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日外会誌. 101(11): 778-781, 2000


特集

救急医療における中毒医療の現況

5. 薬・毒物分析の現状と分析部門のあり方

防衛医科大学校病院 救急部

岡田 芳明

I.内容要旨
1995. 3. 20. 東京地下鉄サリン事件,1998. 7. 25. の和歌山毒カレー事件,1998. 8. 10. の新潟アジ化ナトリウム混入事件を通じて明らかになったことは,我が国では医療の為の薬・毒物分析が極めて貧弱な状況にあるという事実である.一方では高い分析能力を有する機関がありながら,それが医療現場に活かされないのは何故なのか.突き詰めれば,目的意識を欠如した,極端なまでのセクショナリズム,すなわち我が国の文化的風土の問題になるのかも知れない.薬・毒物が関与した犯罪の多発が深刻な社会問題となっている事態を受けて,政府は毒劇物対策会議を設け,1998. 11. に報告書を提出した.この報告書を受けて,厚生省は全国の救命救急センターに高速液体クロマトグラフや蛍光X線分析計などの高価な分析機器を申出でに応じて重点的に配備した.しかしながら,新たに分析担当者を養成しその任に当てなければならない点,機器を稼動する為の経費が予算化されていない点,さらに稼動させたとして臨床現場に還元できる件数がどの程度あるのか,検査結果の精度を誰が保証するのかなど,運用上の問題が山積し,旨く稼動している施設は数少ない.和歌山毒カレー事件では,当初食中毒と言明し,後にシアンによる中毒との情報を検出から11時間後,4名の死者が出てから公表し,後日これが亜ヒ酸による中毒であったと判明した.この過程で少なくとも三つの誤りを犯しているが,これらの点を正しく総括し,地道に対策を立てていくことこそが薬・毒物分析のあり方ではないかと考える.

キーワード
科学警察研究所, 毒劇物対策会議, 救命救急センター, 分析機器

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