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日外会誌. 102(10): 778-782, 2001


特集

胃癌治療の最近の進歩と今後の問題点

9.胃癌に対する遺伝子治療の可能性と今後の課題

1) 日本医科大学 第1外科
2) 日本医科大学 第2生化

松倉 則夫1) , 恩田 昌彦1) , 島田 隆2)

I.内容要旨
胃癌はステージに応じた治療法が可能となっている.しかし,ステージIV胃癌に関しては外科治療にも限界があり,新たな治療戦略が求められている.遺伝子治療はこのような進行・再発胃癌特に広範リンパ節転移,腹膜播種の治療手段となる可能性を有する.遺伝子はベクターを使って導入されるが,遺伝子導入効率が高く,目的組織への特異的導入が可能で,副作用が少ないベクター,投与法を目指し改良が進んでいるが,まだ何れも現状では不十分である.癌の遺伝了治療で最も汎用されているのが,アデノウイルスベクターで自殺遺伝子を導入する方法である.この方法は導入効率が高く,導入部位の確実な細胞死が得られる利点を有する一方,肝に親和性があり全身投与では致死的な肝障害をおこす欠点がある.前臨床研究として,ビーグル犬にENNGで胃癌を作製し,内視鏡的に局注針で癌部にアデノウイルスベクターで単純ヘルペスウイルス(Ad. CAGHSV-TK)を導入後,抗ウイルス薬ガンシクロビル(GCV)で治療した結果は,原発巣の確実な組織変性と同時に所属リンパ節の完全な組織変性が得られた.この際,高力価のAd. CAGHSV-TK/GCV治療では肝障害を認めた.更にラットにMNNGで胃癌を作製し,開腹局注により同様にAd. CAGHSV-TK/GCV治療を行い経時的に組織変化を観察した結果,導入原発巣ではまずアポートーシスが誘導され,約1カ月で組織変性が完成した.これらの実験から,Ad. CAGHSV-TK/GCV治療はリンパ節に親和性があり,将来的に早期胃癌原発巣は内視鏡的粘膜切除術(EMR)で,センチネルリンパ節転移は遺伝子治療で行う内視鏡的治療が可能になると考えられる.腹膜播種の治療にアデノウイルスベクターの腹腔内投与では肝毒性が避けられず,(1)アデノ随伴ベクター(AAV)で腫瘍血管抑制遺伝子を筋注する,(2)腹膜播種を来した癌細胞に,in vitroでAd. CAGHSV-TKとサイトカイン遺伝子を導入,腹注しGCVで治療するなどの方法を検討している.(1)は遺伝子治療を用いた分子標的治療(tumor dormancy therapy)であり,(2)は自殺遺伝子と癌の特異的免疫の活性化を組み合わせた複合遺伝子治療である.基礎研究と臨床研究のインタラクションによりsurgeryと組み合わせたmolecular surgeryを確立することがend pointである.

キーワード
胃癌, 遺伝子治療, 自殺遺伝子, 分子標的治療

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