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日外会誌. 102(6): 453-458, 2001


特集

リンパ節の癌転移病態と至適郭清

2.リンパ節の癌転移病態
5)腫瘍外科の立場から

広島大学原爆放射能医学研究所 腫瘍外科

平井 敏弘 , 峠 哲哉

I.内容要旨
sm胃癌を材料にして,どのような症例においてリンパ節郭清を省略することができるかを分子生物学的な手法を用いて検討した.
核1個につき第17番染色体のシグナル数より,p53のシグナル数が少ない場合を欠失(deletion)と定義し,症例毎に欠失細胞の割合を算出しリンパ節転移との関係をみた.20例のsm胃癌について検討すると,欠失細胞の割合はsm胃癌では対照群と比較し有意な増加を認め,さらにリンパ節転移陽性例が陰性例に比較し有意な増加を認めた.欠失細胞の割合をみると,リンパ節転移陰性例に50%以上の欠失を示す症例は認めず,リンパ節転移陽1生例ではp53の欠失が30%以下の症例は認めなかった.ただし,30%から50%の欠失を示す症例(gray zone)が,リンパ節転移陰性例では10例中7例(70%),リンパ節転移陽性例では10例中4例(40%),全症例では20例中11例(55%)に認められた.
sm胃癌切除症例69例を対象にして,細胞周期調節因子であるp27Kip1(以下p27),cyclin E,p53,p21WAF1(以下p21)の発現と分化度およびリンパ節転移との関連について検討した.p27およびcyclin E高発現例にはリンパ節転移陽性例が有意に多く認められた.sm胃癌63例を対象にリンパ節転移との関係で有意差のでたp27,cyclin Eおよび細胞外マトリックス分解酵素であるmatrix metalloproteinases(MMP)-9が高発現しているか否かを3因子を複合して検討した.3因子が陽性であれば確実にリンパ節転移が陽性であった.しかしながらその確率はリンパ節転移陽性例19例のうち4例(21%)であった.逆に,3因子とも陰性の症例でも2例(11%)はリンパ節転移陽性例であった.
このような研究では,feedback mechanismと病巣におけるheterogeneityが臨床応用の障壁ではないかと考えている.

キーワード
早期胃癌, リンパ節転移, FISH, Cell cycle regulators


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