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日外会誌. 102(11): 810-814, 2001


特集

肝臓外科における血行再建

6.肝癌における下大静脈切除再建の適応と手技

京都大学大学院 消化器外科

寺嶋 宏明 , 山岡 義生

I.内容要旨
肝癌における下大静脈切除再建の適応と手技について述べる.肝細胞癌は一般に膨張性発育を示すため下大静脈との剥離が可能な場合が多く,組織学的壁浸潤陽性例も低・未分化型肝細胞癌もしくは腺癌成分混在型がほとんどである.しかし炎症性癒着のみでも血管損傷の危険もあり,術中大量出血を回避する意味でも下大静脈合併切除の意義は少なくない.胆管細胞癌や腺癌の転移性肝癌では浸潤性進展が多いので,術前画像や術中所見で浸潤が疑われれば積極的に合併切除する事で予後の改善が期待される.
肝部下大静脈切除後の再建方法には単純縫合,パッチ修復,代用血管置換が選択される.パッチ片による修復では伸展性や扱いやすさから人工材料より自家静脈片がまさっている.全周置換には径や長径の調節性の広いリング付expanded polytetrafiuoroethylene(ePTFE)が用いられる.
肝上部下大静脈合併切除でside clampingが不可能な場合には全肝血行遮断total hepatic vascular exclusion(THVE)が必要となる. THVE時に循環動態の変動が著しい場合には体外循環を導入する.肝血流遮断時間が1時間を超える可能性が高い場合,体内肝冷却灌流,ante situm法,体外肝切除及び自家肝移植が適用される.肝静脈合流部下大静脈再建にはePTFEを用いるが,硬質のePTFEに壁の菲薄な肝静脈を直接吻合する場合,下大静脈Carrelパッチを用いて肝静脈吻合口を広くして吻合部の血流疎通性を維持する.別の選択として腎上部下大静脈の1分節を肝静脈合流部下大静脈に置換し,そこに肝静脈を吻合する方法がある.
下大静脈合併切除を要する肝癌は既に術後早期の遠隔転移や肝内再発の可能性を含んでおり,手術自体の侵襲性と患者の予後やQOLの両面を慎重に検討して手術適応を決定する必要がある.

キーワード
肝癌, 下大静脈切除再建, Total hepatic vascular exclusion, ePTFE


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