嚥性肺炎の合併は重篤化する恐れがある.疼痛コントロールと早期離床に向けた,多職種による周術期チーム医療が術後管理の鍵を握る.わが国における原発性肝癌の集計では75歳以上の高齢者が約30%を占める.われわれの経験では主要臓器機能が保たれた症例を適切に選択すれば,75歳以上の高齢者でも安全に肝切除は可能である.生体肝移植希望症例の高齢化も進んでいる.肝臓以外の他臓器の機能が正常でPerformance Status(PS)良好な症例では,肝移植後の成績は若年者と同等である.このため,高齢者でも年齢のみでは生体肝移植の適応外とはならないが,長期生存例ではde novo悪性腫瘍の発生を念頭においた経過観察が必要である.

キーワード
肝胆膵外科, 高齢者, 腹腔鏡下肝切除, サルコペニア, 肝移植


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