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日外会誌. 103(3): 290-293, 2002


特集

創造と調和-Creativeness and Cooperation-

Ⅰ.臨床外科学と基礎医学
4.難治がんに対する挑戦-膵癌の治療戦略

九州大学大学院 臨床・腫瘍外科

田中 雅夫

I.内容要旨
膵癌の予後改善はこの10数年間の様々の努力にもかかわらずほとんど見られていない.進行癌に対して血管合併切除を含めた拡大後腹膜郭清,補助化学療法,術中大量放射線照射などが試みられてきたが,顕著な成績には結びついていない.ある程度進行した膵癌に対する拡大郭清の意義,さらには切除手術自体の意義を見極めるための無作為試験が進行中で,その結果が待たれている.現在のところ,他のほとんどの臓器の癌と同様に,早期発見が切除術によって膵癌症例に治癒をもたらす可能性のある唯一の道といえる.膵癌は,膵が後腹膜に占める位置からスクリーニングや早期診断が極めて困難であるが,発見の契機となるいくつかの病態が明らかになってきた.第一に,超音波などの画像診断で見つかる主膵管拡張は癌による狭窄のためのことがある.この場合慢性膵炎,局所的な線維化との鑑別が大きな問題である.第二は糖尿病である.筆者らの糖尿病での検討では,いくつかの選択基準を当てはめれば糖尿病患者の7.1%もの高率に膵癌が発見されることが判明した.いずれも進行癌であったが,糖尿病診断後3年以内に絞ると発見率は15%にもなり,より早く精査に回ればより早期の膵癌が診断される可能性はある.第三に,膵の小嚢胞が早期膵癌診断のヒントとなることがある.膵嚢胞は偶然見つかることの多い病態であるが,これを対象として丹念にERCPと純粋膵液細胞診を行えば上皮内癌をはじめとする早期膵癌が発見されることがある.治療面で格段の新たな進歩が見られるまでは,これらの契機をとらえて早期の症例の発見に努めるのが膵癌の当面の治療戦略といえよう.

キーワード
膵癌, 糖尿病, 膵管内粘液性乳頭状腫瘍


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