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日外会誌. 103(10): 742-745, 2002


特集

鏡視下手術の現況と問題点-適応と限界-

9.大腸癌腹腔鏡下手術の現況と問題点-適応と限界-

虎の門病院 消化器外科

沢田 寿仁

I.内容要旨
大腸癌腹腔鏡下手術は本邦で開始されて10年が経過し,2002年4月から大腸癌全体に保険適応が拡大され,21世紀の治療法として定着してゆくかに見える.早期癌から始まり,郭清範囲もD1あるいはD1+α程度であったものがD2からD3郭清へと広がるにつれ進行癌に対する適応も拡大されつつある.本法は低侵襲手術の名の下の縮小手術であってはならず,至適リンパ節郭清を伴った過不足のない大腸切除が要求され,これを満たす腹腔鏡下手術操作が大腸の解剖学的特性を生かした腹腔鏡下郭清術と腹腔鏡下授動術である.郭清面では223番郭清と側方郭清に技術的問題点を残すものの,その他の部位のD3郭清の精度は従来の開腹術と比較して遜色がないとの意見が一般的となりつつある.授動術は腹腔鏡下手術操作ならではの効果を見せ,特に脾湾曲部の剝離,授動は開腹創の縮小化に最大限に寄与する.
本法のかかえる問題点には,術中偶発症,リンパ節郭清の限界,直腸剥離と切離の限界,技術的側面,対経済効率,Port site recurrence,長期予後等がある.本法の安全かつ確実な施行には20~30例以上の臨床経験が必要とされるが,1施設あたりの年間経験数が15例との現実が立ちはだかる.技術的側面と対経済効率は時を経て解決されてゆくが,歴史も浅い本法の今後の発展の可能性を決定付ける最大要因は長期予後の動向である.Port site recurrenceはその頻度が低く,開始当初の懸念は払拭されたものの,未だ明確でない腹膜播種再発等の再発形式に及ぼす変化,再発率,生存率等の長期予後には注目する必要がある.
長期予後に関する欧米でのrandomized controlled studyの結果が本法の適応条件に大きく関わることが予測され,現時点では技術の伴わない安易な適応拡大には慎重であるべきである.

キーワード
大腸癌, 腹腔鏡, 郭清, Port site recurrence, 長期予後


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