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日外会誌. 104(7): 518-522, 2003


特集

感染症と分子生物学

6.感染症診断における分子生物学の応用

1) 帝京大学 医学部外科
2) 帝京大学 検査部

福島 亮治1) , 川上 小夜子2) , 飯沼 久恵1) , 冲永 功太1)

I.内容要旨
分子生物学の進歩により,感染症の診断分野においても分子生物学的診断が臨床応用されるようになってきた.診断法の原理は,起炎病原微生物のもつ特異的なDNAあるいはRNAを分離同定することである.プローブを用いて特定の遺伝子配列を直接同定する核酸プローブ法(ハイブリダイゼーション法),検体が少ない場合に核酸を増幅してから同定する核酸増幅法(PCR法がよく用いられる),また遺伝子配列の同定をせずに制限酵素で核酸を切断し,切断片の長さの違いを電気泳動で識別して微生物の異同を同定する方法などがある.従来からの分離培養法は,一般に同定まで数日を要し,ウイルスやマイコプラズマ,レジオネラなどは培養できる施設が少なく,主に血清診断が用いられてきた.抗体検査による診断も行われるが,有効な抗体価が得られるのには一般に分離培養よりも長期間を要し,初期感染の診断には適しているとはいえない.分子生物学的な検査では,このような欠点を克服することができ,手法によっては3~4時間で迅速に微生物を同定することができるようにさえなってきた.したがって,分子生物学的診断法は,臨床的に特に迅速診断が要求される場合,分離培養が難しい(時間がかかる)場合,生菌が得られにくい場合などで特に威力を発揮する.また,遺伝子の微妙な違いを検出することで菌型(株)の異同を判定できるので,疫学調査や院内感染の検索に用いられている.さらに耐性遺伝子を検出することによる耐性菌の同定なども行われる.一方,目的とする菌以外は検出できない場合が多いこと,共存する微生物の情報が得られない,生菌が得られない,感受性試験ができない,既に治癒している場合も検出されるなどという欠点も指摘されている.またPCR法においては,コンタミネーションや阻害物質の存在,プライマーの選択やPCR条件の設定によって結果が左右される場合があることにも留意する必要がある.

キーワード
遺伝子診断, ハイブリダイゼーション, PCR, 制限酵素, パルスフィールドゲル電気泳動

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