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日外会誌. 104(7): 499-505, 2003


特集

感染症と分子生物学

3.手術侵襲とサイトカイン(SIRS,CARS)

防衛医科大学校 第1外科

小野 聡 , 市倉 隆 , 望月 英隆

I.内容要旨
手術操作によって組織破壊が生じると,侵襲局所ではマクロファージ,好中球,血管内皮細胞,線維芽細胞などの炎症担当細胞が活性化され,炎症反応が惹起されると同時に,TNFα, IL-1, IL-6, IL-8などのpro-inflammatory cytokineが産生される.これらのサイトカインは,autocrine, paracrine作用による反応を繰り返して自己の情報を増幅し増幅された信号がさらなるサイトカインの産生を促し,全身性に情報を伝達する.その際生体は,体温の上昇,脈拍数や白血球数の増加などを来たし,臨床的にSIRSと呼ばれる状態になる.一方生体内ではこの全身性の炎症反応に対してantiinflammatory cytokineであるIL-10や内因性のサイトカイン拮抗物質であるIL-1receptor antagonist(IL-1ra),TNF receptor I(TNFR-I)などを産生し,炎症反応を抑えようとする.そしてanti-infiammatory cytokineが過剰に産生され,全身的にanti-inflammatory cytokineが優位になった状態はCARSと定義される. CARSはSIRSとは違い具体的な診断基準や臨床症状が定義されていないため,いわば概念的病態ともいえる.しかし最近の分子生物学的手法の発展に伴って免疫担当細胞でのサイトカイン産生能や各種表面抗原の解析が可能となり,CARSとはanti-inflammatory cytokineの産生過剰により免疫系が抑制され感染に対する防御機構が低下している病態と定義できる.
本稿では,手術侵襲後のSIRS, CARS各々の病態について,免疫担当細胞からのサイトカイン産生能及び膜表面抗原発現の面から分析し解説した.

キーワード
手術侵襲, サイトカイン, SIRS, CARS


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