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日外会誌. 104(5): 412-421, 2003


特集

癌外科治療の標準化に向けての展望

8.膵癌

山形大学 医学部器官機能統御学講座消化器・一般外科分野(第一外科)

木村 理

I.内容要旨
医師は患者に対して一定水準に達した医療内容を保証する必要がある.したがって癌治療はある程度標準化されていくべきである.膵癌に罹患した場合の死亡率はあらゆる悪性疾患のうちでもっとも悪い.診断された場合の切除率は25~30%と低く,切除例の5年生存率は約9%と低い.このような現状にあって「膵癌の外科治療の標準化」の展望を述べるのは容易ではない.膵癌は全身病という考え方のもとで,局所の外科的完全切除だけでなく局所の術中照射などによる制御,遠隔転移とくに肝転移の予防,有効な抗癌剤の開発など,医学が総力をあげて取り組む課題である.少しでも有効な治療法を積み重ねていく中で今後の大きな飛躍が期待できるかもしれない.
標準手術と拡大手術:膵頭部癌に対してはわが国では一般的に第2群のリンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除術が行われる.さらに後腹膜・大動脈周囲リンパ節や神経叢の広範囲郭清をともなう拡大郭清の手術も行われる.標準手術と拡大手術を比べると,拡大手術がいいという結論にはなっていない.拡大手術と標準手術の無作為比較試験が進行中で,結果が注目されている.膵体尾部癌に対して遠隔転移,高度リンパ節転移,周囲血管浸潤がなければ,膵体尾部切除術を行う.Appleby手術が行われる場合もある.
膵癌手術の再建術式と合併症:膵癌の外科切除の成績向上に寄与してきたのは,リンパ節郭清の範囲の拡大よりも膵頭十二指腸切除術による合併症・死亡率の減少である.とくに膵と消化管の吻合法の改善や工夫,縫合糸の進歩,周術期管理の進歩などの改善が著しい.合併症を防止するため,膵腸吻合では吸収性合成糸を用いること,膵断端を空腸壁で覆い,死腔ができないように膵と空腸を固定すること,膵管チューブを留置することが重要である.大網を胃大網動静脈とともに温存し,膵空腸吻合部に巻きつけることにより,膵液の腹腔内への拡散を防ぎ周囲血管の破綻・出血を防止することが可能である.十分な本数の腹腔内ドレーンを特に膵腸吻合部周囲に効果的に留置する.
集学的治療:化学療法として膵癌に対して確実に治療効果を示す抗癌剤はない.Low dose 5-FU+CDDP(FP)療法やGemcitabine(GEM)を基本薬剤としてGEM+5-FU, GEM+epirubicin, GEM+CDDPの併用療法がおこなわれ比較的高い奏功率が報告されている.動脈・門脈内抗癌剤注入療法も効果的であると報告されている.術中照射(IORT)の有効性の評価はさだまっていない.化学放射線療法の手術群に対する優位性を認めていない.
治りやすい膵癌:予後がいいという特徴を持つ膵管内乳頭粘液性腺癌は「いわゆる粘液産生膵癌」を組織学的な観点から呼称したものにほぼ相当する.主膵管型と分枝型に分類され,悪性の頻度は主膵管型が約90%,分枝型が約20%である.分枝型の中には経過観察が可能なものが約60%存在する.切除後の5年生存率が約70~80%と良好であることから機能を温存した縮小手術も模索されている.粘液性膵嚢胞腫瘍は中年女性の膵体尾部に好発し組織学的に卵巣様間質(ovarian-typestroma)を有することが特徴である.画像診断学的には「粘液性膵嚢胞腫瘍は肉眼的に球形で嚢胞全体を被包する固有の線維性被膜を有するもの,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMT)の分枝型は拡張した膵管分枝が集合したもので全体の外郭は球形ではなく凹凸のあるもの」とされる.診断がつけば手術の適応となる.

キーワード
膵癌外科治療, 標準手術, 拡大手術, 再建術式, 集学的治療


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