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日外会誌. 103(11): 825-830, 2002


特集

乳癌手術の現況とその根拠

9.リンパ節生検:センチネルと低位サンプリング

京都府立医科大学 内分泌・乳腺外科

沢井 清司 , 中嶋 啓雄 , 大江 信哉 , 水田 成彦 , 阪口 晃一 , 鉢嶺 泰司

I.内容要旨
腋窩郭清を受けた乳癌患者の多くは,手術側の肩・腕の浮腫,痛み,筋力低下などの訴えがあり,郭清によるデメリットは決して無視できるものではない.腋窩転移のない症例の郭清を省略しようとする試みは,1970年代から英国を中心に低位サンプリンとして始められたが,1990年代になってセンチネルリンパ節生検が登場し,より精度の高い方法として確立されつつある.
センチネルリンパ節生検には,色素法,アイソトープ法,および両者を同時に行う併用法があるが,併用法が検出率,偽陰性率ともに優れている.また,センチネルリンパ節生検には,生検に引き続いて郭清を行ってその精度を求めるfirst stepと転移陰性ならば郭清を省略するsecond stepがある. second stepに進む前にfirst stepを20例以上行い,検出率90%以上,偽陰性率5%以下の成績が得られるのを確認してから,second stepに進むべきである.
センチネルリンパ節生検は診断精度が高く,腋窩郭清を省略すると術後の回復が早くて術後QOLも非常に良いので,エビデンスに基づいた標準治療としては認められていないにもかかわらず欧米においては多くの施設でsecond stepが行われている.わが国では,T1N0をsecond stepの適応としているところが多いが,欧米ではT2N0を適応としている施設が多くなってきている.また,適応外とされていた多発例,生検後,術前化学療法後,広範囲の非浸潤癌などにも適応が拡大されつつある.わが国ではfirst stepを行う施設は増加しつつあるが,second stepを行っている施設はまだまだ少ない.しかし,①エビデンスを出すための臨床試験,②ガイドラインの作成,③リンパ節シンチグラフィの保険採用などを進めることにより,患者さんが希望すれば,センチネルリンパ節生検による郭清省略が行える環境を整えていくべきである.

キーワード
乳癌, QOL, センチネルリンパ節生検, リンパ節郭清, サンプリング

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