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日外会誌. 102(5): 403-408, 2001


特集

大腸癌肝転移に対する治療戦略-基礎から臨床へ-

8.サイトカインを用いた集学的治療

近畿大学 医学部第1外科

奥野 清隆 , 安富 正幸

I.内容要旨
肝はその類洞内にKupffer細胞はじめ独特のT細胞やnatural killer(NK)細胞を有する巨大な免疫担当臓器である.その臓器特性を考えて,われわれは大腸癌肝転移の治療にT細胞増殖因子であるlnterleukin-2(IL2)を主体とした免疫化学肝動注を組み入れた集学的治療法を施行してきた.その理論的背景と治療の現況,今後の問題点を解説する.癌治療に応用されるサイトカインのうちIL-2はT細胞,NK細胞などの抗腫瘍エフェクタ―の増殖とその活性の増強作用が知られていたが,1980年代,Lymphokine-activated killer(LAK)細胞の誘導因子として米国国立がんセンター(NCI)のRosenberg博士らを中心に欧米のみならず,わが国でも盛んに種々の進行癌に受動移入された経緯がある.われわれは生体内LAK誘導を目指して各種進行癌にIL-2脾動注を行ったところ,効率的なLAK誘導は困難であったが門脈中に高濃度IL-2が検出されて,転移性,原発性肝腫瘍に対して抗腫瘍効果が認められた経験があり,これはIL-2が肝局所免疫機能を高めた結果である可能性が示された.そこで大腸癌肝転移に対して肝切除施行後にIL-2とmitomycin C(MMC),5-fluorouracil(5-FU)を併用する免疫化学肝動注を行って残肝再発予防を試みたところ20例のパイロットスタディでは最長例は10年以上,平均観察期間も5年以上を経過したが,これまでのところ完全に残肝再発を抑制することが出来ており,5年生存率も78%と極めて良好である.ことに異時性肝転移では他病死を除けば全例生存中でありstepwise pattern theoryを支持する結果といえる.一方,同時性肝転移では肝転移を抑制できても肺転移など他臓器転移が起こり,必ずしも生存期間の延長には寄与しないことも判明した.今後は本法を多施設共同無作為化試験にて追試するとともに同時性肝転移に対する全身療法の併用を検討していきたい.

キーワード
大腸癌肝転移, 肝局所免疫, サイトカイン, 免疫化学肝動注, 集学的治療

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