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日外会誌. 104(6): 460-470, 2003
特集
膵囊胞性疾患の新展開-IPMTを中心に-
6.膵頭部の局所解剖と各種縮小手術
I.内容要旨通常の膵頭十二指腸切除術を行う上で必要な解剖や,IPMTや膵嚢胞性腫瘍などのlow grade malignancyに対してどのような縮小手術が可能か,ということを追求する上で欠かせない外科解剖について述べた.膵後筋膜と呼ばれる膜は通常のKocher受動術を行ったときに,膵臓側についてくる疎生結合織の膜である.膵のアーケイドや重要な静脈など,重要な血管はすべてこの膜と膵実質との間に存在する.
膵頭部の動脈アーケイド,すなわち胃十二指腸動脈と上腸間膜動脈とのアーケイド:重要なアーケイドを形成する膵頭十二指腸動脈(AIPD, PSPD, PIPD)とその分枝や後下膵十二指腸静脈(PIPDV)などはすべて融合筋膜と膵実質との問に存在する.ASPDは胃十二指腸動脈から分岐後,主乳頭部下方に向かって走行,ここで膵後面に回り前下膵十二指腸動脈(AIPD)に移行する.すなわちAIPDは一般の通念と異なり膵後面を走行する.PIPDから胆管右縁を走行し,乳頭部に向かうPSPDあるいはPIPDに匹敵する太さの動脈が存在する.これは,“乳頭動脈”とも名付けられるべきものである.外科医は手術中にこの動脈を傷つけないようにしなくてはならない.
膵頭部から膵体部に向かう動脈,すなわち胃十二指腸動脈と総肝動脈とのアーケイド:胃十二指腸動脈と後膵動脈とはアーケイドを形成しており,そのアーケイドは膵の上縁にそって存在する.このアーケイドの動脈をSuperior-Transpancreatic Artery(上部横行膵動脈,Superior TP)と呼称することを提案する.また胃十二指腸動脈が前上膵十二指腸動脈(ASPD)と右胃大網動脈と分岐するその分岐点近傍から分岐し,膵の下縁にそって走る動脈が存在する.これが横行膵動脈である.膵の下縁に横行膵動脈が存在するだけでなく,膵の上縁に膵を横走する動脈があることを外科医は念頭におかなくてはならない.つまり,膵前面の上縁,下縁にアーケイドが2つ存在することを膵十二指腸動脈のアーケイドと対比して覚える.
膵頭部の静脈:胃結腸静脈幹(gastrocolic trunk)の解剖については,「Henleの胃結腸静脈幹」と呼ばれており,この共通管は約60%に存在する.この共通管が上腸間膜静脈(SMV)に流入するあたりをHenle’s trunk area(Henleの静脈幹領域)といい,ここから回結腸静脈(ileocolic vein)の分岐する部分までをsurgical trunkという.ASPDVとAIPDVはアーケイドを形成しているのに対し,PSPDVとPIPDVはほとんどの症例でアーケイドの形成は認められない.IPMTに対する手術術式には定型的な膵頭十二指腸切除術や幽門輪温存膵頭十二指腸切除,膵体尾部脾切除術,嚢胞核出術などのほかに,各種の温存手術が試みられている.膵分節切除術,膵鉤部切除術,十二指腸温存膵頭十二指腸切除術,脾動静脈を温存した脾温存膵体尾部切除術などがあり,症例に合わせてもっとも適切な手術を選択する.
しかし膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)に対してどのような術式を選択するかということはいまだ難しい問題である.その理由としては,いまだにIPMTの病態が十分に解明されていないことがあげられる.以前から掲げられてきた良悪性の臨床診断は可能か,in situ carcinomaはいつ浸潤するのか,微小浸潤は画像診断でとらえられるか,浸潤してからあるいは浸潤が明らかになってからの手術で間に合うか,などの問題に,最近新たな問題が付け加わってきた.すなわち,IPMTが膵内で多発する問題とIPMTの発生した膵に通常型膵癌が発生する問題である.十二指腸温存膵頭切除術には,これらの問題と技術上の問題が大きく関係している.十二指腸・胆管の温存を追求して膵実質の温存部位を増やせば,「悪性の可能性があり,一定以上の広がりを有する手術適応症例に縮小手術の概念を当てはめうるか」という問題に直面する.膵頭部の膵実質をすべて切除すれば胆管,Vater乳頭部,十二指腸の一部の温存ができなくなり,温存の内容は狭まる.十二指腸温存膵頭切除術の今後の発展にとって重要なことはIPMTの病態に関する未解決の問題点を明らかにしていくこと,解剖学的基礎研究を積み重ね技術的な問題点を解決すること,機能温存によっていかなる恩恵を受けたかを客観的に示していくことなどである.
キーワード
癒合筋膜, 動脈アーケイド, 縮小手術, 十二指腸温存膵頭切除術, 脾温存膵体尾部切除術
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