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日外会誌. 103(10): 708-712, 2002


特集

鏡視下手術の現況と問題点-適応と限界-

2.甲状腺外科

日本医科大学 第2外科

清水 一雄 , 北川 亘 , 赤須 東樹 , 平井 恭二 , 田中 茂夫

I.内容要旨
低侵襲性,整容性の観点から鏡視下手術が一般化している中で,甲状腺疾患に対する鏡視下手術が行われるようになったのは,1997年からであり他臓器疾患のそれよりかなり新しい分野である.手術部位が既存腔のない前頸部であること,デリケートな手術操作が要求されることなどが本術式の発展を遅らせたのであろう.しかし,甲状腺の手術は常に露出された前頸部に手術創が入ること,本疾患は女性に多いことから整容面における鏡視下手術の需要性は極めて高いと思われる.そのため甲状腺疾患の鏡視下手術は,その術式に対する工夫,改善が加わり急速に広まり一般化しつつある.
操作腔作成法は,CO2送気法と我々の開発した前頸部皮膚吊り上げ法の二つの方法がある.切開部位は,乳輪近傍切開,前胸壁切開,腋窩切開,顎下部切開など整容面での様々な工夫がなされている.手術機器の中で,超音波駆動メスの出現は,易出血性実質臓器である甲状腺の鏡視下手術を容易とし,発展に大きく寄与していると思われる.当科における対象疾患は,主に良性腫瘍でその60%以上に鏡視下手術がおこなわれている.片葉に限局する単発性腺腫を対象とし,現在まで行われた160例をこえる良性腫瘍の多くは準全摘か亜全摘がおこなわれ摘出腫瘍の最大径は7.4cmであった.侵襲因子である出血量,手術時間は経験と共に減少していくが5cmを超える腫瘍では手術時間と出血量で5cm以下と比べて有意差があり多少難易度が増す結果となっている.悪性腫瘍では適応を厳格にすべきだが我々は直径1cm以下で,リンパ節転移のない微小乳頭癌を適応としている.バセドウ病に関しては,手術時間,出血性に関する侵襲面での問題,術後甲状腺機能に影響を与える残置量の微調節などデリケートな操作の必要性から現在の所,原則として行っていない.
甲状腺疾患に対する鏡視下手術は前述の如く主に,整容面で極めて有用性のある術式であると考える.しかし,これを重要視するあまり本来の目的である治療の確実性を軽視してはならない.本術式の限界を認識しつつ,適応症例を慎重に選択すべきであろう.また,甲状腺手術と鏡視下手術の経験を積みながら,その改善,工夫にも常に取り組むことが本分野の更なる発展につながるものと考える.

キーワード
内視鏡手術, 甲状腺, 低侵襲手術, VANS法


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