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日外会誌. 102(3): 282-287, 2001


特集

外科学-新しい潮流

II.Tissue engineering
2.再生医療への展望

京都大学再生医療科学研究所 器官形成応用講座

井上 一知

I.内容要旨
Tissue engineering研究は13年前に始まったばかりであるが,3つの因子,すなわち細胞,増殖・分化調節因子及び足場を提供するマトリックスから成りたっている.Tissue engineeringと再生生物学の2つの柱で構築されている再生医学は近年急速な進展をみせ,その研究対象も体のほぼ全組織・臓器を網羅するに至っている.再生医学のキーワードは「細胞」にあり,「機能障害や機能不全に陥った生体組織・臓器に対して,細胞を積極的に利用することによりその機能再生や再構築をめざす研究分野」と定義づけられよう.再生医療は,再生医学の研究成果に基づいて開発・実施される医療のことである.再生医療は,再生医学を構成するtissue engineeringや再生生物学の種々の領域に加え,基礎医学や臨床医学における関連領域,さらには生命倫理学・法律学・医療経済学等の実に幅広い領域を包括する.再生医療の治療方式は,移植治療・再生誘導療法及びその他の治療法に分類される.
現在,再生医学研究の対象臓器の中において骨髄造血系・皮膚・軟骨・肝臓(体外循環型バイオ人工肝)及び膵臓(膵島細胞移植)に関しては,すでに再生医療としての臨床応用が実施されている.21世紀における再生医療は予測もつかないような目覚ましい発展を遂げるものと考えられるが,その中でも,自己複製能と多分化能を有する幹細胞や,胚性幹(ES)細胞に関する研究の進歩が注目を浴びている.最近,神経幹細胞・骨髄細胞・膵管上皮細胞や,ヒトES細胞の分化に関して新しい知見が得られつつある.再生医学の秀れた 研究成果を実用化するためには,知的財産管理・臨床試験計画のコーディネートやバイオベンチャー企業への支援を強力にサポートする体制を作る必要がある.再生医療の進歩が人類の幸福に寄与するところは極めて大きいが,われわれは常に高い倫理感・使命感を持って再生医療に取り組む姿勢を忘れてはならない.

キーワード
Tissue engineering, 再生医学, 再生医療

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