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日外会誌. 104(5): 427-431, 2003


特集

癌外科治療の標準化に向けての展望

10.乳癌

東海大学 医学部外科学教室

田島 知郎

I.内容要旨
乳癌外科治療には,他の癌外科治療の先導役を果たしてきた歴史があり,癌外科治療の標準化についても同様の役割を果たすことが期待される.日本乳癌学会がこれまでに作成した乳癌治療のガイドラインには,「乳房温存療法ガイドライン」があり,現在は厚生労働省の「科学的根拠に基づく乳がん診療ガイドライン作成に関する研究班」が標準的治療のガイドライン作りを開始している.
乳癌外科治療の標準化には,手術内容などについての合意が必要であるが,施行頻度に15~90%もの開きがある温存療法では術式としてまだ未成熟であり,またリンパ節郭清/生検に関しては,センチネルリンパ節生検の役割が完全には確立していない.手術治療に不可欠な画像診断では,高額な診断機器を標準的に備えることを強制できるかの問題があり,また術後経過観察の方法にも内外で大きな違いがある.乳癌外科治療の標準化には,このように克服すべき問題点がいくつか見込まれるものの,専門医の間での合意は比較的容易に成り立つものと予測されるが,乳癌治療は裾野が広く,標準化をどう一般化できるかが大きな課題である.
癌外科治療の標準化は,国の政策としての医療費削減の方向性での誘導による部分が大きいが,非科学的とも椰楡されるわが国の医療システムの根本的な改革ができないのであれば,標準化により医療の底上げを計らざるを得ない.医療費削減の方向性は真に国民に役立っている医療を際立たせる良い機会であり,救命医療を担当している外科医にとっては逆に大きなチャンスでもある.

キーワード
乳房温存手術, 医療費削減, 医療改革, 診療ガイドライン


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