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日外会誌. 104(12): 840-846, 2003


特集

外科的侵襲に対する生体反応:最新の知見

7.血液凝固系の障害と最新の治療

北海道大学 医学研究科侵襲制御医学講座救急医学分野

丸藤 哲

I.内容要旨
血液凝固線溶反応の意義は血管組織損傷に対する止血・創傷治癒にあるが,近年この反応が全ての生体侵襲に対して非特異的に起こる生理的生体反応であることが知られるようになってきた.従来,侵襲に対する古典的生体反応として自律神経・視床下部・下垂体・副腎系を介した神経内分泌反応が知られて来た.1980年代からサイトカインによる免疫炎症反応がこれに加わったが,1990年代にトロンビンを主体とする凝固線溶反応もまた全ての生体侵襲に対して非特異的に起こる重要な生体反応として認識され,これら三者の間に密接な連関が存在することが明らかになりつつある.すなわち生体侵襲に伴う細胞・組織損傷を制限して修復する過程が生体反応であるが,この主体が神経内分泌反応,免疫炎症反応,凝固線溶反応である.侵襲に対する生体反応本来の意義は生体の恒常性維持にあるが,その反応が過剰あるいは過少に起こることにより逆に生体の恒常性維持機能が破綻し,細胞・組織障害から臓器不全を惹起し生体を死に導く.外科的侵襲に起因する血液凝固線溶反応の意義もこの点にあり,この反応が非生理的反応一すなわち播種性血管内凝固症候群(DIC)一へと変化すると臓器不全を惹起して症例の予後を大きく左右する.近年,重度生体侵襲に伴う過剰のトロンビン産生がDICを惹起して好中球一血管内皮細胞を活性化し,同時に産生される活性酸素種,好中球エラスターゼ等の細胞障害性因子により血管内皮細胞障害をもたらすことが解明された.炎症性微小循環障害に起因する組織酸素代謝失調が播種性フィブリン血栓による酸素運搬量低下を伴う虚血性微小循環障害と相まって多臓器不全を来たす病態としてDICは世界的に再度注目を集めている.
現在,この病的生体反応制御の目的で活性化プロテインCのような新しい薬剤の臨床応用が期待されている.

キーワード
生体侵襲, 神経内分泌反応, 免疫炎症反応, 凝固線溶反応, 播種性血管内凝固症候群(DIC)


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