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日外会誌. 103(10): 722-728, 2002
特集
鏡視下手術の現況と問題点-適応と限界-
5.低侵襲手術の利点と問題点
I.内容要旨心臓血管外科における内視鏡手術の導入は腹部外科・呼吸器外科に比較してかなり遅れてスタートしたが動脈管開存症に始まり,血管輪(Vascular ring),ペースメーカー電極やAICDの植え込み手術,心膜開窓術に応用された.内視鏡を用いた大伏在静脈グラフトグラフトや内胸動脈の採取,MICS手技による僧帽弁手術や心房中隔欠損症閉鎖術にも内視鏡が導入された.20世紀末には手術創をより小さくする努力の結果,ゼウスシステムやダビンチシステムなどのロボットを用いた完全内視鏡手術の開発にまで発展した.MICS・MIDCAB・OPCABなどの低侵襲手技は比較的軽症の手術で実施されることが多いが,一方では高齢者や担癌症例,慢性腎不全,脳血管障害合併例などの重症例にも応用され,術後脳梗塞や呼吸不全などの合併症回避に極めて有力な手段となり得る.
MICSでは手術創が小さくなり出血量の減少や痛みの軽減が得られる反面,手術時間が延長し麻酔侵襲が大きくなる事や冠動脈バイパスではバイパス吻合が不完全になったり手術として不完全になる可能性がある.MICSに用いられる体外循環法はカニューレが細いため陰圧脱血を用いる事や末梢血管のアクセスなど体外循環手技が複雑化すること,あるいは体外循環トラブルに気づくのが遅れて大きな事故につながる可能性もある.体外循環を用いないMIDCAB(minimally invasivedirect coronary bypass)はともかく,小さな皮切で行う体外循環を用いたMICSに必要な体外循環法は標準開胸による開心術に比較してより大きなリスクを伴っている事を銘記すべきである.こうした面を総合的に検討し個々の症例で手術適応を十分に吟味すると共に,MICS手術に関連する多様で特殊な合併症の危険性や標準開胸手術への移行についても十分にインフォームド・コンセントを得るべきである.
キーワード
心臓外科, 低侵襲手術, ロボット手術, 内視鏡外科, 体外循環
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