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日外会誌. 103(11): 816-820, 2002
特集
乳癌手術の現況とその根拠
7.照射非併用温存手術
I.内容要旨乳癌の局所進展を症例毎に詳しく追求する事は主として摘出標本を全割することになるが,欧米においては,全割して検鏡するのであればまだしも,それでも把握しきれない症例は限りなくあり,さらにarea cancerizationの考え方から乳管内癌のmultifocal発生説が信じられて来たし,浸潤部でのリンパ管侵襲という動的進展という虚像をも恐れて,しっかりとした乳癌の拡がりに関する研究は見当たらない.何より全割検索などという繁雑で経済効率の悪い方法は,欧米の実利論からは思考の枠外にあった.
こういう伝統の中で,乳房温存手術が行われるようになったわけで,欧米では局所切除によって原発巣が完全に切除されると期待するより切除しきれないとみる考が一般的で,温存手術の後には全例に照射を加えて微細残存癌巣に対する制御を免罪符的に行う乳房温存療法によって乳癌根治法の市民権を得たのである.照射の経験から,原発巣から少し離れて切除しないと乳房内再発が多くなる事が分かってきたが,きちんとした全割検索に欠けるためにどの程度離して切除すれば全く安全かという考え方はあまり行われていない.
癌研乳腺外科では,古くからメスによって癌の根治をはかるという気風が強く1986年温存手術を開始するにあたって,
1.画像診断をしっかり行ってそれに応じて少し大きめに切除する.拡がりが広い場合には,安全を期して温存手術を遂行するよう乳房切除を選択する.
2.摘出標本を5mm巾で全割病理検索し癌の拡がりを検証する.この仕事は熱意と非採算を承知のうえで遂行する.検索を行えば癌の拡がりを把握できるという信念を持ち,研究成果を世に問う.
3.もし癌の波及が切断面より5mm以内に迫っていなければ非照射としてフォローし,5mm以内に存在すれば再切除,照射,残存乳房切除のいずれかとする.
1998年迄に1233側の乳房が温存され,断端陰性として非照射したものは827側.平均観察期間79月で乳房内再発46例5.6%年率0.85%であった.これは全例照射を行う欧米一流施設の報告を凌いでいて,方針の堅実さが実証された.
キーワード
乳癌温存手術, 非照射, 全割病理検索, 乳房内再発IBTR, 再発・多発
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