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日外会誌. 103(3): 284-289, 2002


特集

創造と調和-Creativeness and Cooperation-

Ⅰ.臨床外科学と基礎医学
3.他臓器浸潤食道癌に対する治療戦略

1) 近畿大学 医学部第1外科
2) 大阪大学大学院 病態制御外科

塩崎 均1) , 矢野 雅彦2)

I.内容要旨
食道癌は未だに難治癌であるが,その約30%程度が他臓器浸潤食道癌であると言う事実がさらにその治療を困難にしている.これらの食道癌の浸潤臓器は胸部大動脈や気管・気管支など合併切除が容易にできない臓器である.しかしながら,近年有効率が高く著効(完全治癒)が期待できる放射線化学療法が開発されてきた.今回,これらの術前化学放射線療法の効果と治療方針,さらに今後の課題を探ってみた.1989年から2000年までの食道他臓器浸潤癌(T4)69例(男/女 62/7,年齢40~75歳)に対してCDDP,5FUに放射線治療を併用する術前化学放射線療法を施行し35例(50.7%)に切除術を行った.切除35例の組織効果度別に5年生存率をみるとGrade 1(8例)は0%, Grade 2(20例)32%,Grade 3(7例)71%であり, Grade 3の予後は非常に良好であり,再発死亡の2例は遠隔転移による死亡であった.これらの組織効果度と術後の予後には有意な相関(p=0.0007)があり,Grade 3をいかに増加させるか,一方,Grade 1をいかに減少させるか,また,これらを術前にいかに識別するかが今後の大きな課題であった.今回,P53の免疫染色ならびにPCR-SSCPおよびRISM310によるsequencingを行い遺伝子解析を行った.術前内視鏡下生検標本の解析が可能であった67例についてみると,P53免疫染色陽性症例では半数以上が組織学的効果はGrade1であり,P53遺伝子解析の結果ではmutant症例にはGrade 3は一例もなく約90%がGrade1であった.この結果から, P53遺伝子異常の症例には化学放射線療法は期待できなかった.化学放射線療法が奏功した場合,根治手術を行うか,そのまま経過観察するかも今後の大きな課題である.しかしながら,現状では化学放射線療法後の組織学的効果度を判定する手段は無く,患者に対する十分なデータ提示の上でのインフォームドコンセントが何よりも大切である.

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