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日外会誌. 103(3): 309-313, 2002


特集

創造と調和-Creativeness and Cooperation-

Ⅱ.外科医を取りまく諸問題
2.セーフティー・マネジメントの現状と課題

慶應義塾大学 医学部外科

古川 俊治 , 北島 政樹

I.内容要旨
セーフティマネジメントの原則は,医療過誤を個人責任のみに帰さず,事故を未然に防止できる診療システムを構築することであり,具体的には,ニアミス・小事故の報告を求めて,その分析により診療システムのリスクを把握し,これを解消にすることである.米国における医療事故に関する主要な大規模研究によれば,事故発生率はおよそ3~5%で,そのうちの30%程度が,医療従事者の法的責任を負うべき過失例であり,7~14%程度が死亡例であった.外科系医療事故は,全医療事故の66%を占めるとされ,中でも手術に関連した事故が45%程度を占め,診療行為のうちで最も危険性が高いことが明らかにされている.一方,日本におけるインシデント・レポートの集計結果では,投薬の問題が約半数を占め,中でも注射薬の問題が最大のリスクであった.また,器機の操作や管理,および患者の転倒・転落,誤嚥・誤飲が問題であり,以上が事故の約95%を占めていた.今後の安全対策の合理的推進のためには,研究遂行の点で現実的で,かつ,信頼に耐える客観性をもった結論を期待できる,医療過誤研究に相応しい研究スタイルについての検討を進める必要がある.また,医師法21条の異状死体の届出義務に関連して,医療過誤による死亡・重大な傷害の自発的報告制度についての統一的ガイドラインの確立が急務であるが,本質的解決のためには,医療過誤に関する報告を受け,必要な措置の勧告と情報公開を行う,専門的機関の創設が必要である.また,専門機関には,全国の医療機関のインシデント・レポートを一元的に収集・解析して医療過誤対策の研究を推進する機能も求められるが,その前提として,情報保護の法制度が進められなければならない.

キーワード
セーフティー・マネジメント, 医療事故, 医療過誤


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