[書誌情報] [全文HTML] [全文PDF] (496KB) [会員限定][検索結果へ戻る]

日外会誌. 112(6): 394-398, 2011


特集

頸動脈狭窄症の最近の動向

7.脳梗塞ゼロを実現した慈大式小切開Eversion内膜剥離術

東京慈恵会医科大学 血管外科

宿澤 孝太 , 墨 誠 , 金岡 祐司 , 大木 隆生

I.内容要旨
頸動脈内膜剥離術(carotid endarterectomy:CEA)はあらゆる外科手術の中で,最も科学的根拠(エビデンス)を有する外科手術であり,evidence based medicineの象徴と言える.頸動脈狭窄症の治療には,内科的治療に加えてこのCEAそして近年台頭してきた頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)がある.本邦ではCAS用デバイスが保険収載された2008年4月以降,CEAに比して劣る成績が幾つものRCTで証明されているにもかかわらずCASは増加の一途である.これは,本邦のCEAの成績が症例数の少なさのために安定していないからであろう.米国では全頸動脈狭窄症治療の90%以上がCEAでなされているが,本邦では世界で唯一CASの症例数の方が多い国である(約3:1).しかし,世界的なコンセンサスは頸動脈狭窄症治療のgold standardはCEAであり,我々もCEAを第一選択とし,CEAハイリスク症例にのみCASを施行しているがその比率は2:1でCEAの方が多い.東京慈恵会医科大学では,従来のCEAとは違う慈大式小切開Eversion法を開発し極めて良好な成績を得ている.この慈大式小切開Eversion法は,従来法と比較して,次の利点が挙げられる.(1)内頸動脈の剥離操作が高位まで可能なため,より高位病変に対応可能である.(2)塞栓源となる内頸動脈の剥離操作を,頸動脈の血流遮断後に行っているため,理論的に塞栓症は起こらず周術期の脳塞栓が皆無である.(3)従来法では遮断後に,内頸動脈から総頸動脈までの縦切開を施行し,内膜剥離後に単純閉鎖あるいはパッチ形成を必要とする.一方,Eversion法では中枢側での端側吻合のみのため,手術の煩雑さが改善され,遮断時間の短縮につながる.(4)内頸動脈の末梢側の再狭窄好発部位に再狭窄の原因となる異物(パッチ,縫合糸)が残らない.(5)従来法では約10cmの皮切が必要であるが,慈大式では約3cmと短い皮切で対応可能なため,美容的な問題を解消する.慈大式CEAは,より低侵襲でかつ長期的成績が確立されているので,頸動脈狭窄症における標準術式となるであろう.

キーワード
頸動脈狭窄症, 内膜剥離術, CEA·Eversion法

このページのトップへ戻る


PDFを閲覧するためには Adobe Reader が必要です。